11話 即レス男
AM6:00
スマホのアラームが響く。
澪桜はおもむろに起き上がりボーッとする。
目は開いてない。頭はメデューサ。
その間……20分。
スヌーズを何度も切りながらやっと動いた。
「眠いぃ……」
ヨタヨタとまだ仲良しの瞼を擦りながら、目を覚ます為に歯を軽く磨いて顔を洗う。適当に基礎化粧品で肌を整えたら、とりあえず朝ごはんを食べた。
そして洗面台で髪を濡らし、いつものストレートの髪の毛に戻した後、櫛を使い綺麗に後ろで1つに結える。耳ほどの長さの前髪を横に流し、髪全体をワックスで軽く纏めた。肩甲骨下まである濡鴉色の髪の毛がサラサラと背中で揺れる。
もう一度丁寧に歯を磨いた後、掛け時計で時間を確認しながらメイクをしようとした。
ブー。
珍しく朝からスマホが鳴る
画面に目を向けると……
結城だった。
『おはようございます。昨日はLINUのお返事ありがとうございました。にしても、あのお店の焼き枝豆美味しかったですね!』
「……ふ」
自然に綻ぶ頬。結城からのメッセージを眺めてしみじみと思う。
仕事以外で誰かとLINUするのは何時ぶりだろう。いや、正確には異性の友達はいたのでLINUもしてたような気もするが……いや、してたか。
どの人も最初の方は割かし根掘り葉掘り私について聞いてくれていた傾向にある。
ただ、それに答えても会話は全く広がらない。きっと思っていた回答ではなかったのだろう。毎回申し訳なくなった。
女子としての最適解なんて正直分からない。気を使いすぎてメッセージを交わすことすら、いつも息苦しかった。
だから向こうが自分語りしても『そうですね』とか『いいですね』などの当たり障りのない返信しか出来なかった。
相手の期待に応えられない、調子に乗って語りすぎると引かれる、その繰り返し。
今までずっと。
……残念な結果達に終わったのは多分それも原因だな。と改めて自己解析してしまう。
余計な記憶がいつも急にフラッシュバックして、どうしたら良かったなんて後悔してしまう。そんな自分も鬱陶しくて仕方ない。
気を取り直してスマホに目線を落とし、返信を考える。
(……日本語の通じる質問攻めではない相手とのLINUは親友以来だな今はもう、疎遠になってしまったが。学生の頃が懐かしいよ)
片手でフリック入力する。ベースメイクをしながら。
『おはようございます。こちらこそ! 昨日はよく眠れましたか? あの焼き枝豆はちょっと真似出来そうにないですよね! 先に味付けて煮てるのかな!』
結城の気が重くなり過ぎないように、さり気なく、返信も居るか要らないか、微妙な塩梅で返す。
するとすぐ既読が付き返信が来た。杞憂だったようだ。
『僕もよく眠れましたよ。安達さんもゆっくり休めたみたいで良かったです。あの味を真似? お料理とかされるんですか? 僕ではそんな考えすら思い付きませんでした』
少し長いLINU、先程より感情も込められた感じがある。質問も入っていたが、とても返しやすい内容だと思った。
結城の気遣いが滲んでる気がしてありがたい。
普段の朝より楽しい気持ちになりながら朝の準備をし、結城の迷惑にならない程度に間隔を開けて返信する。
いつも通りの時間に家を出て、歩きながらLINUを続ける。
返ってくるのがとても早いので幾度となくやり取りを交わし気付けば駅のホームだった。
満員電車に乗車する。今日は運が良く途中で座れたからラッキーだった。
またスマホを開く。
『僕の会社も同じ出社時間ですよ。というか、朝からこんなにLINUしてしまってご迷惑ではなかったですか?……今更ですが』
少し気にしているような返信だった。確かに今更感は半端ない。なるべく結城が気にしないで済むように言葉を選ぶ。
(結城さんって、何かすごく繊細な感じがするんだよね)
『全く問題ないです。私は基本的に何かしながら別の事をするのは得意な方なので。それとすみません、私の方こそご迷惑おかけしているのではないでしょうか?』
既読。
基本すぐ既読が入る。揺れる電車の中、振動に合わせて少しだけ心が弾む。
(結城さんはすぐ既読つけてくれるなぁ)
『それなら良かった。迷惑だなんてとんでもないですよ!!
あの、出社時間までもう少しだけ続けてもいいですか? 人とこんなにLINUするのは初めてで、すごく楽しくて。……すみません』
ほんのちょこっとだけ甘えたような、可愛い内容に澪桜は驚いた。思わず画面を二度見する。
(はっ!! ……これぞ無自覚のモテ男というやつなのか? すごい。これは好意があれば即死かもしれない)
うんうんと
朝から他人事のように結城に感心し、「お主も罪深き男よのう」とお代官様のようなセリフが頭をよぎった。




