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207話 邪魔

すみません!1時間遅れてしました!!


時間が最近守れなくて本当にすみません……。


本日もよろしくお願いいたします(>人<;)

 


「ふぅ。澪桜さん、ご馳走様でした」


 手を合わせ、空になった弁当箱にお礼を言う。


 あの見た目からは信じられない程、この腐海弁当は美味かった。


 イカスミ焼きそばも。

 アンチョビが効いたブロッコリーも。


 見た目がグロいオムライスも、地面に模したデミグラスソースとバターライスの中に仕込まれたキノコたっぷりのホワイトソースの組み合わせが絶妙で。


 普段が少なめのお弁当だった分、今日の満足度は物凄かった。


 ただ、周は思う。


(食べ物って、見た目は凄く大事)


 色々気になることはあるものの、幸せなことに変わりは無い。


「だけどもう、澪桜さんなりのキャラ弁はクオリティが違う意味でガチだから勘弁して欲しいなぁ。シリーズ化されたら毎回恐怖に駆られそう。電話で今日、俺何て、あの弁当のレビューしたらいいんだ」


 褒めすぎても地獄。貶せばきっと傷付ける。

 嘘を付かずに、正直に言うとしたら。


 味は最高、見た目最悪。でも再現クオリティは神。こんな地獄弁当、もう見たくないけど、でも次は何だろうと気になる自分がいるよ! ご馳走様!


 ってなるな。

 我ながら……矛盾がすごい。

 なんて言うべきか……



 一人、どうでもいいことを悩みながら、ファンシーな弁当箱を袋にしまい、澪桜の休憩時間になるまでお茶を飲んで一息ついていると、背後から甘ったるい声がした。



「あー! 偶然ですね。結城マネージャー、今お昼休憩ですかぁ?」



 ピクっ

 大切な、やっと作ったプライベートな時間を邪魔する嫌な声。

 周は直ぐに笑顔を顔に貼り付けて、冷たい視線で声のする方に振り返る。



「本当に、偶然ですね。……社員が使える休憩室は5階と14階にもあるし、人もこんなにいるのに」



(選択肢もたくさんあって、人もごった返してんのに、プライベート邪魔されるなんて最悪だよ)


 という嫌味を混ぜて返す。


 普段はしないが、せっかくのオフの時間を邪魔されて少し不機嫌になっていた。


 だが神崎は気付かない。

 明るく嬉々として軽く跳ねて手を叩く。


「ですよね!? これってもしかして運命!? ……なんちゃって」



「……」


 今まで数多の男を落としてきた鉄板の攻撃を確実に無視した周に、挫ける事なく続ける。



「あの、もし良かったらここ、座ってもよろしいでしょうか? ……知らない人ばかりでちょっと座りにくくて」



 モジモジと不安げに眉を下げた。

 周は澪桜を思い出し、無意識に比べてしまう。


 こんなんと比べてしまった事自体が澪桜に申し訳ないが、これだけは分かった。


 どーでもいい人間が、意図的にこういう動きをすると物凄くわざとらしいし、気持ち悪いと言うこと。

 それとこの女の存在が、生理的に無理ということ。



(地球上に居なくていいタイプの人間だな)


 金と承認欲求と、所有欲と、マウントを糧にして


 その為だけに生きてるようなクソ。

 見ただけで分かる。


 周の人生経験という名の偏見が神崎に降り注いだ。

 見つめられていると勘違いした神崎は照れた素振りで一番自分の自信のある角度で周へアピールをする。


 少し間が空いた後、周は冷ややかに微笑んだ。



「もちろん、よろしいですよ。どうぞ?」



 今日は休憩室が混んでいて断る理由も無かったので、仕方なく自分の前の席を勧めた。

 前屈みになって谷間を見せようとしてくるような動きに不穏を感じ、神崎の動きより先に窓へ視線を向ける。


(今、目線逸らした……? ふふ、ウブなのね。可愛い)


 神崎は挑発的な微笑みで肩の髪を後ろに払う。

 ふと視線を落とすと周の左手が光るのが見えた。


「……あれ。結城マネージャーってご結婚されてたんですね」


 神崎が座った後、周は少し椅子を引いて彼女と距離を置き笑みを固定したまま頷いた。


「……これは指輪が出来るまでの繋ぎです。今婚約中でして」


 神崎は周の言葉に歪んでしまった表情を、前髪を触るフリで隠す。取り繕うように両手を大袈裟に叩いて祝福した。



「う、うわぁ! おめでとうございます!! 社員の皆さん知ってるんですか!? お相手の方は同僚とか!?」



「いえ。他の会社の方です。婚約してる事は……どうだろう。言ってないけど指輪は見てるからある程度知ってるかもですね。……それはそうと仕事は慣れてきましたか? 今日の資料、上手に作ってましたね」



 周は早々にプライベートの話から仕事の話にすり替えた。


(こんな女に私情を知られるだけで吐き気がする。それに……)



 神崎は気にかけて貰えた事が嬉しいのか、肩を上げて可愛く魅せる角度を作り笑みを深めた。


「え!? 嬉しい! ありがとうございます! 皆さん優しくて仕事も楽しくて、だいぶ慣れてきました。あの資料は私一人で作ったのですがそう仰って頂けて良かった!」



「それは良かった。これからも頑張ってください」


「はい!」



 明るい笑顔で元気よく返事をした後、

 オレンジジュースを一口飲んで、ゆっくりと頬に影を落とすように俯いた。

 サンドイッチを手に取るが口に運ばない。


 少し声のトーンを下げて、憂いを浮かべたまま神崎は周に聞いて欲しそうに続けて話し始める。



「……実は私、結城マネージャーと大学の同期なんですよ。お話はしたことないんですが……」


 周はその空気を察し、早く切り上げられるよう業務的に返した。


「経歴は見ましたが、すみません全く覚えてなくて」



「あ、いいんです! それで……あの、これは仕事とか関係ないのですが。実は私大学の知り合いから今、ストーカーされてて……怖くて」


 普通の男なら庇護欲を掻き立てられるような、か弱いウサギのような仕草。

 時計に視線を落として、澪桜の休憩時間を確認し、一刻も早く電話しに行きたい周は、大袈裟に驚いて見せた。

 視界の端に捉えた大きな人影にすぐ視線を向けて。



「え!? ストーカー!? それは大変だ! ……あ、藤堂さん! こっち空いてますよ〜」



 会話を始めて1分も経たないうちに周が手を挙げ、ちょうどやって来た藤堂に声をかけた。



「え!? ……ちょ」


 神崎はギョッとし、周を見る。

 だが一切視線が合わない。


 その綺麗な横顔は近づいてくるゴリラ……藤堂に視線を向けたまま微笑む。


「藤堂さん、お疲れ様です。そこ座ったらどうです?」


 長い指で当たり前のように神崎の隣を指さした。


(え!? ま、待って! 何でよ!? せっかく二人きりになれたのに)


 神崎の思惑など関係なく、尚も会話は続く。

 藤堂はお盆に乗ったラーメンを大切そうにテーブルに置き、豪快に笑う。



「おー!!! ちょうど良かった! 空いてなくて席探してたんだ。助かったぞ! 結城ぃ!」


 その間も藤堂の前のお盆からは物凄いニンニク臭が漂っていた。

 思わずその匂いに神崎が顔を顰めると藤堂は更に笑う。


「すまんな、女性の前で! 無性にここの味噌ラーメン食いたくなってな!!! ニンニクマシマシ、野菜マシだ!!」



「藤堂さん、そんなもんばっか食べてたら糖尿病になりますよ? 気を付けないと」


「お前だってついこの間までは、俺と一緒にこれ食ってただろうがニンニクマシマシで」



(ウソ!? 結城マネージャーが!? この激くさラーメンを!?)


 にわかに信じられない神崎が思わず周の顔を見る。

 事実だというように周は笑顔を崩さず平然と頷いて肯定した。



「それが魔性の美味さなのは、たしかに認めますよ? でも僕はもう、そういうのとか甘いパンは健康の為に控えてますからね。愛妻(仮)のお陰で♡」


「へいへい。惚気ごちそーさん。……で? 今、何の話してたんだ? ストーカーとか聞こえてきたが」


「そうなんですよ。怖いですよねぇ。僕、非力だし人生経験ゴミだから、何のアドバイスもできなくて」



「マジか!? どんな奴だ!? 今すぐ電話して呼び出せ! 今日は会議以外は用事ないから、就業時間中でも説得してやれるぞ!? それで暴力振るうようなら手足の骨何本かいっとくか!? がはははは」


 岩のような手で関節をゴキゴキと鳴らす藤堂に神崎が顔を青ざめていると、周が静かに弁当箱を持って立ち上がった。

 思わず焦って声をかける。



「え……あのっ結城マネージャー……どちらに?」



「……すみません。今からの時間は僕のプライベートですので。じゃあ、ごゆっくり」


 薄く冷たい微笑みを誰に向けるでもなくその場に残し、颯爽と立ち去る。



 思い通りにならない事に苛立ち神崎は奥歯を鳴らした。

 隣に座る壁のような藤堂が邪魔で追いかけられない。


(働き始めて10日以上経って、やっと訪れたチャンスだったのに!)


 藤堂は神崎の焦りを読み取り静かに口角を上げる。



「なんだ? 俺じゃ不服か」


 圧のある声。

 ビクッと肩を揺らし急いで否定する。



「いえ、決してそんなつもりは」


 ニヤッと笑った藤堂が豪快に麺を啜り、食べながら会話を進めた。


「で? どんなやつだ? 俺に話してみろ! 下世話な話が好きなんだ! ちなみに俺は中学から空手をしていてなぁ……」


 にんにくの匂いを充満させて、弾丸のように武勇伝を語りまくる藤堂に、神崎は笑顔を引き攣らせたまま休めない休憩時間を過ごした。





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