第一話:転移者退治
女性の悲鳴が頭に響いてきた。
私はスッと瞬間移動する。
どこかの森の中。
「助けて!」
女性が悲鳴をあげて走っている。
追いかけているのは、剣を持った冒険服姿の男だ。
血走った目、口から涎を垂らしている。
その女性は逃げる途中に転んでしまい、大きな木の根元にうずくまった。
「おい、観念しな」と男はいやらしい顔で笑う。
「こんな、話が違うじゃないですか。私を奴隷から解放してくれるって言ったのに」
「奴隷から解放して、今は俺の性奴隷だよ」
「そんな、ひどい」
「お前は大金で買ったんだよ。俺の言うことに一切逆らうな」とそいつは女性の顔を引っぱたく。
「ひい!」
その後、女性の髪を掴んで、引っ張りまわし、腹を何発も殴る。
女性は抵抗するのをあきらめたようだ。
「おら、さっさと服を脱いで裸になれよ。殺すぞ、この奴隷が」
怯えた女性は、泣きながらボロボロの奴隷服を脱ごうとする。
「やめなさい」と私は後ろから声をかけた。
「誰だ、お前は」と男が振り向く。
卑しい顔をしているなと私は思った。
「この世界では奴隷制度は廃止されていますが、ご存知ないのですか」
「邪魔すんじゃねーよ。金出して買ったんだから、この女は俺の物だ」と言いながら、その男は訝し気な顔をした。
そいつは、私の着ている服を見て言った。
「その恰好、お前も転移者だな」
「違います」
「うそつけ。何だ、その恰好は。まあ、可愛いから許す。俺はハーレムを作るつもりだ。お前も俺のハーレムに入れてやろう、有難く思え」
どうやら、こいつは異世界からの転移者のようだな。
最近、こういう奴が爆発的に増えている。
本当に困った事だ。
ハーレムか。
私はハーレム自体は否定していない。
みんなでほどほどに楽しく暮らしているなら、別にかまわない。
いちいち干渉する気は無い。
しかし、暴力で強制しているとなると別である。
こいつは質の悪い転移者だな。
「この女性を解放し、立ち去りなさい。三秒待ちます。さもなければ瞬殺します」
「何言ってんだ」と男が笑い、剣で襲いかかってきた。
三秒立った。
私は、人差し指を少し動かす。
瞬殺!
男の首が切断されて、血が噴出する。
女性が悲鳴をあげた。
一見残酷のようだが、苦しまずに死なせてやるには一番良い方法だ。
「大丈夫ですか」と私は女性に近づいて声をかける。
「た、助けてくれて、ありがとうございます」と女性は、私を怖がりながらもお礼を言った。
「あなたには信頼できる親か親戚、または友人などはいますか」
「は、はい、います。私は山菜を取りに行った帰り、自分の村に帰る途中で山賊に誘拐されたんです」
「では、その村まで送りましょう」
「けど、ここからだいぶ遠いですが……」
私は、その女性の手を握る。
瞬間移動!
女性の生まれ故郷の村に移動した。
家族に引き渡す。
「本当にありがとうございました。あのお名前は」
「魔法使いのマオと言います」
私はそう言い残し、また瞬間移動する。
「魔王」とは名乗らない。
以前、そう名乗ったらショック死した人がいたので、気をつけている。
魔法使いなら、瞬間移動しても違和感はないだろう。
私は魔王の娘として、この世界に誕生した。
そして、魔王の座を継いだ。
そう、私は魔王だ。
私は秩序ある世界が好きだ。
秩序が大好きである。
世界の秩序を乱す奴は許さない。
そういう奴らはこの手で叩き潰してやる。