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46 別れは唐突に



 領主の食堂で座っていると、それほど待たずに領主が姿を現した。バグルドなんとかかんとかと名乗った領主は、まずは食事を楽しんで欲しいと手をたたいた。その合図で、次々と食事が運ばれてくる。一品ずつ運ばれては食べてという形ではなく、運ばれたたくさんのものの中から自分が食べたいのを取って食べるようだ。ま、自分ではとらずにとってもらうんだけどね。


 私は近くにいたメイドに肉料理を頼む。メイドはすぐに肉料理を小皿にとって、目の前においてくれた。そのとき、彼女の首にぐるりと一周赤いあざが見えた。そのあざは植物のツルのようなあざで、彼女が奴隷であることを示していた。


「あぁ、それはワシのものでして、5年は使っていますな。勇者様も最近購入されたと聞きました。便利でしょう、奴隷というのは。」

「そうですね。まさに望んでいた人でした。」

 私は左腕に触れた。そこには、今は見えないがルトの主だという証がある。この証は、主に施すときと外すときに熱をもって、目に見える形に現れるそうだ。


「奴隷はまさに麻薬ですな。一度使うと、もう奴隷以外使う気が起きないのです。ワシなど、執事から側近まですべて奴隷にしましたわ。」

「奴隷にした?」

「えぇ。奴隷を買っても即戦力とはなりませんから、その時持っていた戦力を奴隷にしたのです。いろいろ手を使いましてね。興味がおありですか?」

「気になりますね。」

「簡単な話です。奴隷にしたいものに罪を着せたり、借金をさせて首が回らなくしたりなど、方法はいくらでもありますよ。奴隷にも種類がありまして、今あげたのは犯罪奴隷、借金奴隷ですな。ここら辺が、相手を奴隷に落とすのは妥当かと。」

「よく、うまくいきましたね。」

 これがよくない噂ということだろうか?こんなことをした男がのうのうと今も貴族をやっているなんて、この国は大丈夫なのかと不安になる。


「勇者様も、どなたか奴隷にしたい方が?」

「!」

「いるようですな。ワシでよければ力になりますぞ?」

 奴隷にしたい人。奴隷にすれば、信用できるから、信用したいからと浮かんだ顔。だけど、奴隷に落とすなんてこと、していいわけがない。


「ありがとうございます。でも、私にその気はありません。」

「それは目をそらしているだけでしょう。あなたは誰かを思い浮かべたはずです。何も悪いことではありません、人間として当然ですよ。誰しも、大切な人から裏切られるのは怖いですし、離れることも苦痛です。」

「・・・そうかもしれません。でも、今は・・・」

「あぁ。焦らせてしまったようですね。これは申し訳ないことをしました。どうぞ、じっくりゆっくり考えてください。ですが、早いことに越したことはありませんよ。状況は変わっていくものですから。」

「そうですね。私がいい例です。いきなり勇者だとか、貴族だとか言われて・・・すみません、こんな話をするつもりはありません。そういえば、今日はなぜ呼ばれたのでしょうか?」

「直球ですな。それは、ワシが勇者様と親睦を深めたかったからです。と、今は言っておきましょうか。」

「他にもあるということですね?」

 まさか、私のことを奴隷にでもする気だろうか?でも、力の無い勇者に価値はあるのか?いや、移動魔法が使えるところに目を付けたのかもしれない。とにかく気を付けよう。


「勇者様については、会える機会があればお会いしたいとは思っていました。実際会って、なかなかに興味深く、もう少しワシを楽しませていただければと思いますよ。」

「楽しませるですか。面白い話の種など持っていないのですが・・・」

「では、私が質問させていただきましょう。そうですね・・・クリュエル城での出来事をお聞かせ願いませんか?」

 クリュエル、その単語を聞くだけで、何もかも冷え切っていく。口に運んだ肉料理がまずく感じた。


「質問を質問で返しますが、どのように聞いているのですか?」

「そうですね、公式ですと勇者様は向こうで不当な扱いを受けていたとか。そして、ある日クリュエル城は何者かに落とされ、わずかな生き残りの中の一人が勇者様だと聞いております。」

「それが事実です。そういえば、クリュエル城を落とした者は、死神ピエロと呼ばれているそうですよ。」

「あぁ、それも聞きましたよ。ま、これが公式の話で、別に噂が流れています。」

「へぇ、それは気になりますね。どんな嘘が流れているのか。」

 私が城を落とした事実が流れていたとしても、証拠はない。あるとすれば、あの殺人鬼だが、彼は何も言わない気がする。

 だから、何を言われても公式の発表が真実だと突っぱねる気だ。


「勇者は死神を呼ぶ。」

「え?」

「なーんてうわさがね、結構広く流れているんですよね。最初はあなた自身が死神だといううわさが流れていましたが、最近の主流はあなたが死神を呼ぶという噂です。どうやらデマのようですがね。」

 私の表情を見て納得した様子で、ウィンクをする領主。お茶目だな。


「どこの世界も、人はうわさ好きですね。特に、嘘は流れやすいようです。」

「そうですな。では、次の質問と行きましょう。」

「どうぞ・・・っ!?」

 突然、左腕が熱くなり、私は腕を抑えた。


「どうかいたしましたか!?」

「熱い・・・これは!?」

 袖をめくってみてみれば、腕には奴隷に刻まれるような赤いツタの証が現れていた。そして、ツタが切れるような動きをして、証も熱も消えた。


「・・・え?」

 頭が真っ白になる。なんで、ルトとの証が。いや、説明されたはずだ。これは・・・


「契約が切れたようですな。こんな唐突に切れるということは、おそらく死んだのでしょう。」

「・・・」

 そう、私か奴隷が死んだとき、この証が消えると言っていた。私は生きている。なら、死んだのは・・・


 脳裏で、ルトがやさしく笑い、私の名を呼んだ。


 サオリ様




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