転がる妖怪!
「妖怪退治屋だと、ごたいめ~~ん……」
「その通り、あたしは人呼んで、赤い炎の翼! 紅羽参上!」
若侍姿に長い髪をうしろで丸打ち紐でくくった、現代でいうポニーテールである総髪の、凛々しい女剣士風の美少女が紅羽だ。背後に炎の中を飛ぶ赤い朱雀の幻像が出現。
「……同じく、氷原の龍の牙! 竜胆推参じゃ」
雪のごとき白い肌に、神秘的で切れ長の瞳、額の前髪を切りそろえた目刺し髪、横髪をアゴのあたりで切りそろえた鬢削ぎ、長い黒髪を背中に垂らした美女が竜胆だ。背後に氷原に渦巻く白龍の幻像が浮かぶ。
「花園に舞う風! 黄蝶参上なのですぅ~~~~」
長い髪を二つ結びにしているが、通常と異なり結ぶ位置が耳の上で、現代のツインテールのような髪型をし、小柄で溌剌とした元気な美少女が黄蝶だ。背後に花園に舞い飛ぶ五色の蝶の幻像が映る。
「「「天魔忍群くノ一衆参上!」」」
紅羽と黄蝶がドヤ顔で歌舞伎のように見栄をきる。しかし、竜胆は恥ずかしげにモジモジした。
「ううぅ……なぜ私がこんな恥ずかしいマネを……」
「いいかげん慣れろよ、竜胆……」
「恥ずかしいではなく、格好良いと思うのですよ!」
「いやいや黄蝶……それはちょっと……」
三人でごちゃごちゃと揉める妖怪退治屋に、五体面は顔を朱に染め、口をへの字にまげてお冠だ。
「退治などされないめ~~~ん!」
妖怪五体面が大きな口をすぼめて、水流のごとき液体を噴射した。雫となって紅羽、竜胆、黄蝶にふりかかる。
「うぎゃあぁぁ……何よこれ……臭っ!」
「ぐちょぐちょのネトネトですぅぅ……」
「文字通り、体面を汚されたのじゃ……」
大首妖怪は大量の唾液を吐き出したのだ。悪臭と不快な肌触りに、女忍者たちの士気が低下し、妖怪五体面はゲラゲラと嘲笑う。怒りの反撃に出ようとした女忍者たち。が、その足がピタリと地面にくっついて離れない。
「足が地面から離れないですぅぅ~~~」
「しまった……ただの唾液ではなく、鳥黐のごとき粘着弾じゃ……」
「女の子を粘液まみれにするなんて、スケベ妖怪は金輪際ゆるさない!」
屈辱に身を焼き、怒り心頭の紅羽が太刀を青眼に構え、臍下丹田に気力を集める。紅羽の肉体の周りに赤き陽炎がメラメラとたちのぼる。神気の陽炎の熱が三人を捕えた粘着弾を溶かしていく。
「ここからはあたし達の反撃よ……天摩忍法・火鼠!」
赤い陽炎のごとき神気が太刀に集まり、気弾となって妖怪五体面に放たれた。天摩忍法・火鼠は本物の火炎ではなく、〈神気〉で練られた生体エネルギー弾だ。〈神気〉とは、万物の元になる気のことだ。〈神気〉は人間をふくめすべての動植物が持つエネルギーで精神力、気力ともいう。
〈神気〉は生命活動のエネルギー源であり、おへその下にある臍下丹田にこれをため、人体にある十二本の神気の通路〈径脈〉を通して全身に元気を与える。逆にこれがないと元気がなくなるのだ。
「ぐあああああっ!!」
出鼻をくじかれた五体面が悲鳴をあげて身をよじる。額に火傷したような火ぶくれができた。妖気の塊である妖怪や、霊気の集まった怨霊・幽霊は物理攻撃に強いが、生命の源である神気の攻撃に弱いのだ。妖怪五体面はふたたび唾液を噴射すべく、口をすぼめる。
「その手はもう喰らわぬぞっ! 天摩忍法・吹雪!」
竜胆の全身に青い神気が輝き、周囲に雪の結晶が降りはじめた。薙刀を水平に切り結ぶと、五月の初めだというのに白い吹雪が大首妖怪に降り注いだ。妖怪の吐きだした漏斗状の唾液が白い氷細工となって固まる。夕陽にキラキラと輝く唾液氷は地面に落下して粉々になった。
「氷が解ける前に……天摩忍法・風塵なのです!」
黄蝶が黄色い陽炎をまとい、円月輪を両手にかざし、御神楽のように舞い、羽ばたく。すると周囲に旋風が発生し、地表の塵埃などとともに転がる唾液氷を巻き上げ、氷の礫として巨顔妖怪に射出された。
「いでででででで……もう、本気で起こっため~~~ん!」
大頭妖怪五体面は、手足を体にひっこめて、巨大な頭だけになると、ゴロンゴロンと妖怪退治人に転がっていった。坂道を転がる直径三丈もある大首が紅羽たちを引きつぶすべく突進してく。
「ぴえ~~ん! このままでは潰されるのですぅ!」
「なんのその手は桑名の焼き蛤ってね……」
紅羽の合図で三人の女忍者は横の茂みに飛んで、妖怪の突進を回避した。五体面はこのまま坂の下にいくかと思われたが、途中で急停止し、坂道をボンボンと蹴鞠のように跳ねて戻ってきた。
「ごたいめ~~~ん!」




