第三十話:魔王、二代目秘密警察長官を粛清する
今日は調子が悪い。
例の、月一回の調子が悪い日が近づいている。
魔王の間の机で、少しぐったりしていると、
「大変、大変」と言いながら、魔王の間にイフリートが飛び込んできた。
「どうしたの、アンナちゃんに髭を引っ張られたの」
「そんな、どうでもいい話じゃないですよ」
どうやら深刻な事態が発生したようだ。
また、村が全滅。
皆殺しにされた。
ろくでなしの異世界転移者または転生者の仕業か?
けど、おかしいな。
私の頭に警報は鳴らなかった。
「例の秘密警察の仕業ですよ」とイフリートが怒っている。
いつの間にか、各地に支部が作られていた。
百人だった隊員も、千人に増えている。
長官のアレクサンドラを魔王の間に呼び出した。
「いったい、どういうことか説明しなさい」
「あの村は、異世界転移者及び転生者が大勢いました」
「何か悪い事をしていたの」
「していません」
「じゃあ、何で皆殺しにしたの」
「将来、悪いことをするかもしれません」
大丈夫か、この人。
「一人の悪質異世界転移者及び転生者を退治するためには、千人犠牲者が出てもかまわないと思います」と平然と言い放つアレクサンドラ。
「何言ってんの、あなたは」
「それに連中は、こちらの世界にいたわけではないので、片っ端から粛清してもかまわないと思います。これは、言わば戦争です」
「犠牲者には、元からこの世界にいた関係ない村人もいたようだけど」
「戦争に犠牲はつきものです」
おいおい、やばいぞ。
「まずいね、これは」とイフリートに小声で聞くと、
「この人は、復讐心で行動しているかもしれません。または権力を使うのが面白くなったのかも」
ハーレムでひどい目にあっていたからか。
元々そういう人だったのか。
わからない。
しかし、これはやり過ぎだ。
「アレクサンドラ、あなたを秘密警察長官から解任します」
「つまり異世界転移者及び転生者の味方をするんですか」
「味方ではなく、あなたの方法が間違っているんです」
「間違ってはいません。魔王様がそう考えるならば、魔王様を逮捕せねばなりませんね」
「何を言ってるの!」と私がびっくりしていると、秘密警察が大勢、魔王の間に乱入してくる。
魔法で懲らしめてやろうと思ったら、魔法が使えない。
魔法使いは退治したはずなのに。
どうなってんの?
それとも、調子が悪いからか。
私とイフリートが部屋の隅に追い詰められた。
仕方が無い。
私は魔王の剣を抜いた……。
騒ぎを聞いた魔王特別警護隊が階下から駆けつけたが、既にアレクサンドラも含めて、全員、私が斬り殺した。
死体が大量に転がっている。
「後の処理はまかせます」と隊長のカルロスに言って、魔王の間を出る。
私の体は返り血で、全身真っ赤だ。
シャワーを浴びたい。
今、私は落ち込んでいる。
「だから言ったじゃないですか、秘密警察とか危険だって」と執事のイフリートに怒られてしまった。
今回の事件に関係ない秘密警察の残りの隊員は、一旦、普通の警察に戻すことにした。
やれやれ。
アンナちゃんが、鼻歌を歌いながら廊下を歩いているのに出くわした。
「マオちゃん、その赤ペンキ、なに? ペンキ塗りでもしてたの」
「え? そ、そうね」
「あたしも手伝う」とアンナちゃんが魔王の間に入ろうとしたので、慌てておさえる。
ところで、アレクサンドラと一緒にハーレムにいた女性に、後日聞いたら、あの背中のキズは最初からあったそうだ。
転移者にやられたわけではないらしい。
どうもおかしいなあ。
私も魔法を使えなかったし。
アレクサンドラは誰かに操られていたのか?
それとも自分の意志で行ったのか?
やっぱり、よくわからない。




