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俺の血がこんなに美味しいわけがない

 下の階に着くと、まず大型トラックも余裕で通れそうなバカでかい玄関が目に飛び込んできた。

 どうやらこの館は3階建てでここが一階らしい。

 玄関ホールを挟んで両側に部屋のものよりも立派な大きな扉がある。

 ローラは階段から近い方の扉を開くと、俺を中へと招き入れた。


「ここは食堂よ。奥にはキッチンがあって、料理は交代で作ることになっているわ」


 白いテーブルクロスのかけられた5mほどはある巨大な長机の上に等間隔に燭台しょくだいが並んでいる。

 豪華な部屋に耐性がつき、これくらいの部屋では驚かなくなってきた俺はなるほどと呟くと食堂を後にした。


 「最後はお風呂よっ」


 玄関を挟んで反対側の扉に手をかけながらローラは言う。

 先ほど俺の隣の部屋をノックした時にローラが言ったことを思い出し、俺はローラに呼びかける。


「おい、さっきニーナはお風呂かしらとか言ってなかったか……」


 しかし忠告よりも先にローラはすでに扉を開いてしまっていた。

 板張りの床をした脱衣所はどうやら銭湯のように男女別では別れていないようだ。

 湯からあがったばかりであろう少女は一糸まとわぬ姿でそこに立っていた。

 人間でいうと14・5歳だろうかローラよりも若干年上に見える銀髪の少女は、扉の開く音を聞いてこちらに振り返る。

 白い肌に少し膨らんだ乳房、形のいい腰をした少女は俺のことを見るとキャアと叫んで、タオルで体を隠した。


「ニーナ、ごめんなさい」


 ローラは慌てて扉を閉める。

 今日このパターン多いな、俺はそう思いながらニーナと呼ばれた少女が着替えて出てくるのを待った。

 数分後、湯上りのせいか先ほどのせいか分からないが顔を赤くして出てきた少女は、申し訳なさでより小さく縮こまっているローラに向かって声を張り上げた。


「ローラ! 私がいつもこの時間お風呂に入っているの知ってるでしょう!」

「ごめんなさい、ついテンションが上がっちゃってて」

「まったく……で、この人が例の男の子?」

「はい。よろしくお願いします」

「よろしく坊や、私の名前はニーナ。ニーナ・ファヴァールよ。ローラの妹だわ」

「妹? それにしてはニーナさんの方がローラちゃんより大きいような、色々と」

「色々? まあ背はローラより大きいわね。でもまだ120歳でローラより10歳若いわ」

「ちょっと、なんでニーナはさん付けで私はちゃんなのよ!」


 ニーナさんもアナちゃんと同様に俺のことを知っていたみたいだ。

 初対面のはずなのに俺のことを知っている風な少女達に疑問を投げかける。


「2人とも以前から俺のことを知っていたみたいな口ぶりだけど、もしかしてどこかで出会っていたりする?」


 質問をすると2人は互いに顔を見合わせて、面白いことがあったかのようにクスクスと笑った。


「そうね、その疑問は夕食の時に分かると思うわよ」

「ふふふ、後のお楽しみよ坊や」


 なんだかはぐらかされてしまった感もいなめないが、俺は疑問を夕食時まで楽しみに取っておくことにする。

 その後、ニーナさんとローラの三人でしばらく談笑していると玄関に置いてある柱時計がゴーンと音を立てた。


「あら、夕食の時間だわ。今日の当番は私だったわね」


 ローラはそう言うとパタパタと食堂へと駆けていった。

 俺は食事の時間まで自室で休むことにして、ニーナさんとはいったん分かれた。


 部屋に戻った俺は、吸血鬼ライフを充実したものにするため小説などに出てくる吸血鬼の弱点を思い浮かべる。

 たしか日光は駄目で、ニンニクと十字架もアウト。流水も渡れなかったっけ……。

 炎で焼かれると死ぬとか心臓に杭とか鏡に映らない等は、普通に暮らしていく中では特に問題はないだろう。

 ニンニクくらい食べなくても生きていけるし、キリスト教徒じゃないから十字架もセーフ。

 つまり俺は流水と日光さえ気を付ければいいのかな。

 この館で生活するにあたって昼間にカーテンを開けたりさえしなければ快適に暮らせることが分かった俺は、新しく手に入れたこの第二の人生を精一杯楽しもうと誓った。


 部屋の真ん中でこれから始まるであろう楽しい吸血鬼生活を妄想していた時、部屋の扉がノックされた。


「ごはんが出来たみたいよ、坊や」


 この綺麗な声は隣の部屋のニーナさんだ。

 俺は部屋から出て、ニーナさんとともに食堂へと向かった。


 食堂に入ると、白いフリルの付いたエプロンを着たローラがそこには居た。

 ローラは俺たちが食堂に入ったのを見ると、こちらににっこりと微笑ほほえむ。

 机の上にはグラスワインにサラダとスープ、そしてフランスパンと鳥の丸焼きが置かれていた。

 香ばしい鶏肉とパンの香りが食欲をそそる。

 てっきり食事は血液オンリーだと思っていた僕は彼女たちに質問する。


「血は飲まないのか?」

「吸血するのは3日にいっぺん位よ。しかも最近は人間の輸血用の血液を仕入れて飲むの。その方が清潔で簡単だもの」

「案外ビジネスライクな吸血スタイルなんだな」

「あ、でもお祝いの日は別よ。特に今日はあなたが来た日だもの、食後に最上級の血を用意しているわ」

「最上級? 処女の血とかか? それともアスリートのサラサラ血液とか」

「それは飲んでからのお楽しみよ」


 俺とニーナさんが席に着くと、遅れてアナちゃんがやって来た。

 相変わらず眠そうなアナちゃんは、俺の斜め前の席に座り大きなあくびをする。

 全員が席に着いたのを見届けたローラはワイングラスを持ち上げ乾杯の音頭を取った。


「えー、今日は新しい住人がやってきた記念すべき日よ。お兄さんの吸血鬼生活初日を祝って、乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 まずワインを一口飲み、新鮮な生野菜のサラダを口へと運ぶ。

 シーザードレッシングだろうか、上にかかったソースがシャキシャキのサラダをよく引き立てている。

 続いてスープのミネストローネを口に含むと、トマトのほどよい酸味が口いっぱいに広がる。

 メインの鶏肉もこんがりと焼けた皮にナイフを入れると肉汁があふれた。

 まるでレストランのようなおいしい料理はみるみるうちに口の中へと消えていき、あっという間に完食した。

 心地よい満腹感を感じながら周りを見ると、他の皆もちょうど食べ終えたようだ。

 ローラは皆が食べ終えたのを見届けると、キッチンへと最上級の血とやらを取りに行った。


「さあ、本日のメインディッシュよ。まずは今日の主役のお兄さんからどうぞ」


 ローラが運んできたのはやはり輸血パックだった。

 空のグラスに一口分だけ注がれたそれ(血液)は献血の時に何度も見たものと特に違った様子はない。

 意を決してグラスの中の血液を飲むと、まるで年代物のワインのような芳醇ほうじゅんな香りが口いっぱいに広がった。


「うまい! 血ってこんなにおいしかったのか」

「吸血鬼になって味覚が変化したからよ。人間のまんまだったら鉄臭くて飲めたものじゃないはずよ」

「で、この血液は誰の物なんだ?」

「知りたい?」


 ローラは意地悪な笑みを浮かべ俺の方を見る。


「血液型AB型のRhマイナス、つまりそれは今日事故にあったときのあなたの物よ」

閲覧ありがとうございます。

次話は3月20日に更新する予定です。

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