表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話「その設定、全部ガチだった」

黒羽澪(くろばねみお)は痛い。


それがクラスの総意だった。


「…来るな。今はまだ、封印が不安定だ…邪眼の力で抑え込むしか--」


 朝のホームルーム前。


教室の一角で、彼女は窓の外を睨みながらそう呟いた。


右目は眼帯、左腕には包帯を巻き、制服の上からは黒いコートを羽織っている。


窓から入ってくる風が、彼女の長髪を揺らしている。


「今日も始まったよ」


「ほんと無理なんだけど」


ひそひそと笑う声。


露骨に距離をとるクラスメイト。




でも--




(その設定、嫌いじゃない)


俺、咲凪悠斗(さなぎゆうと)は内心でそう呟いた。


中学時代、俺は右手に包帯を巻き、


「我が魂に眠る黒き龍よ、解き放たれよ…!!」


とか本気で言っていた過去を持つ。思い出すだけで死ねる。


しかし、邪眼というものは響きがいいな。


人によっては魔眼の方がいいという意見もあるだろう。


正直俺はどっちも好きだ。


なんなら左右で邪眼と魔眼という設定でもいい。




そう、俺は元厨二病。


流石にもうやらないが、あんな感じのものを見ていると


少しだけ、本当に少しだけテンションが上がってしまう。





程なくして担任が教室に入ってきてホームルームが始まる。


朝のホームルームでは、席替えを行うことになった。


決め方はシンプルにくじ引きだ。


(ま、正直黒羽の隣以外ならどこでも…)


恐らく全クラスメイトが思ったであろうことを考えながらくじを引く。


そして黒板に張り出された座席表を見て絶望する。



そう。俺の隣の席の位置に、黒羽澪の名が書き記されていたのである。


「終わった…」


思わずそう呟いてしまう。


だが、決まってしまったものは仕方がない。


周りを見ると、ほかのクラスメイトは皆安堵の表情を浮かべている。



机を黒羽の席の隣に持っていく。

すると


「やめておけ…」


「え?」


低く、静かな声で彼女が言った。


「我の隣は、”安全圏”ではない」


「いや、そう言われても席替えだし…」


教室に静かな笑いが起きる。


俺はため息をつきながらも黒羽の隣の席に座る。


「とりあえず、よろしく」


一応そう声をかける。


「ナイトメアの異名を持つ我に臆さぬとは。ふっ。おもしれ―男」


「おもしれーのはお前だけどな?」


これが、俺と黒羽の最初の会話だった。





授業中。



黒羽はノートをほとんど取らない。


代わりに、意味深な単語をノートの端に書き連ねている。


『終焉因子』『観測者』『世界の歪み』



(設定、すげー凝ってそうだな…)


元厨二病としてこれだけはわかる。


ここまでやるのは相当ガチだ。


当時の俺もさすがにノートは取っていた。

まぁ、意味深な単語も書き連ねていたが。



結局、授業中に黒羽がノートをとることはなかった。



問題が起きたのは放課後だった。


「やべ、弁当箱忘れた」


下校途中、忘れ物に気づいて俺は教室に戻ろうとしていた。


裏門から入り、校舎に向かう途中、校舎裏を通り過ぎようとした直後


「…やはり来たか」


声がした。

黒羽澪の声だ。


少し戻って校舎裏に視線を向けると、黒羽澪が立っていた。


「あいつ、何してんだ?」


少し興味がわいた俺は、黒羽の方へ歩みを進める。


「来るな」


鋭い声が俺の方に発せられる。




その瞬間、空間が歪んだ。


「はぇ?」


目の前の景色が、ぐにゃりと曲がる。


俺の前には、人ではない、黒い靄のかかった”何か”が3つ、現れていた。


ぞわり、と背筋が粟立つ。


脳が理解を拒否する。


これは現実じゃない。


こんなものが存在するはずがない。


「…本来ならば、一般人に見せるつもりはなかったが…」


黒羽が静かにつぶやき、眼帯に手をかけ、外す。


その下にあったのは、赤く輝く目。


黒焔の魔女(ナイトメア)の名のもとに、汝に裁きを与えよう!」


その瞳は、先刻までの”痛いクラスメイト”のものじゃなかった。


黒き深焔(ノワール・フレイム)!!」


次の瞬間。


視界が、黒い炎で覆いつくされた。





--数分後。


気が付けば、いつも通りの風景だった。


まるで、何もなかったかのように。


「俺、疲れてたのか…?」


そう呟いた時。




「…見たな」


すぐ隣から声がした。


驚いて視線を向けると、黒羽澪が立っていた。



いつも通り眼帯や包帯を付け、コートを羽織っている。


いつもの痛い見た目だ。


しかし、その目はまっすぐに、俺を見ている。



「ならば選べ。今の記憶を消し去り”無かったこと”にして日常へ戻るか」


一歩、近づく。


「我とともに、この世界の裏側をみるか」


心臓が、嫌な音を立てる。


分かっている。


普通なら、前者を選ぶか、そもそも相手にしない。


関わるな、忘れろ。それが正しい。





でも。


「いや、無理だろ」


俺は苦笑した。


「今の見て、”はい、忘れます”は無理だって…」


黒羽の瞳がわずかに揺れる。


「あれ、”設定”じゃなかったんだな…」


「当然だ」


少し、ほんの少しだけ、誇らしそうに笑った。


「我は嘘などつかん」


その笑顔が、俺の心の深いところに、刺さったような感覚だった。


「…まぁ、俺も?元とはいえ厨二病だし。


ちょっと興味、いや、結構興味ある…かも」


「ふっ。そうか。ならばこれは契約だ!我と共に、世界の裏側を進むのだ!」


この時の俺は、まだ知らなかった。この選択が、どれだけ日常を壊すのかを。


「俺”も”と言っていたが、我は厨二病ではないからな?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ