表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/216

13話 結城の憂鬱

※この話は12話の澪桜の休憩中と同時系列の結城のお話。

 

 

 クレストリンク・ジャパン

 午後12:20分


 いつもと変わらぬオフィス。

 開放感のある現代的な雰囲気の真っ白な職場。

 そこにオシャレなカフェのように計算された日差しが柔らかく差す。


 その一番南向きのデスクで、英文の通知に目を通す一人の男性。


 新規事業開発部。マネージャー 結城周

 BALで澪桜に見せた、優しくて温和な雰囲気はそのままに上司として気安く近ずかせない、気品のようなオーラを纏う。


 普段結城は自身のデスクか、気分転換に外に出て軽く昼食を済ませる。

 今日はコンビニで買ったパン。片手で食べられるので効率が良いからよく選ぶ。

 大した意味は無い、ただ空腹を埋められればそれでいい。最近は澪桜の休憩に合わせる為に、この時間に休憩を挟んでいた。


 綺麗な横顔を下に向け少し微笑みながら、LINUをする。


(やっと昼か。……安達さんご飯たべたかな)


 澪桜の顔を思い出す。目鼻立ちの整った中性的で凛とした顔。表情、声───

 もっと仲良くなりたいが、がっつき過ぎて引かれたくない。精一杯理性を働かせ、頭でシミュレートし文章を打つ。


 最初は5~6回返信が来ればいいと思っていたが、彼女の性格が律儀だからか、回数も自然に増えていった。質問にも的確に答えてくれるし、なにより彼女の会話が面白い。


 LINUなんて面倒臭くて嫌いだったのに今は違う。

 楽しくて仕方ない。

 常に返事が欲しくて仕方ない。


 澪桜のお昼休憩の間はリアルタイムで返信を返してくれる。職場で唯一癒しの時間。


 何気ない会話から仕事は忙しいかと質問された。


 今は春。入りたての新入社員たちが初々しく希望に満ちて輝く季節。学生気分の抜けない若者達に苦戦する部下をフォローしたりと確かに少し気を遣う。軽くその事を伝えた。


 いつも通りのメッセージの中、澪桜の所にも新人が入ってきたとの内容。当たり前といえばそうなのだが、その中に気になる一文が。


「安達さんが1人を受け持つ……?」

 ピタッと止まる結城の手。


(……まさか、相手は女性だよな)


 自身の部署はその点をかなり重視する。トラブルにならないよう、細心の注意を払っている。

 マンツーマンでは指導しない。仕事の流れを把握させ実践的に職務に当たらせる、それを指導係達と協力して結城が統括する。


 澪桜の会社の方針や仕組みまでは分からない。山本に聞くようなマネもしたくない。そこまで踏み込むべきではないから。


 すると……澪桜から少し落ち込んでいるような文面が返ってきた。


 心配になり、思わず直ぐに返信する。


 こんな感情を出して話してくれているのは初めてだった。

 これは心を許してくれてきているような……?

 少し距離が近づいた気がして、物凄く嬉しいが浮かれてはいけない。


 次に来た澪桜からのメッセージに目を疑う。

 ……彼?

 指が止まる。


(まさか、指導にあたっている相手は……男?)


 ミシっ……と響く。

 スマホを持つ左手が出した音だった。


(そいつのせで安達さんが傷付いている。新卒で何も出来ない癖に態度だけ一人前のやつなのだろう)


 そう思うだけで腹が立ってきた。

 トントントン……

 人差し指でデスクを叩く。


 トン……

 指が止まる。

 つい、色々な可能性を考えてしまった。


(もし、その後輩に好意があるから、今落ち込んでいるとしたら……? 今回のトラブルが解決し、和解した後にそいつが安達さんを好きになったら……?)


 背中に冷たい物が走る。深呼吸し、頭をよぎる不穏な考えを払拭するように首を振った。


(焦るな大丈夫だ。もしそんな片鱗が少しでも心にあれば彼女ならきっと……俺とやり取りなんてしていないはず。そんな奴に簡単に心を奪われるなんて安達さんなら絶対に無い。彼女は真っ直ぐな人だ。きっと曲がったことは出来ない)


 安達さんのことなんてまだ何も知らない癖に───

 そう思いつつも、自分を安心させる為に、心の中で何度も言い聞かせた。



 深呼吸し、メッセージを入れていく。苛立ちを隠し、詮索しないように……澪桜の気持ちに寄り添い、それでいてアドバイスにならないように。


 いつもより時間をかけて打った。幾度となく読み返し、納得した上で返す。


 そしてついでに、もしそいつが辞めても澪桜のせいでは無い、気にしなくていいと暗に伝える。

 澪桜の心の中にそんなやつのことを1ミリも入れて欲しくなかったからだ。


 ただ、言葉は慎重に選び、悟られないようにした。


 トントントン……

 また人差し指がリズムを刻み出す。

 不安と苛立ちを誤魔化すように


 するとすぐ澪桜からお礼のLINUが届いた。

 飛びつくように画面を見る。

 ……内容からして、そんな特別な相手ではないとすぐ分かった。


 ギシッと椅子が結城の体重で軋む。ゆっくりと深く体を預けた。


 ふう。ため息と共に、あっという間に先程のまでの黒い気持ちが消えていった。安心したのと同時に罪悪感に駆られる。


(知り合って間もないただのLINU友達のくせに……最低だな俺は)


 後悔の念を伝える。

 その後にデスクに置いてある食べなかったメロンパンが目に入った。最近よく買うお気に入りのやつ。


 凹んでいるであろう澪桜を少しでも笑顔にしたくて、写真を撮る。そして送った。


 すぐLINUの内容がいつもの澪桜に戻ってくれて、それが嬉しくて堪らなくて、つい思う。


(――安達さんに会いたい)


 結城は一人静かに胸が疼いた。

結城は闇属性。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
周さんのダークな部分の片鱗を見た気がします……! 「新卒で何も出来ない癖に態度だけ一人前のやつ」。まさにそんな人でしたねꉂꉂ(ᵔᗜᵔ* )アハハ 相手のことをまだ何も知らないくせに。という冷静な自分と…
周さん、澪桜ちゃんが好きすぎて、妄想がマイナスな方向に向かいすぎてる! まあ、大事な片思いの彼女を見知らぬ後輩が悩ませているとなれば、気をもんじゃいますよね。でもその後輩が彼女を好きになっちゃったらど…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ