2 二つの不幸
診療所の窓から、龍は圭太が登校するのを見送っていた。ずっとここにこもっている龍には、圭太は朝から一度も会っていない――と思っているはずだ。不幸を行き来させることは、本来人間に必要のない行為で、それは一時的でも体力と意識力の低下を招く。不幸を取られたり、与えられたりした後の人間は必ず意識を失い、その瞬間の記憶は薄れ、夢だと思いがちなのだ。
龍に不幸を返された圭太も、数十分間とはいえ意識を失った。恭平の指示で龍は眠る圭太を寝室へと運び、その後はここに留められている。
別に不幸喰いのことをごまかすつもりではないだろうと思う。ただ今は、傷心の圭太に、これ以上傷を増やさせたくはないのだろう。恭平と圭太。二人は本当の親子ではないらしいが、それ以上に、恭平は圭太を愛していると思う。その後ろに妻の姿を見ているのかもしれないが、昨日酒を飲んで、少し気分の良くなっていた恭平は、自分は律子が初婚なのだと話してくれた。
つまり、圭太は恭平のたった一人の息子。その感情には、同情などもあるのかもしれないが、それらをひっくるめても確かに、恭平は圭太を愛しているだろう。
昨晩、たとえ酒の入った体の上に寝ぼけていたとはいえ、龍は最低な事を犯した。不幸喰いは、その力に目覚めた時、本能的でも自分の存在理由を悟る。
不幸喰いの使命は、相手の不幸を見極め、癒し、相手が乗り越えられた時に、残り少ないその不幸を喰ってやる事だ。そうすることで、人は新たな道へと進む事ができる。だから不幸喰いは、比較的カウンセラーになることが多い。
既に圭太が見えなくなった頃、龍のいた資料室の扉が開いた。ここは恭平が患者の症状をパソコンに打ち込んだり、たくさんの資料文献があったりする部屋だ。主な恭平の仕事部屋といってもいい。
龍が来る前に整備したその部屋は、今は恭平の机の向かいに龍用の机が配置されている。
扉とは正面になる窓枠に手をついて、龍は振り返った。
そこに恭平がいることは分かっていた。自分のしたことは、龍自身を何より痛めつけている。他人の不幸が輝く光のように見える恭平には、龍がいつもより輝いて見えているかもしれない。
恭平のいる扉から向かって右手に、小さなキッチンがある、お湯を沸かす程度に使用されているものだが、恭平はそこで、置きっぱなしになっているやかんに水を入れた。コンロに置いて、火をつける。
「先生」
龍が初めて出会ったときの恭平は、本当に温厚な、一言でいう「いいお兄さん」だった。だけど正直に言えば、今回の事はこっぴどく怒られたほうが楽だったと思う。
「すみませんでした」
恭平に言われた通り、彼に謝る事は、何の意味もなさない。それでも、このやるせない気持ちを声に出す事で、龍は自分を落ち着けていた。
やかんに蓋をして、恭平が振り返る。
「もういいよ。過ぎた事はしかたないだろう? 圭ちゃんは傷つく事になるけれど、それも仕方ないのかもしれない」
「あいつは、つけなくていい傷をつけることになったんです。仕方ないなんて、そんなことない。俺、あいつがあんなに不幸を抱えているなんて思わなかった。ずっと気にはなっていたけど、特に、力に目覚めてからは……」
溜息を吐くように、恭平は笑った。そのままこちらに近付いてきたかと思ったら、自分のデスクに腰かけた。
「それでも昨日の夜、圭ちゃんの不幸は少なからず減っていた。それは龍くんのおかげだよ」
「俺がまた不幸にしたんじゃ、変わらない」
「君は責任感が強いんだね」
龍が俯きながら苦しげに発した言葉を、恭平は苦笑しながら受け止めた。ああやっぱり、怒ってはくれないのか。
「でもね、かつては不幸喰いでなかった君が、圭ちゃんのことを覚えていてくれた事だけでも、僕は嬉しいんだよ」
不幸喰いの能力は二十歳を境に百人に一人が目覚める。龍はそれよりも前に、圭太に会った事があった。
「ねえ、龍くん」
いつまでも後悔の念に駆られている龍を見かねてか、恭平は戸惑いがちな声を発して龍の注意を引く。言葉の先を聞くために、龍は顔を上げた。
「圭ちゃんを、癒してやってくれないか」
瞬間、龍は目をむく。
「なっ!? どうして俺にそんなこと……。俺は圭太にひどいことをしたんですよ? いくら不幸喰いでも、もう先生に信じてもらう価値なんか……」
「僕に圭ちゃんは癒せない」
ない、と続けようとした声は、あっさり恭平に遮られた。
「圭ちゃんがためている不幸には、僕のこともある。圭ちゃんの父親は、死に別れしただけで彼にとって悪い存在ではなかった。そんな子に、新しい父親は必要なかったんだ。圭ちゃんにとっての父親は、死んだその人だけだったから」
「それでも圭太は、先生を嫌ってはいません」
「好いてもないよ」
どこまでも自分の意見を曲げる気はないように、恭平は言い切った。龍は言葉につまる。
「でも君は違う。圭ちゃんにとって君は、好きも嫌いもない人間だった。だったら、これから好きになってもらうこともできる。――同じ失敗を二度繰り返しはしないだろう?」
つまり恭平は、龍がもう圭太を傷つけない事を前提に、そう提案しているのだ。もちろんそんな気は皆無だが、面と向かって言われるとはっきり頷く事には戸惑う。
それでも、龍はゆっくりと首を上下した。
その様子に、恭平の表情が緩む。椅子から立ち上がればコンロへと向かい、やかんが沸騰している事を確認して火を止めた。
「コーヒー飲むかい?」
「……はい」
二つのカップにインスタントコーヒーの粉を入れる、そこにお湯を注いで、水切りに置いてあるスプーンでよく混ぜれば、それを持って今度こそ龍の傍へやってきた。
差し出されたカップを受け取る。
「ありがとうございます」
「うん。……圭ちゃんの事で少し混乱していたけど、龍くんに相談したい事があったんだ」
「なんですか?」
真白な湯気をあげるコーヒーに噎せそうになりながら、冷ますために息を吹きかける。そんな龍に、恭平は窓枠に手をついて外を眺めながら口を開いた。
「昨日来た新患なんだけど、名前は小柴咲。小学六年生だ」
「はい」
「彼女にとったアンケートがね、どうも気になるんだ。彼女は自分がいじめられている事を認めているらしいし、学校が嫌いだとも言っている。でも、“昨日の自分を不幸”だと思ったことがないらしい」
ようやく一口飲めたコーヒーのカップを左脇の窓枠に置いた。右側の恭平を見る。
「昨日の自分?」
「うん。普通いじめられている子供は、朝が嫌いなものだ。今日もまたいじめられるのかと、昨日までの嫌な記憶が心を蝕むからね。だけど彼女にはそれがないらしい。朝を億劫だと思ったことはないと、彼女にとったアンケートに書かれていた」
龍はただじっと恭平の横顔を見ていた。恭平も分かっている事とは思うが、その咲という少女が昨日の自分を不幸だと思っていないということは、昨日の自分を他人事だと思っていることになる。
それは今朝の圭太が、自分の背負っている不幸などまるで忘れてピアノを弾いていたのと同じこと。
つまり――
「不幸喰い……ですか」
「分からない。でも……咲さんの近くに不幸喰いがいるかもしれない可能性はある」
前に向き直れば、龍は再びコーヒーを口に運んだ。自分が不幸喰いだから、余計に今の気分はやるせない。
不幸喰いは、自分が不幸な人間のために在るのだと、心のどこかで分かっている。それでも世界に犯罪が絶えないように、そんな暗黙の了解を無視し、自分の欲のためだけに不幸を喰らう輩がいるのだ。
自分の同胞が犯している過ちは、龍にとって悔しくもあり、腹立たしくもあることだった。
「ごめんね。仕事を始めた矢先に、こんな面倒に巻き込む事になるかもしれなくて」
「いいえ。俺はそのためのアシスタントですよ。それに、もし近くにそんな悪い不幸喰いがいるのなら、圭太に会わせるわけにはいきません」
正統派――という表現が正しいのは分からないが――不幸喰いの龍ですら、圭太の背負う不幸の誘惑に勝てなかったのだ。自分の欲に忠実である不当な不幸喰いが圭太に会えば、その不幸は根こそぎ喰われてしまうだろう。そうなれば、圭太は本当に壊れてしまうかもしれない。
「うん。そうだね」
俯き加減に頷く恭平は、それとは正反対の方向を向く龍の目には入らなかった。
今の彼が思うことは、《圭太を傷つけたくない》と、それだけだ。
「今度咲さんに会ったら、周囲の人間について、聞いてみることにするよ」
「昨日は母親も来ていましたよね?」
「うん。名前は雪華さんだったかな。彼女は娘の本音と傷を癒す事に、少々翻弄されている様子だった。僕としては、彼女はまずいじめをなくすことに奮闘するべきだと思うんだけどね」
「うちの親だって、多分俺がいじめられているといったら否定しますよ」
龍の親は、「将来、将来」と現在の龍には見向きもせずにそう言い聞かせてきた。いい大学に入るため、いい会社に入るため。そんなことばかり考えていた親が、目先の息子の傷に気付けたわけがない。
そんなものはお前の勘違いだと、一言で片付けられていただろう。
「それでも一応、龍くんの親御さんなりに愛情を示していたんだよ」
今となってはそれも分かっている。だから龍は、黙ってコーヒーを一口飲んだ。
***
授業というものは、ボーっとしていれば案外すぐに終わってしまう。何も考えていないのは、眠っているのと同じことなのだろうか。
眠っている……。
放課後の下足ロッカーで、ローファーに手をかけたまま圭太の動きが止まった。
今朝の事は、夢だったのだろうか。そうだ、落ち着いて考えたら、“あれ”が現実だったわけがない。男にキスされたとか、五年、いや、実際にはもう六年近く弾けなかったピアノが弾けただとか、不幸を喰う人間だとか……。
「……ありえなくて、都合よくて、ファンタジーな夢だな」
それが圭太の想像上の世界だというなら、彼は自分を疑いたかった。考えていることが意味不明すぎる。
それともこれは、病気の予兆か?
「……」
バカバカしい、と圭太は首を左右に振った。
龍があまりにも自分のことを理解してくれるから、少し都合よく考えてしまっただけだろう。でなければあんな夢、いくらなんでも突飛過ぎる。
そのまま掛けていた手を手前に引いて、ローファーを取り出した。無造作に地に放ったそれは、ふぞろいに落下する。器用に左右の靴を履き替えれば、内履きをロッカーにしまった。体を外に向け、肩にかけた鞄を持ち直す。
「圭太ーっ!」
踏み出そうとしていた足は、その一声に止まった。それが誰のものかは分かっている。この学校で、彼を《圭太》と呼ぶのは一人だけだ。
億劫そうに振り返る圭太を、気にしていないのか気付いていないのか、香苗は笑顔で迎え入れた。
「今帰り? あたしもだよー。……でも残念ね。これから練習だから一緒には帰れないの」
誰もそんなことは誘っていない。
「圭太、明日は何時?」
「は?」
明日、何か約束していただろうか。それに何時って、俺が決めるのか?
「……何が?」
こんな訊き方をすれば、香苗が怒る事は分かっていた。だが、無理に話を合わせて覚えていない事がばれれば、余計に彼女の機嫌を損ねる事になる。どうせ怒られるなら、早いうちに覚えていないと白状したほうがいい。
案の定、香苗の顔から笑顔が消えた。
「……コンサートのチケット、買ってくれたじゃない」
低くそう呟かれて、おもわず「あ」と上げそうになる声を、圭太はグッと抑えた。
すっかり忘れていた。チケットも財布に入ったままだ。
「明日の五時半開場で、六時開演のコンサート! あたしの登場は三十分後の六時半。それまでにちゃんと来てくれるんでしょう?」
こんなことなら、覚えているふりをした方がよかったかもしれない。圭太が嫌そうにしかめた顔を逸らしても、香苗はただ捲くし立ててくる。
「まさか圭太、最初から来ないつもりだったんじゃないでしょうね!? そんなの許さない。あたしの演奏が終わった後、ロビーで会おう? 絶対! じゃないと嫌いになるから!」
そんなことは別に構わないと言ったら、この少女はどうするつもりなのか。これ以上の面倒は避けたくて黙っていたが、ぼんやりそんなことを思ってみてもいた。
とりあえず、五時半なら診療も終わっているから、恭平に行ってもらえるよう頼もうと思う。今ならちょうど龍もいるし、チケットは二枚だから、後々言い訳もできるだろう。
「分かったの? 圭太!」
「分かったよ。だから行けって。練習遅れるよ」
圭太の言葉に、香苗は携帯電話の時計に目をやった。それが表示する時間に慌てれば、さっさと靴を履き替えて外へと出て行く。
その背中が見えなくなってから、圭太は盛大に溜息をついた。
***
「コンサート?」
圭太が帰宅してから診療時間が終わるまでには少し間があった。何かを始めて終えられるほどの時間でもなかったため、ボーっと待っていようと思ったら、うかつにも眠ってしまった。別に何もしていないのに、今日は嫌に憂鬱な気分なのだ。
とりあえず重い体を起こして下へ行ったら、恭平は夕飯の用意をしていた。どうしようかと思案している間に、龍がリビングへ現れたので、そちらに話を持ちかけることにした。
風呂上りらしい龍は、タオルで髪を乱暴に拭きながら、圭太が差し出したチケットを受け取る。
「うん。バイオリンのね。知り合いが出るからって、チケット買わされたんだ。龍くん、音楽興味ある? よかったら、父さんと二人で行ってきてよ」
こちらの話を聞きながら、龍はソファまで移動した。それに倣って圭太もソファに行き、龍の隣に腰を降ろす。
チケットを凝視していた龍は、不意に顔を上げて口を開いた。
「何でお前行かないの?」
「へ?」
「二枚あるから、誰か誘うのは分かるよ? でも、お前が買ったんならお前が行けよ。その知り合いだって、そのつもりで売ったんじゃねえの?」
思いもかけず核心を突かれて、圭太は言葉に詰まった。大人しく受け取ってくれればいいものの、どうしてそういうところにみんなこだわるのだろう。
「俺は……いいよ。音楽好きじゃないし。――父さんは、結構好きなんだ。だから龍くん、父さんと一緒に行ってあげて」
「好きだろ。朝ピアノ弾いてたじゃん」
「え……?」
まるで何でもないことのようにそう言われて、圭太は目を剥いた。ピアノを弾いていた? 俺が? じゃあ、
昨晩から今朝に掛けての出来事は、夢じゃない?
フッと、目の前が白けた。そのまま気絶できたらよかったのに、あいにくただの眩暈で終わった。こめかみを押さえて、わずかに前かがみになる。
「圭太。あれは夢じゃないからな」
「……」
「お前はピアノを弾いた。そして不幸喰いのことを知った」
ゆっくり、自分の右手を持ち上げた。ピアノを弾いたのだと自覚した途端、それは小刻みに震えている。知りたくなかった。
知りたくなかった。
「圭太……。これ、コンサート。一緒に行こう?」
圭太は驚いて龍を見る。何を言っているのか、すぐには理解できなかった。
「な……? 何で?」
「嫌いじゃないだろう、音楽。聴けば少しくらい癒されるかもしれない。逆療法だよ。お前はいつまでも逃げすぎなんだ」
そんな風に言われると、圭太の心は余計頑なになる。自分は、逃げた? ピアノから。音楽から?
「――俺は、逃げてなんかない。音楽が本当に嫌いになったから、聴きたくもなくなっただけだ。俺は、もう嫌なんだ。才能でしか生きられない世界は、才能がない奴には酸素を与えられないのと同じだから。苦しいんだ。だから俺は逃げたんじゃない。自分が生きられる世界に来ただけだ」
「だったら、捨てろよ」
顔色一つ変えずに龍は言い切った。はじめは言葉の意味が分からなくて、圭太は怪訝そうに目を細める。
そんな圭太を見かねて、龍は言葉を続けた。
「捨てろよ、ピアノ。あんな静かな部屋に放置しておかないで、いらないならきっぱり決別すればいい」
心臓をぎゅっと鷲づかみにされたような心地がした。彼が言わんとすることはもっともだ。でも、それに頷けない圭太は、一体何処から来るのだろう。
「……違う、あれは、父さんが……。あれは、母さんの形見だから、捨てることは……」
まるで言い訳のように、ぎこちなく言葉を紡いだ。
でも嘘ではない。あのピアノは、生前律子が毎日弾いていたものだから、捨てるなんて考えは、圭太にも恭平にもなかった。たとえそれが圭太にとって嫌なものでも、そこにあるのは当たり前だったのだ。
「だったら捨てるという形でなくても、どこかに寄付するとか、考えればいい。誰にも弾かれず暗い部屋に取り残されている方が、お前の母親は嫌がるんじゃないか?」
圭太は言葉を失った。
龍の言うとおりだ。何よりピアノを愛していた律子が、ピアノをただのインテリアにすることを望むはずがない。
そしてそれに、恭平が気付かないはずはもっとない。だったら考えられる事は一つだけだ。律子がピアノを、どこにもやらないことを望んだから。
もう一度圭太が、ピアノを弾く日のために。
「……大きなお世話だ」
吐き捨てるように圭太は言った。でも、この考えが本当なら、律子は圭太にピアノを譲ったという事になる。それはつまり、このピアノをどうするかは圭太が決めてもいいということだ。それが律子の意思に反していても、もうピアノは圭太のものなのだから関係ない。
そう思うのに、やっぱり捨てるなんて考えは浮かばなかった。ピアノはあの部屋にあればいい。弾きたくないけど、傷付きたくないけど、失いたくない。
圭太は俯いたまま黙り込んでいた。それを、龍がどう思ったのかは分からない。先ほど呟いた言葉を、彼に対してのものだと思っただろうか。分からないが、ふと開いた彼の口からは、それを事実とする言葉が紡がれた。
「そうか。ならもう何もいわねえよ。その代わり、俺だってお前の気持ちとかいちいち考えるのはやめる。いいな」
パッと顔を上げた圭太は、「え?」と声を上げた。
「大きなお世話だと思われても、俺は先生にお前を任されたんだ。だけど、だから言うんじゃない。俺だってそう思った。圭太、俺がお前を癒してやる」
「何、いってんの?」
さすがに言葉の意味が分からなくて、圭太は困ったように顔をしかめた。
「だから、またお前がピアノ弾けるようにしてやるっつってんだよ」
「い、いいってば! 弾きたくないもの弾かせるのが、カウンセラーの仕事なの? だいたい、俺以外に患者はたくさんいるでしょ? 龍くんの仕事はそっち――」
口を塞ぐ代わりに、頬をつままれた。龍は呆れたように目を細めてから、
「間違いが二つある。一つ目は、……弾きたくないなんて嘘だろ? 弾けるなら、もう一度弾きたいんだろう、ピアノ。それに、俺はカウンセラーとしてお前を癒すんじゃない。昨日も言ったけど、俺が癒したいから癒すんだ」