第1話
「ぐふっぐふっ」
鼻づまりの豚が鳴くような声が聞こえる。
「はぁはぁ」
荒い息遣いが聞こえる。
「レイラたん……レイラたん……レイラたん……」
何かの呪文なのだろうか? 同じ言葉の羅列が繰り返し聞こえる。
「うぅ……もっもう駄目……レイラたん一緒にイこう」
一際大きな声が聞こえた後に、何やらモゾモゾと動き出す物体が見えた。枕元に置いてある、ティッシュペーパーの箱から、無造作にティッシュペーパーを4~5枚引き抜くと、その物体は、ティッシュペーパーを使い、体の一部を拭いていた。
これは、この物語の主人公である【緒田宮 千枝利夫】の生活に置いて、ありふれた日常の一コマである。
何をしていたのか。と言う説明をする事すらも、憚れるような事をしていた。
誰かに見られたら、極度の羞恥心により、トラウマを抱えてしまう事だろう。とだけ説明しておく。
余談も余談なのだが、オカズに使っていたのは、千枝利夫が最近になり、気に入りだした、アイドルである【御堂 玲羅の1st水着写真集】である。
さて……どうやら、後処理も無事に終わったようだ。
「はぁ~レイラたんは最高だな、このたわわなオッパイ、くびれた腰回り、大きすぎないオシリ、そして最高に可愛らしい顔から溢れる天使のような笑顔、まさに天使! 俺の嫁!」
毎日の日課である、右手の運動を終えた、千枝利夫は、横たわっていたベッドから起き上がり、部屋に置いてある、机の椅子に、椅子が千枝利夫の体重の重さに耐えかねて、ギシギシと悲鳴を上げるのも無視して、ドカリと座る。
手慣れた手つきで、机の上に置いてある、パソコンを立ち上げ、ネットニュース速報を流し読みしていた。
ネットニュースを流し読み、その後、某大手の匿名掲示板に行き、普通に利用している奴等を相手に茶化し、怒らせて悦に入る、所謂【荒し行為】をするのが、決まったルーティーンなのだ。
千枝利夫は、今年で36才。1日中、自分の部屋で過ごす、ニートなのに、この荒し行為を自分の仕事であるかのように、真面目に毎日こなしている。
この日も、同じように仕事に向かおうとしていたのだが、とあるネットニュースの記事が目に止まった。
ニュースの見出しには、こう書かれていた……。
【人気急上昇中アイドル玲羅の真実! お泊まりデート発覚!】
と。それを見た、千枝利夫は、今が深夜であることに一切の考慮も無く、大きな声で叫んだ。
「レイラ~! 男の人と付き合った事が無い、千枝利夫さんが好みのタイプ、最初にお付き合いするなら千枝利夫さんみたいな人と、お互い清い体のまま結婚しよう! そう固く約束したじゃなあか~! よくも……よくも裏切ってくれたな! 純情な男の心をモテ遊びやがって! このビッチが!!」
因みにだが、そんな約束が、御堂玲羅と千枝利夫との間で交わされた事実など、当然無い。全て千枝利夫の千枝利夫にとってだけ便利過ぎる、脳ミソの中で勝手に交わされた約束である事を明記しておく。
椅子が強く引き下げられて、床に倒れるのも構わずに、先程まで、右手の運動に使っていた写真集を引っ張り出すと、片手に持ち、勢いよく部屋から飛び出して、1階にある台所へと向かった。
台所に着くと、テーブルの上に写真集を置き、手に取った包丁を使い、写真集を刻みだした……。
繰り返し繰り返し、振り下ろされる包丁……。どんどん原形を留めていかない写真集……。
30分ほど経ったであろうか、その間ひたすらに、包丁を振り下ろしていた千枝利夫は、頭上高く包丁を掲げたままの姿で、そのまま後ろにバタリと倒れた。
興奮のし過ぎによる脳溢血による死亡 享年36才。まだ肌寒い日も訪れる初春の頃だった。




