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社会不適合者の恋愛論  作者: 澄泉


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12話 澪桜は鬼軍曹


あれから3日が経った。

変わらず毎日LINUをしていた。

最初はお互い軽い内容で返信もそこそこにしていたが、結城さんは変わらず即既読、即レスなので気にせず返信しても問題なさそうだと判断し徐々に頻度が上がっていった。


朝少しと夜寝る前に少し程度だったやり取りが

今は朝、昼休憩、夜帰ってから寝るまでずっと……


という感じになってしまった。

内容は大したことは無い。


『趣味はなんですか?』

と聞かれるから

『沢山ありますが……最近は数独とか好きですよ。』


『数独……僕は苦手かもしれません。コツとかあるのですか?』


『確率と予測確定で埋めていく感じです』


『……絶対無理。今の説明でそれが確定しました笑』

そんな感じの何気ない会話。


敬語ではあるがお互い少し肩が抜けたような感じになっていた。


株式会社ユリシス

AM11:30


パリッとしたまだ新しいネイビーのスーツを着た青年が澪桜のパソコンの所にやって来た。

「安達さん。……言われた資料できました。確認お願いします」


「はい。ご苦労さまです。では確認します。」

そう言って手渡された書類に目を通す。

長いまつ毛が少し揺れる。


「……先程は3箇所間違えていましたが、今回は7箇所ですね。何故同じ資料なのに先程より訂正箇所が増えるのでしょうか?」


下を向いて小さく言う青年。

「……すみません」


澪桜は淡々と言う。

「いえ、謝罪は結構です。ただ何故こうなるのか理由を教えてください。」


体ごと青年に向け、問う。


「この資料は過去のもので指導の為の参考資料ですが、これから佐野さんはこれらを自分で処理していかなくてはなりません。都度訂正箇所は自分で把握し、営業部と密に連絡を取り合い、取引先と契約を確定のものにし、継続させる。ここまでが最低限の業務となります。

何処が分からない、どうして間違うのか教えてください。でないと指導ができません。」


淡々と説明する。


「……すみません。」

佐野の表情が曇る。


澪桜はその表情を読み取り

ふぅ……とまたパソコンに向き直った


「その資料は業務の合間にもう一度作り直してください。

そして分からない事があったら都度聞いてください。何度でも構いません。その方が対応しやすいですし佐野さんも自分が理解していない部分が分かるかも知れません。」


「はい。」


不服そうに口を尖らせて佐野はデスクに戻る。


隣のデスクの沙也加が椅子を滑らせて寄ってくる。


「感じ悪。最近の新卒はほんとうにクソガキですね!」

ブーブー言っている。


「……沙也加ちゃん1こしか変わらないでしょ。」

呆れて笑った。

そして続けて……自分に落胆する。


「まぁ私の教え方が彼に合ってないんだろうね。意思疎通が上手くいかない。人とのコミニュケーションは私には難しい。」


そう言いながらもキーボードを打つ手はとめない。


「にしてもですよ。あいつすぐ辞めそう」

ポソッと小さい声で言う。


「こら!沙也加ちゃん、人をそんなふうに決めつけないの。……それにこの件に関しては完全に私が悪い。言い方がいけなかったんだね。……反省するよ」


そう言ってキーボードの手を止め、印刷した物をファイルにまとめる。


「そんなことないと思いますけど。澪桜先輩は優しすぎますよ」


そう言って席に戻っていった


(優しすぎ……そんなふうに感じてくれるのは沙也加ちゃんだけだよ)

そう思って少し笑った。


デスクで雑務をこなす佐野は先程の事を反芻する。

すればするほど理不尽で、澪桜に対して苛立ちを覚えた。


謝っても許してくれない。そこが意味が分からない。

大学ならそんなことは1度もなかった。バイトだってそうだ。


だが澪桜は違う。

謝罪を受け付けてくれない。

失敗の理由を求めてくる。


(……そんなの分かるかよ。)


つい思った事が口に出た。

「……鬼軍曹め」


───

昼休憩


澪桜は休憩室の窓際、1番奥のいつもの席に座り弁当を食べていた。


ブーブー

スマホが鳴る。───結城からだ。


『お疲れ様です。お昼ご飯は食べましたか?僕は今日もパンです。甘いやつ。』


何気ないメッセージが来た。


少し……ほっとする。


先程の事がずっとリフレインしていた。

どこがいけなかったのか、佐野の表情が曇ったのは何故か。


傷付けるような事を言ったのか。

理解が出来ない。

本人に聞く訳にもいかない。


『私も今食べてます。甘いパン好きですね。血糖値上がりますよ笑』


すぐ既読が付いて返ってくる。


『来年の健康診断で引っかかったら……考えます笑

お昼の甘いパンが唯一の癒しですから』


『仕事、お忙しいんですね。』


『少しだけ……新入社員が今年は多かったので。

人を指導するのはやはり難しいですね。安達さんの所はどうですか?』


ピタッと止まる手。


一瞬……悩む。

でも何故か聞いて欲しくなった。


『そうですね。うちの部署にも今年は3人入って来ました。一人私が受け持っています。』


間を置いて……送る。

するとすぐ返信が来た


『そうですか。指導するのはきっと大変でしょうね。人と向き合うのは簡単なことではありませんから。』


結城の返信に心が少しだけ弱くなる。


『……そうですね。特に私は苦手です。今日も失敗しました。』

つい……普段ならしない返信をしてしまう。


『失敗?どうしたんですか?』


『私は人の感情の機微が分かりません。指導のため失敗の理由を聞きました。改善する目的で。成長して欲しいから。

でも謝罪しか返ってこない。彼は表情が曇りました。きっと言い方が悪くて傷つけたんだど思います』


自分でも情けない。愚痴を人に言うなんて。

まして違う仕事の結城さんにこんな話をするなんて。


送ってすぐ罪悪感が押し寄せた。


何故私は人の嫌がる事を無意識に言ってしまうのだろう。

先程の佐野の表情が頭にこびり付いて……離れない。


結局結城さんにまで迷惑をかけている……最低だ。


既読。

結城には珍しく、少し間を置いて返信が来た。


『機微が分かっても、人の気持ちなんて分からないものですよ。こちらの意図を正確に伝えるなんてきっと僕にも無理です。それでも安達さんは伝える努力をしている。その姿勢は伝わりますよ、今すぐじゃなくても。』


その後すぐまたメッセージが。


『伝わらなければ彼はそこで終わりです。

他で働いてもそれは変わらない。本人の意識が変わらないと。社会はそんな甘くないですからね。そうやってきっと大人になっていきますよ。』


……慰められた気がした。

直接ではなく、客観論として。

それがとても有難かった。

私が理解できるように伝えてくれたみたいで───


『そうですね。彼の社会人としての踏ん張りに期待し指導続けます。無理ならそこまでですね。

すみません、こんな愚痴を聞かせてしまいまして。情けないです。』

感謝と謝罪の気持ちを伝えた。

直ぐに返信が来る


『いえいえ、とんでもない。僕こそ大した事何も言えなくてすみません。偉そうな事を言ってしまったのではないかと……後悔してます。』


『とんでもないです。聞いてくださってありがとうございました。気持ちが軽くなりました。』


『それは良かった。安達さんも、たまには甘いパン、おすすめですよ。コンビニのやつですが』


ポンと画像が送られてくる。

極上生メロンパンと書かれたパッケージの、

美味しそうなメロンパン。


『これ俺のお気に入り笑』


『血糖値爆上がりですね。これ笑』


『でもストレス爆下がりですよ』


『爆下がりて。笑』


澪桜はスマホに微笑む


───午後の業務でもう一度向き合おう。

1度で伝わらなくても根気強く精査し指導を円滑にしよう。


そう窓の外を眺めながら思う。

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