第10話 不安
皆様のおかげで
何とか…10話まで書くことができました。
ニッチな題材…ニッチな機体…ニッチな内容(汗)
それでも読んでくださる皆様には
本当に感謝しております。
今後も、水曜、金曜、日曜に更新予定です。
これからも頑張って執筆していこうと思いますので、
よろしくお願いいたします。m(_ _)m
―――頭上から敵機が迫る。
操縦桿を目いっぱい引く。
だが、機体は思うように反応しない。
「くそ! 動け! 動けー!!」
敵機の翼が陽光を受け、眩しく瞬いた。
「――あぁっ!!」
ガバッと起き上がる。
「……最悪の目覚めだな、まったく」
服は寝汗でべっとり濡れていた。
周りを見回すと
新米が両手を前へ突き出して眠っている。
「……あいつは何やってんだ?」
不思議そうに見ていると
両手を左右にゆっくり動かし始めた。
指先までピクピクと動いている。
「……弾を当てるには……心を……ムニャムニャだべ……」
「……ふっ。あいつも夢の中で戦ってるのか」
思わず笑みがこぼれた。
ふと腕時計を見る。
十一時。
「……だいぶ寝ちまったな」
あの空戦は
それほどまでに身体を削っていたらしい。
どうすれば勝てるのか…夢から覚めても
そのことばかり考えていた。
「……旦那、おはようごさいますなす。なじょしたとですか、そんなに手ぇくねらせて?」
寝ぼけ眼をこすりながら、新米が起き上がる。
「ああ、これか?」
エースは両手を前へ出した。
「左手が俺たち。右手が敵だ」
「ふむふむだべ」
「俺は逃げる時に――」
左手を少し傾ける。
「こんな風に機体を傾けて上昇したり、もっと傾けて垂直に旋回したりするんだけどさ……この傾くまでが、前に乗ってた九六艦戦と違うんだ」
「違うんだべか?」
「そう。傾く速さ――ロールレートが遅い。ワンテンポ遅れて傾く感じだ」
「……ろーるれーと?」
「飛行機はさ、曲がる前に、まず翼を傾けるだろ?」
エースは左手をゆっくり傾けて見せる。
「この『傾き始める速さ』のことだ。九六艦戦なら、操縦桿を倒したらスッと傾く。でも零観は『よいしょ』って感じで、一拍遅れて傾くんだ」
「ふむふむだべ」
「その一拍が命取りになる。昨日も逃げようとした時、その遅れでやられそうになっていた」
「だから旦那、あんなに苦労したんだべか」
「そういうことだ」
「なんで遅いんだべな?」
「多分、フロートとか余分な物が付いてるからだろうな。その分、どうしても動きが鈍くなる」
「でも旦那、結構ぐるぐる回るって言ってたっけよね?」
「ロールし始めたら速いんだ。旋回そのものは悪くない」
「ふーん……」
新米は腕を組み、少し考え込む。
「傾けずに…避ける…だべか…」
首を傾げながら…何故か飛び跳ねている。
「だったら、鹿みてぇに横っ飛びできねえべか?」
「……横っ飛び?」
「たまにいるんだす。真っ直ぐ逃げてんのにぃ、いきなし真横さ飛ぶ鹿が。あれやられっとー、弾が当てられんのです」
「そんなこと出来る……わ……け……」
言葉が止まる。
脳裏に昨日の空戦が蘇る。
機首の向きを変えずに――。
ラダーを強く蹴り、機体を意図的に横滑りさせる。
軌道だけを、横へずらす。
そこで一旦時間を稼ぎ…ロールさせれれば…
「……これなら!」
エースは勢いよく立ち上がった。
「お前! 凄いな! 流石だ!」
「……??? 鹿がなんかあったべか?」
「大ありだ! ありがとう!」
「はあ……これで良かったんだすべか?」
新米は何が起きたのか分からないまま
きょとんと首を傾げていた。
そこにチーフが入ってきた。
「起きてすぐ反省会か!熱心やなぁ! 感心、感心! ただなぁ、腹が減っては戦は……何とやらや! もう昼やしな」
チーフに連れられ、昨日と同じ机に向かう。
おにぎりに、味噌汁、漬物。
「おら、九州の兄貴の味噌汁、大好きだ!」
新米がすぐに席につく。
「いただきます!」全員で合掌。
「整備長、機体はどうですか?」
「もう大丈夫や! 燃料入れたら試運転できるわ」
「もう直したんですか!?今日は無理って…」
驚いて味噌汁をこぼしそうになる。
「誰やとおもっとんのや!おれら二人やったらあんくらいの傷、すぐに直したる!」
「そうですか!ありがとうごさいます。ただ……1つ気になる事があって……」
「ん? なんや、言ってみぃ」
「基地の近くで接敵してるでしょう。近くに敵の基地があるのかな…って。敵はどれくらいの距離飛べるんですかね?」
横では新米が、味噌汁をおかわりしている。
寝起きなのに良く食うやつだ。
「そやなぁ……俺もそこまで詳しくないが……。昔、ドイツから飛行機貰ったことあったんや。それを見に行かされたことがあるんやわ」
「ドイツ、ですか!? でもなんで!?」
「ん? ドイツの機体も水冷やったからなぁ。水冷の整備しとったから、見てこい!って言われてな」
「水冷! 整備してたんですか!?」
「ボン、九四式水上偵察機って知らんか? こいつの大先輩やけどなぁ。あれ水冷やったんやわ。まぁ、後から空冷に、変わってしまうんやけどな」
新米が、またおかわりしている。
あいつの小さな体のどこにそんなに入るのか……。
「それでな、そのドイツの機体なぁ……メッサー……」
「なんちゃらですか(笑)」
少し意地悪く聞いてみる。
「アホ! 覚えとるわ! メッサーシメットや!」
「……チーフ……シュミットたい……」
チーフの顔が赤くなってゆく。
「……お、おう! そう、メッサーシュミットや!
そやそや…。えぇーツッコミや! 試してたんやがな!腕あげたなぁ九州!しかも噛んだだけや!」
バンバンと九州の肩を叩いている。
九州も苦笑いだ。
「でな! せいぜい飛んでも700キロ位やと思うわ。せやから、イギリスの機体も同じ位ちゃうかなぁ?」
「700キロ……ウチのやつより飛べないんですね」
「欧州は陸続きやからな、そんなに飛ばんでもえぇんのかもな。でも、なんでや?」
「近くに敵の基地があったりしたら、面倒だなと」
「確かになぁ、行動半径内でこの基地見つかったら、ちとアカンなぁ。ここら辺もオーストラリア軍が増えてきとるからなぁ…」
「オーストラリア?ここら辺て…イギリス領ですよね?」
「ん?そうやここは元々イギリス領や、南に行けばオランダ領。で、敵さんはオーストラリア。ゴチャゴチャしとるやろ」
「オーストラリア軍は、どんなマークなんですか?」
「青丸の中に白や。イギリス機はその中に赤や」
昨日見た機体…赤丸なんてあったか?
…と、考えていると。
「昨日ヤツは、赤丸なんて無かっただよ」
「だよな…無かったよな」
「うんだ!」
てっきりイギリス軍機だと思っていた。
少し勉強しなくては。
「なんや、ボン…頭良さげなんに、なんも分かっとらんなぁ」
チーフが笑っている。
確かに…あまり分かっていない。
「とりあえず…試運転と並行して、周辺を偵察してきたいと思います」
「よっしゃ!ほな準備しとくわ。九州! 飯終わったら機体にも飯(燃料)喰わすで!」
そう言うと…
おにぎりと漬物を味噌汁にぶっ込み
一気にかきこんで、出ていってしまった―――
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次回は7月8日13時30頃 離水予定です。




