47 忠誠
「おいおい、サオリはさっきまで意識がなかったんだぞ!?そこんとこ、プティはわかっているんだろうなっ!」
ドンっと、プティの部屋に机をたたく音が響いた。ちょうどティータイムを楽しんでいたところだったので、茶器が揺れて音を立てる。
「目は覚めたんでしょう?それに、大丈夫とも言っていた。何か問題があるのかしら?」
「お前!」
「これくらい役に立ってもらわなければ、困るのよ。」
プティは、魔法でアルクの口を封じた。
「戦闘の役に立たない、移動の役にも立たない・・・何のための勇者よ。せめて、煩わしい貴族との相手くらい任せてもいいんじゃないかしら。」
「!?・・・!」
「それは、あなたも同じではありませんか、王女様。」
「リテ・・・」
「あなたは移動の役に立っていませんし、昨日のことがあって思うところもあったのではありませんか?あぁ、だからこそですか。そのいら立ちを、サオリさんにぶつけているのでしょうか?」
「そんなことはないわ。あなたたちもいずれわかるわよ。とにかく、今は出て行ってちょうだい。」
「・・・サオリさんが何も言わなかったのです。今日のところは目をつぶりましょう。行きますよ、アルク。」
「・・・」
「待ちなさい。ルトはどうしたの?」
「・・・」
「あぁ、魔法を使ったから話せないのね。解除したわ。」
「あー、あ。ルトは、今も外で剣の素振りをしている。」
「・・・伝えていないの?サオリが領主の屋敷に行くことを。」
「伝えたけど、そうですかって言って、そのままだ。あいつ、なんかちょっと変だよなー。」
「・・・そう。」
それから2人がプティの部屋から出て行き、数時間後ルトがこの部屋に呼ばれた。
「よくきたわね。2人まで来ることはなかったけど、まぁいいわ。」
「何を企んでいるのか。サオリさんがいないうちに、何をしようというのです?」
「マルトーもそっち側ってことか?」
「そっち側も何も、俺たちは仲間だろ?いいかげん、そういうのやめろよな。昨日瞬殺されたのは、連携が取れていなかったっていうのも、あると思うぞ。次は、本当に殺されるかもしれね。」
「あなた方がサオリさんを傷つけようと、しなければいいことです。それさえなければ、私たちは仲間としてもっとうまくやっていけます。」
「その話は後にしましょう。ルト、ここに座りなさい。」
「はい。」
机を挟んで、対面するようにプティとルトは座った。
「今日はあなたに聞きたいことがあるの。わかるわね?」
「・・・昨日のことですか。」
「そう、昨日あなたが見たものを、そのまま教えてほしいの。四天王がどうやって倒されたのかとか、どうやって四天王から逃れたのかとか。」
「プティ、やめろよ。話せるわけがないだろ。」
「アルク、黙ってな。お前たちも、さすがに昨日の話を信じるほど馬鹿じゃねーだろ?」
「それは・・・だが、ルトは話せないぞ。」
「どうなのかしら?」
プティが話すように促せば、ルトは表情を変えずに淡々と答えた。
「話せますよ。昨日サオリ様が言ったことがすべてですと。」
「・・・なら、質問を変えるわ。あなたたち以外に、誰がいたのかしら?」
勇者が死神を呼ぶ。その噂はプティの耳にも届いており、それがもし真実なら四天王を倒したのは死神ではないのかと推測したのだ。
「・・・さぁ。サオリ様にお聞きしてはどうでしょうか?」
「いないと否定はしないのね。ふーん。」
「もういいでしょう。いい加減にしてください、王女様。」
「まだ2つしか聞いていないわ。それに、何の答えにもなっていない。」
プティは立ち上がって、ルトの前に立った。
「サオリの能力、他にもあるのでしょう?」
「・・・サオリ様の能力は、移動魔法ですよね。昨日見ました。それ以外に何があるんですか?」
「そうね、たとえば召喚魔法とか。・・・あぁ、でもこれこの世界にいる人物なら、移動魔法があればいらないわね・・・」
「サオリの魔法がどれだけの距離使えるかによっては、代用できねーけどな。」
「距離ね。ルト、サオリの魔法はどれだけの距離を移動できるのかしら?昨日は森の奥から出口まで移動して、時間も一瞬のように感じたわ。」
「知りません。」
「サオリに話すことを禁じられているの?」
「・・・」
「ま、そうでしょうね。だから奴隷を買ったのでしょうし。あの子、国の力になりたいと言っていたけど、そんなの真っ赤なウソだったのね。」
「どういうことだ?」
「マルトー、わからない?国に真に貢献したいと思うなら、自分の力を国に明かすべきだわ。だって、サオリの能力については、なぞが多いし戦闘に役立つ能力ではないのですもの。個人でその能力の有効活用を考えるより、多くの頭に考えさせるべきだわ。」
「信用されなかったのですよ。僕たちも国も。」
「リテ。そうね、でも国は手厚く保護をしたわ。力の無い勇者に貴族位を与えて、生活の保障はした。それに報いるべきではなくって?」
「だから、サオリさんは今、魔王討伐の一員にいるのです。それが彼女の精一杯なのでしょう。」
悔しそうに話すリテに続き、アルクもサオリを擁護する。
「最初に召喚された国が、クリュエルだったんだ。プティは聞いていないのか?サオリがされた扱い、俺たちが駆け付けた時の惨状を。囚人、いや・・・人の扱いを受けていなかったんだよ、サオリは。それでこの世界の人間が信じられると思うか?」
「報告は聞いているわ。それで、あなたたちは納得しているの?心から使えている主人に信用されないという、悲しい現状を。」
「・・・!」
「・・・っ!」
その言葉で、2人の顔がゆがんだ。
「上に立つものとして、サオリは失格ね。さて、ルト話を戻すわ。あなたの首輪があなたの言動を妨げているのなら、それを断ち切ればいいだけの話。」
「何をする気ですか!」
「解放よ。」
そう言って、魔法を発動させたプティは、ルトの首に触れた。
「くっ・・・」
ルトは首を抑えて、うずくまる。熱さに苦しんでいたルトだが、それも数秒で終わった。呆然とする彼の首には、もう奴隷の証であるあざがない。
「成功したようね。では、話してもらいましょうか。昨日何があったか、サオリの能力について・・・あなたの知っているすべてをね。」
「・・・か。」
「何?よく聞こえなかったわ。」
ルトのそばにしゃがんだプティを、ルトは嫌な笑いを浮かべて見た。愚かなものをあざ笑うような彼を、誰も知らない。
「誰が話すか。この性格ブス女。」
「・・・はい?」
あまりの豹変っぷりについていけない様子のプティを笑うルト。
「僕が、サオリ様の奴隷ではなくなったとしても、サオリ様への忠誠は変わらない。そんなの、日頃の僕を見れば誰でもわかるだろ。バッカじゃねーの?」
「・・・あなた、ルトよね?」
「誰に見えんだよ?あー、口調が変わったせいか。僕だって、奴隷がどういうのかわかっていますんでね、猫をかぶっていたと言わけですよ、王女様、ぷっ。」
「嘘だろ。」
目をこすって、何度も確認するアルクの手をリテが止めた。
「そんなにこすっては赤く腫れますよ。ところで、少々耳がおかしくなってしまったようでして、病院に行ってきます。後は頼みましたよ。」
「あ、俺も目がおかしいと思うわ。ついでに見てもらう。」
「まてまて、お前ら。お前らはどこも悪くない。お前らが悪いならおらの目も耳も悪くなってるはずだ。本人の言ってた通り、猫をかぶっていたんだろう。」
「嘘だと言ってくれ・・・俺のかわいい弟分。」
「はー・・・出来の良い教え子が・・・」
それぞれ肩を落とす状況の中、部屋の外から何かを破壊するような大きな音が聞こえ、同時に強い殺気を感じた。その状況でそれぞれが我に返って臨戦態勢になる。たった一人、ルトを除いて。
「近づいてきているな。俺とリテで相手をする。マルトーはプティを守れ。」
「ここじゃ、俺の武器は大きすぎるからな。頼んだぞ、2人とも。」
「何を構えているのか。あんたらが売った喧嘩だろ。」
「どういう意味よ?」
叫ぶプティに、ルトは笑って返した。すぐにわかるとでもいうように。
バンッと扉が外れるのではないかというほどの力で、扉が開かれその正体がすぐにわかった。
「ルトっ、無事!?」
「はい、サオリ様!」
先ほどの生意気さはどこに行ったのか、素直にいつも通りに答えるルト。現れたのがサオリという衝撃も相まって、4人はすぐに声が出せなかった。
「よかった。死んだのかと・・・はー。」
「心配してくれたんですね。僕、うれしいです。」
「それは、心配するよ。あー・・・とりあえず帰ったら聞くね。領主にお花摘みに行ってきますって言ったから、そんなに時間ないし。」
脱力した様子のサオリに先ほどの殺気は皆無。4人も落ち着きを取り戻し、サオリに声をかけようとしたが、サオリはそれよりも先に移動魔法で消えた。




