43話 親友
今日の事が走馬灯のように映像で反芻され続ける澪桜
こうなると……澪桜の力では脳を制御できない。
あの時どう言ったら良かった?
中田さんは手伝われて迷惑だった?
接点がないから何に反省すればいいのかも分からない。
……まあ多分、何をしたところで結局嫌われていたのだろうけどね。……仕方ないか。
慣れてるから諦めはつくけど
何も感じない訳ではない。
流石に辞めろとかヤリ〇ンとまで言われるとかなり堪える。
言い訳のしようもないし、したところで意味はないから。
私に対する人のイメージは固定されるだろう。
それが悲しい。
……何も感じなければ……心なんか無ければ良かった。
そうしたら今頃私は───
「安達さん?」
ハッとする澪桜
取り繕うように笑う
「ごめん、外見てずっとナンバーを読んでた。ほら、あれ3263……ミツルさんだって!」
咄嗟に誤魔化す
結城は顔を曇らせる
「……嘘つくの下手ですよね。安達さんって。」
(……!ば……バレている!?何故だ!)
お前はは警察官か!?
とツッコミたくなる。
たしかに子供の頃からポーカーフェイスは苦手。
でももう27だよ!?私だって
会社では何を考えているのか分からないと言われる程なのに何故だ!?
グルグルと余計な考えが頭を駆け回る
「……俺には話したくない?」
寂しそうに結城が言う。
信用していないの?
そんなふうに。
そんな空気をめいっぱい読んだ澪桜が言った
「違うよ!そうじゃない!……ただ、情けない話だから誰かに話すつもりが無かっただけだよ。」
そう言って否定してみせた。
結城はふぅ……とため息をついて澪桜に言う
「信用してくれてる?」
「も……勿論だよ!何を言ってるんだい!?」
「じゃあ俺って……安達さんの何?」
一瞬結城の視線が澪桜を射抜いた
ドキッ───
なぜ今心臓が飛び跳ねたのか
……分からない。
「っ……?何って……えっと……えっと」
ただの友達?
いや、なんか違う。
もっと……特別な
大切な……
そんな存在。
なんと語彙を発すれば伝わる?
澪桜は思考を凝らす
「……親友。」
ポツリと呟いた。
結城は目を丸くする。
「え……?」
「ごっごめん。結城さんの事あたしの中で勝手に昇格させてしまってた!……嫌だったよね!?申し訳ない!」
ワタワタと言い訳をする澪桜。
「…………親友か。」
嬉しそうに結城は呟く
そして澪桜の方を向いて笑った
「じゃあ、その親友に話してよ。俺聞くくらいしか出来ないけど、君の気持ちに寄り添いたい。」
「……いや、気にしなくていいよ。
社会人として情けない話なんだ……聞くに値しないような。まして違う会社で管理職として働く結城さんに聞かせられるような話じゃないんだ。きっと幻滅するよ。」
「いいよ。どんな情けない話でもいい。話して?俺は君に幻滅なんかしないから……絶対に。話せばきっと楽になる。」
真剣に結城は答える
「でも……本当に情けない話なんだよ。」
「その情けない話が聞きたいんだよ……俺は」
夜が迫る車内で結城の横顔が対向車のライトに柔らかく照らされる
澪桜の傷ついた心を解すような雰囲気で。
本当はこんなかっこ悪い話
したくなかった。
するつもりもなかった。
今までだって一度も話したことは無い。
親にも
山本さんにも、沙也加ちゃんにも。
全然平気だったのに。
一人で乗り越えてきたのに。
なんで私は……この人の前だと弱くなってしまうのだろう。
甘えたくなるのだろう。話を聞いてほしくなるのだろう。
この人は……私をダメにする。
「……今日、職場である社員が重大なミスをしてね、その人一人でリカバー出来ない内容だったから、私が手伝うことになったんだ。
でも私はその人にも嫌われていたみたいでね。
昼の休憩中に…」
止まる澪桜。
やはり恥ずかしくて言葉が詰まる
私……かっこ悪い。
「……うん。続けて?大丈夫、俺しか聞いてない」
優しく投げかけてくれる言葉
「っ……」
俯く澪桜
結城はその様子を見て言葉を紡ぐ
「安達さん……ごめんね。もし嫌だったらもう無理に話さなくてもいいよ。強引に聞きすぎてしまったね。」
「……違うよ……ただ、君に幻滅されたくないんだよ。」
自分が余りにも情けなくて悲しくなる。
社会人として失格だ。
「さっきも言ったでしょ?幻滅なんかする訳ない。だって俺は親友だよ?嫌な話はさ、全部吐き出して半分俺に背負わせてよ。
二人で分けたら……きっと楽になるから」
優しく諭された。
どうしてこの人は私なんかを理解してくれようとするのだろう。
嬉しくて……何故か切ない。
目頭が……熱くなる
不意をつかれて
緩んでしまった。
こんな事で泣きそうになるなんて……どうかしてる。
結城さんの前で泣くなんて絶対に許せない。
そんな失態を見せるなんて死んでもごめんだ。
今顔を見ると泣いてしまう。
だから視線を逸らし
必死に堪えて、代わりに口を開く
「……5年前部長が私を今の部署に叩き上げてくれたんだけど、それは……愛人だったからだとか……山本さんに目をかけられるのも……ヤリ……〇ンだからだとか。
……辞めればいいって言われたよ。
休憩中みんなに聞こえる声で。
私が元庶務課で高卒だからだね。仕方ないよ。
そして今回、中田さ……いや、その人の仕事を結局奪った形になってしまった。担当が私に変わったからね。
……嫌われて当然だよ。」
観念して全てを打ち明けた。
ハンドルを握る手の血管が浮き出る。
ミシリと嫌な音がした。
「……安達さんは何も悪くないよ、それ。転属?高卒?そんなの能力があれば関係ない。確かに社会では通用しない事もある。でも叩き上げられてる時点で結果は出てる。
学歴気にするだけで、まともに仕事も出来ないやつがなんで……安達さんを? ……そんなの馬鹿げてる。」
澪桜以上に傷付く結城
なんか申し訳なくなった。
「いやぁ……ありがとう結城さん!聞いてくれたお陰でなんかスーッと気持ちが軽くなったよ!
帰ったら何作ろうか!?煮込みハンバーグでもするかい??」
必死に話を切り替えようとする
だが結城は話題を変えない。
凍てつくような空気に変わっていく。
結城の悲しみが怒りに変わる
「……なんで愛人とか……ヤリ〇ンとか安達さんが言われなきゃいけないんだ!!!!
事実でも何でもない事を……人の集まる休憩室で!?
どんな神経してんだよそいつ!!!辞めるべきはその女なのに!!!っ……絶対に……許せない。」
ギリリと更に力が入る。血が出そうなほどに。
こんなに怒る結城を初めて見て正直驚きはしたが
私のために怒ったのだと思うと心が温かくなる。
不思議と心の傷がみるみるうちに塞がっていくのが分かる。
先程までのモヤモヤや辛い気持ちは嘘のように消え去った。
話せば楽になる……案外本当だったなと思う。
とりあえず山本さんに話されたら余計に面倒くさいから釘を刺しておこう。
このふたりは筒抜けだから。
「……山本さんが最大限フォローしてくれたし、業務は滞りなく片付いた。だから山本さんには言わないでね。
こんなに私の為に怒ってくれる結城さんがいる。私の心を理解してくれる君がいれば何も問題ない。もう本当に大丈夫だよ。」
すると結城はしょぼくれた顔をして澪桜に言った
「……分かった……煮込みハンバーグ。俺成形くらいならできるよ。野菜も洗うしお米も研ぐよ。早く帰って二人で食べよ?」
子供みたいな拗ね方に頬が綻んだ
可愛い。
素直にそう思った。
「……そうだね。腕によりをかけるよ。」
夜の帳が訪れる頃、澪桜と結城は帰路に着く。




