14話 カエル
カエルの小話入りの回です。
※苦手な方はバック推奨。もしくは澪桜のセリフ飛ばして読んでくださいませ。そのセリフの部分飛ばしても全く問題ありません。
山本は気になっていた。
残念会から1週間。澪桜はいつもと変わらず淡々と仕事をこなす。 時折視線を向け気にしていると、澪桜がツカツカとこちらにやって来た。
「影山商事の契約内容が纏まりました。一応営業部からの了承も頂いていますが、不利益になる箇所が無いか最終確認お願いします」
スっと差し出してくる書類。
「ん。分かった」
平然とした顔で受け取り、デスクに戻る澪桜の後ろ姿を見つめる。
(分からん。何考えてるか全く分からん)
普通はあんな超絶な美形男とLINU交換できた時点で、周りに自慢したり、浮かれたり、うわの空になったりすると思うんだけどなぁ……まぁそんな程度の軽い女なら、幻滅してあいつの方が切るか。と、思い直した。
休憩中、山本はほとんど外食なので話す事もあまり無い。
どうしても澪桜と話したかったので今日はカップ麺にした。
休憩室に向かうと澪桜は松本と一緒並んで昼食をとっていた。
「よっこいしょ」
山本は何の許可も取らず当たり前のように澪桜の前にドカッと座る。
「……山本係長、なんですかぁ?急に」
松井が邪魔だと言わんばかりに睨んで言ってきた
「いいじゃねぇか、減るもんじゃなし」
悪びれる様子もなくラーメンを混ぜる。
「減ります! 時間が減る! せっかく恋バナしてたのに! 邪魔ですよっ」
「恋バナなんてしてないよ、沙也加ちゃん」
速攻で否定する澪桜。弁当を黙々と食べている。パスタをフォークに突き刺しクルクルと巻きながら松井は言った。
「だーかーらー! それは絶対恋ですって!! 即レスなんて! 普通しませんから」
「マメな人なんでしょうよ」
それでも澪桜は真っ向から否定する。
「……お前らそんなLINUしてんの?」
さり気なく話題に入り込めてラッキーと思う山本。
「そうですね……というか山本さん」
カタっと箸を置く澪桜。
「なっ……なんだよ!?」
一瞬何を言われるのかとたじろいだ……
いつも些細なミスを澪桜から怒られてるせいで、山本の長年重ねてきた悲しい癖。
「もの凄く良い方を紹介してくださいましたね! 結城さん! 素晴らしいです! こんなに楽しいやり取りは人生で初めてです!」
キラキラとした目で感謝を述べる澪桜。
少しの間呆気に取られた山本は、それを聞いてホッとした。
「おっ、よかったじゃねぇか! なーんだお前らうまく───」
「いやあ……昨日は特に白熱しました!! あんなにカエルに詳しい方がいたなんて、私は感動しています!」
(……かえる?)
山本と松井は止まる。
時も止まる───
「え? 何言って」
山本が聞き返そうとしたが、澪桜の弾丸のような結城レビューは止まらない。
「私は長年、ヒキガエルは成体になった時点で”大人”なんだと思っていたんですよ! それがなんと! 成体になってからが、カエルの赤ちゃんなんですよ! 知りませんでした!! そこから成熟していって成体になるらしいです! 衝撃でした!!」
身を乗り出して興奮気味に語る澪桜。
「……お、おう」
掴んでる麺が伸びる。冷える。
「……澪桜先輩、もしかして飲み会で、いつもテンション上がったらやってる事、結城さんにやってるんじゃ」
流石の恋愛脳な松井も状況を察してドン引きしている。
そう、澪桜は飲み会でテンションが上がると知りたくもない小話ばかりする。 面白くない話という訳でもない。
起承転結を付けて面白く言ってくるから知りたくもない情報が強制的に頭にねじ込まれるのだ。山本と松井はいつもその餌食になっていた。
「何がだい!? 飲み会の? ああそうだね、楽しくなるとつい話してしまうよね! 趣味の話!!」
松井に楽しそうに言う澪桜。
「あれはダメです!! 私たちだけにしないとダメです!」
手をブンブン振って制止する。
その様子に澪桜は寂しそうな顔をしてしょぼくれた。
「……でも沙也加ちゃんも山本さんも、いつも途中で止めるじゃないか」
だが、更に何か思い出した様子で山本に嬉々として話し始めた。
「それはそうと、結城さんはどんな話題でもすぐ乗ってくれる素晴らしい方ですね。あんなに聡明な人は初めてです!! 尊敬してる! 実は長年私はイボガエルはヒキガエルの事だと思っていたんですよ! そしたら結城さんはツチガエルをイボガエルだと思っていたんです! 調べたらなんと! ツチガエルとヒキガエルの総称だったんですよ! いやぁ二人でびっくりしましたよ! あはははははははは!」
何故か一人、休憩室で爆笑する澪桜。
物凄くどうでもいい。どうでも良すぎて二人は気が遠くなった。
カエル……こいつら毎日LINUまでやってなにしてるんだ。
伸び伸びのラーメンをやっと啜る山本。
澪桜はうっとりしながらきんぴらを摘んで山本に言った。
「いやぁ、本当に毎日楽しい。その後はブフォトキシンの話をしました。毒はいいですよねぇ」
澪桜の様子を見て結城になんか少しでも感情があるのではないか? と気になっていた事を山本はやっと質問する。
「……あいつ、お前から見てどうなんだよ。顔とか性格とか。ほら、男としてさ」
それを聞き澪桜は
ふむ……と少し考えてから答えた。
「凄く話しやすくて会話も合いますし、雰囲気が穏やかで表現力と傾聴力の長けた方だと思います!」
山本は期待する。これなら結城に春は近い!そんなふうに思いながら確信を声に出そうとした。
「……じゃあ、おま───」
だが楽しそうな澪桜に遮られる。
「会話の仕方が人心掌握術にとても長けていらっしゃいますしね! お顔も綺麗ですし、モテる理由に納得です!! あ、でも大丈夫ですよ私に恋愛感情は一切ありません。確か、ただのお友達になりたかったんですよね? 心配しなくてもいいですよ! 結城さんにもご安心下さいとお伝えください!」
(ここまでキッパリ断言されると……流石に傷つくな。脈が無さすぎていっそ清々しい)
すまん車の中で言ったこと撤回するわ。と心の中で結城に謝る山本だった。




