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12.メガネな姉とヤンチャな弟

 翌日、何事もなく朝を迎えた。


 結局、送りまくると言っていたレイリアのメールは一件も来ず、晩飯はカレーではなかった。レイリアのことだから恐らくメモを見てもわからなかったのだろう。怪物も色々と大変である。

 それにしても眠い。昨日は早起きしてしまったが今日は普通に起きてしまった。ていうか早起きしても怖い犬と出会うだけかも知れないのでする意味ない気がするが。


 自分の部屋を開けると、俺と同じく眠そうな、髪が軽く染まってる不良少年がそこにはいた。


「よぉ、おはよう不良」

「誰が不良だアホ兄貴」


 互いに貶しあう。どうやら、我が弟は今日もいい感じに反抗期らしい。


「その、わかってますよ的な顔を朝からすんのやめろ。腹立つ」

「兄貴に向かって腹立つと言うかお前は」


 二階から降りていって洗面所へ互いに向かう。二階には子供部屋が三つあり、ウミは姉ちゃんと一緒の部屋で共同。たまにこの不良少年、橋居はしい 犬虎いぬとらの部屋で寝ていることもあるが。ちなみに俺の部屋でもあることはあるのだが、犬虎の部屋のベッドは二段だが俺の部屋のは平凡なので一番頻度が少ない。


 洗面所に行くと、姉君の橋居はしい 巳辰みたつが顔を洗っていた。


「おはよう、トラ、鳥馬」


 目つき悪く挨拶をしてくる姉。まぁ目が悪いから、目を細めて見ているせいではあるが。ちなみにいつもはメガネ着用、コンタクトはつけない派らしい。俺と犬虎は、おはよう、と言い返す。


「もう洗面は終わったし、使っていいわよ二人とも」


 そう言って、置いてあったメガネを装着して、洗面所から出ようとしながら髪を結い始める姉。


「姉貴、またその委員長系三つ編みメガネするのかよ。それ止めたら姉貴だってちょっとはモテると思うけど、コンタクトにするとか結うの止めるとかしないのか」

「うっさいな、そういうのは私の勝手でしょ。姉の恋愛事情に突っ込まないのこのマセガキ」


 あでっ、と言いながら姉ちゃんのデコピンで怯むトラ助。この犬虎、俺には反逆するのだが姉ちゃんには滅法弱い。俺と姉ちゃん、一体どこで差がついたのやら。っと、洗面所は先に使わせてもらうとすっかな。


「そんなこと言うなら、二人だって彼女の一人でも連れて来なさいよ。鳥馬は昨日連れてきてたみたいだけど」


 顔を水で洗い、歯ブラシで歯を擦ってるときに二人の視線はこちらに来る。おかしいな、姉貴は昨日部屋にこもりっきりだと思ってたのだが見ていたのか。


「え、兄貴が彼女? いや、嘘だろそれ」


 否定してくる弟。嘘どころか誤解なんだけどな。


「本当よ? なんか真っ白で綺麗な髪の女の子。正直鳥馬には勿体無いかなって私も思っちゃったけど」


 言いたい放題言ってくれるなこの姉弟。ただ、困ったことにそれを一番自覚してるのが自分である。つうか、レイリアは怪物だからそんな関係になるのはまず無理だと言いたいのはここだけの話。姉ちゃんに犬虎、ウミは異端のことは知らないからな。あと父さんも。


「ていうか、彼女じゃないよレイリアは。ただ偶然知り合った変わった子」

「偶然知り合うって……鳥馬、そんなことあるわけないでしょう? 漫画みたいに運命の出会いなんてないのよ?」

「でも事実。漫画の出来事も割と起きるものらしいですぜ姉ちゃん」

「……なんかムカつくなー」


 眉をひそめてこちらを見る姉ちゃん。そんな無茶苦茶な。流石は母さんの性格を一番濃く受け継いでると思われる姉ちゃん。理不尽さならば兄弟一かと思える。家族ならば断トツで母さんだが。

 そこまで思って、犬虎が何も言ってこないのに気付く。姉ちゃん同様なんか言ってくるかと思ったんだが。


「お前は反論無しか?」


 犬虎にそう聞いてみると、犬虎はハッとした表情をして、目を背ける。


「……さぁーな」

「なんだその曖昧な回答。もしかして気になってる人でもいるのか?」

「……そんなんじゃねーよ。それより俺も使うからどいてくれ」

「ん? ああ、悪い」


 俺は犬虎と場所を交代する。しかし、気になる反応だ。もしかしたら犬虎に春が来そうなのかもしれん。よいよい。


「……二人してその表情、ムカつくからやめてくれねぇかな」


 そして俺と姉ちゃんを睨む弟。どうやら姉ちゃんと俺は同じ目線を犬虎に送っていたらしい。そんな睨んでくる犬虎に対し、俺と姉ちゃんは愛想笑いで返した。


++++++


 数分後。トーストが出ていたので俺と犬虎と姉ちゃんは椅子に座ってテレビのニュースを見ながら食す。中々美味い。


『昨夜、××県皿土町△△のコンビ二の路地裏で男性が遺体で発見されました。警察はこれを殺人事件と見ており――』


 なのにニュースは美味いどころが渋くなりそうな話題。殺人事件とか、三年前のろくでもないお話を思い出してしまいそうで勘弁だ。


「皿土町って、隣町じゃない。さっさと捕まるといいんだけどね。いっそ母さんが探して叩きのめそうかしら?」


 台所から現れてそうそう物騒なことを言う我が母。殺人犯叩きのめしに行くとか言う母親はアンタぐらいなもんかと思う。


「何言ってんだ、無理に決まってんだろ」

「そうよ、母さんは確かに凄いけど無理だって」


 うちの母親が化物と張り合えるとわからない姉と弟は否定する。とぼけるように笑う母。笑えない俺。


「そういえば、まだウミは起きないの?」

「うん。頬を引っ張っても起きない。鳥馬、起こしてきてもらっていい?」

「ああ、それがいいわね。起こしてきなさい鳥馬」


 いきなり俺に振って来るマイシスター。それに追い討ちかけて決定させるマイマザー。うちの二大理不尽は朝から全開だよチクショウ。


「わかったよ。ほら行ってこい犬虎」

「言われたの兄貴だろが、早く行け」


 俺の発言に強制力皆無。なんだこれ、この場にいない親父とウミだけが俺の良心? 家のカースト制度は年齢序列とか無い、不平等に平等でもう素敵ですねこんにゃろう。


「あーはいはい、わかったよ」


 俺は口を曲げつつ、トーストひとかじりして椅子から腰を上げて階段を上がっていく。そして姉ちゃんの部屋に入ると、二段ベッドの下で幸せそうに眠っている妹発見。


「も~、食べられないよぉ~」


 なんて使い古された寝言を吐くんだこの妹。パジャマから腹も出てるし、腹壊しても知らないぞ。


「おーい、起きろウミー」

「ん~……にゃあ」


 起きる気配皆無。何がにゃあだ。という訳でまずは姉ちゃんのやっていた頬つねり作戦開始。


「ぬー……うにゅ~……」


 効果なし。変な言葉を発しただけだ。つうわけで、見せている腹の部分をくすぐり開始。


「……んー……!」


 不快そうな声を出す。だが止めない。


「うー……うぐー……」


 更に不快そうな声を出す。だがやはり止めない。


「ほーれ、さっさと起きろウミー。お前が起きるまでこれは止まらないぞー」


 右にごろごろ左にごろごろ。ウミは俺の魔の手から逃れようとしているが、決して逃すことはない。さぁ、どうするどうする我が妹。何か楽しくなってきたぞこれ。


「うへへへ。さぁ観念して起きろ我がいも――」

「ぬぁぁー!」

「あぐぉっ!?」


 楽しくなってきた結果。俺は勢いよく起きたウミからアゴにアッパーを食らった。俺がカセットゲームの格闘キャラだった場合、ここでやられ声エコーが三回ぐらい響いていただろう。


「って、あれ。お兄ちゃん……?」

「…………うん、兄だ。飯も出来てるし、早く顔洗ってこい」

「はーい」


 目を擦りながら寝ぼけ眼で洗面所へと向かうウミ。とりあえず人を使って遊ぶとろくなことがない、というのが今日の朝からの教訓なのであった。

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