手紙
この作品は前作『ゾンなめ。』の後の話という位置づけになっております。ですのでお手数ではありますが、そちらから読んできていただきますと「ああ、そうなんだ」と思ってもらえるはずです。
机の上には手紙の封と、かなりの量の便箋が重ねられていた。
フィンレイ・ライバーは席に戻るとふぅ、と一息吐いてその便箋を手に取る。
多分、これで良かったはずだ。自分がかきもらしがないか、もう一度読み直す。
『親愛なる友人へ
やぁ、ガリランドの町は今どうなっているのだろうか?
まったくおかしな話だけど、こうして手紙を書くとこの始まりからになってしまうね。
ただ、前回とは少し違うこともある。
今、僕は旅を終えて新たな住居の一室でこの手紙を書いている、ということだ。
それはそれで、時間が過ぎ去ったということを嫌でも思い知らされてしまうよ。ちょっと前まではこんなふうに年寄りがいうようなことを感じたことも考えたこともなかったのにね。
今回も君との約束を守って、あの出来事の続きについて書くつもりだ。心して読んでくれよ。
ただ、そっちも今は色々あるだろうから、得意になって外で公表して不興を買うなんてことにならないようにしてくれ。君の心にとどめてくれるだけでも、正直いって僕は救われると思っているんだ。本当だぞ?
あの、僕等が体験した恐怖の一夜については最後に会った君の家で話した時や前回の手紙で一応全て語りつくしたと思う。(もしなにかが抜けていたなら知らせてくれ、ちゃんと全部を説明できるから)
今回はあの後のことだ。
そう、僕らライバー家がガリランドの町にいられなくなるまでの話だ。
くたくただった僕等が目が覚めた後、まっ先にやったのは衛兵に自分達が体験した出来事を話して届け出ることだった。
このことは神に誓ってもいい、あの衛兵達は僕らの話を最初はまったく本気にしてくれなかったんだ。それどころか、ある奴なんか「こんな時間から酔ってるのか?ここは酒場じゃないからアルコールはないぞ」などといって追い返したくらいだ。
あそこの衛兵隊長はほんとうに役立たずのクズさ。
これについて詳細に語ると、時系列がおかしくなるから後に回そう。他にもたっぷりあるしね。
とにかく、その後で衛兵隊の第1陣が例の隠れ家に突入して失敗するんだけどそこでようやく向こうは僕らの話について信じる気になったんだ。
わざわざ家に来て、協力してほしいとかいって誤魔化してたけどさ。
兄もおじいちゃんもこの時も素直に協力した(この時、2人が衛兵を無能呼ばわりしたっていうけど。僕は嘘だと思っているよ。多分、なんども言われ過ぎてあの衛兵隊長、いつ罵倒されたのかわからなくなってるだけさ)
だけどその結果、町の住人の大量行方不明がはっきりと噂で広まってしまったんだ。
これについては僕らに言いたい事がある人達もいるだろうけど、こっちにだって言い分はあるさ。
まぁ、いい。
とにかく衛兵隊の第一陣がボロボロになって戻ってくる頃には、まわりはもう大騒ぎになっていた。ちょうどこのころ、外出許可で君の家に泊めてもらったけど、今思うとおじいちゃんも兄もこのままだと僕が気軽に外出できなくなるとわかっていたからなんじゃないかと思うんだよね。実際、それは当たっていたしね。
とにかく、町長はじめとしてまとめ役は姿を消し、衛兵はボロボロだったけどそれを誤魔化そうとしてかえって騒ぎを大きくするという負の連鎖っていう混乱がはじまったわけだ。
この頃から、僕らの話も広まり始めたんだけど、なぜか逆上してうちに押しかけてくる人が日に日に多くなってきたんだよね。事件の事はもらさないでほしいと言われてたから、あれは本当に困ったよ。
で、次に僕等が再び出ばって、アジトに突入。抵抗を排除したんだけど、あっちもこっちも「ライバー家は殺人者」とか騒ぎまくったせいで僕等は町を出て行きました。で、終わってしまう。でも、それじゃあまりにも手を抜きすぎだと思うんだ。
だから、ここからはいわゆる色々と集めたからこそ見えてくる真実ってやつになる。
といっても、僕はすべて目にしたわけじゃない。これは言い訳じゃないけど、あの時は家を出るのも、家の中で生活するのもピリピリさせられてて気軽に僕自身があちこちについて行けない事情というものがあった。
だからまぁ、君の好奇心を満たす程度には面白そうな話題として、兄達から聞いたことやその後の展開から推測などしてわかりやすく順番を揃えて話をしてみるよ。
まず、衛兵達による最初の突入は、実はかなり悲惨な結果だったと思われる。
これは自分も見てるからわかるけど、後でアジトを制圧した時。かなりの数の遺体を回収したんだ。で、あの隊長はこれを隠してその間によそから出来るだけ多くの助けを呼んでいたらしい。
そのことじたいは理解できるけど、利口なやり方じゃなかったとしかいえないね。だってそのせいで、衛兵の家族達まで行方不明扱いされて、さらに騒ぎが大きくなってしまったのだから。
とにかく、援軍を得た後で一気に事件を解決しよう。そういう流れは出来ていたんだけど、その援軍が突然送られなくなるんだ。これは多分町でも噂になっていたと思うけど、なぜそうなったのかまでは出ていなかったんじゃないかな。
結論から先に言うと、教会と魔術師がこの話に加わってきたからというのがその理由だ。
なぜそうなったかというとこんな感じになる。最初はどちらもたいしてこの事件に興味を持っていなかったけど、次第に町のまとめ役達が関わっていたと知って不安になり慌てて自分達も、と調べたようなんだ。
で、その結果何人かが姿を消していると知って慌てて出てきたんだと思う。
そして教会は自分達の自前の軍隊呼ぶとかいって騒ぐし、魔術師達はこれは陰謀だから捜査が先決だと騒ぐし、衛兵はそんな風に騒がれては援軍が遠慮して動けないと怒る。もう酷い混乱が起きたんだよ。
で、ここで僕らの登場ということになる。
なんてかっこつけていってみたけど、実際は彼等をどう納得させて、どんな交渉をしたのか僕は知らないんだよね。
でもまぁ、とにかくそういうわけで僕等は再びあの悪夢の場所へと今度は勇ましく攻め込んだんだ。この時の話もそれなりにあるけど、長くなるので今回は省略。どうしても気になるなら、そういってくれ。とにかく今回は長くなるからざっくりと省略する。
ただ、僕等にとってもとても辛くて厳しい作業になったということは言っておきたい。
元々は傷ついた遺体を見せないようにと、それぞれ灰にしてから遺族に渡す手はずになっていたんだ。けれども、どこからか話しがもれて、現場に人が集まりだして例の遺体強奪事件とかおこってしまった。
それでさらに混乱がひどくなるのを恐れた衛兵隊が残った遺体をまとめて処分しちゃうんだけど、あのやりように僕等は意見を言えなかったんだよね。とにかく騒ぎが大きくなりすぎた。
そうやってアジトを制圧、浄化、譲渡と段階を踏むんだけど、この最中も町の混乱はまったく収まろうとはしなかった。
僕らの家のまわりにも兵が並んでの厳戒態勢は続いていた。
この時さ、実はもうひとつ大きな事件が起こっていたんだけどこれが笑えない話なんだよね。
なぜならそれを引き起こしたのは、不本意な話だけど僕らかも知れないからなんだ。
そもそもは制圧の際、僕らが見つけた信者と思われる名前のリストを見つけたのが始まりだった。それを事件の捜査にと思って彼等の前に提出したんだよ。僕らは捜査するわけじゃないから、これは当然のことだと思ったからね。
だけど、これがまずかったらしい。
リストの載っていた大半の名前は死者だったんだけど、十数人ほどまだ存命だったみたいなんだ。
この頃があれだ。あの衛兵隊が白昼に突然仲間の1人の家を襲撃、強引に連行したあげくに獄中死させたあの事件、あれがそう。これは衛兵だけじゃなくて、多分ギルドや教会でもあったと思う。
あったと思うっていうのはなぜかというと、彼等は未だに捜査機関に引き渡されてないからわからないんだよね。
兄がいうには、たぶんもう生きて姿をあらわすことはないだろうって怖いこと言ってたけど。
とにかく、この件で3者それぞれが本格的に互いを非難し始めちゃったんだ。
でも同時に世間の僕らに対する風当たりもいい加減危険なところまで来ていた。
あまりに動きがおかしいから、教会の上層部と国の上の方も気になりだして出てくるという話しもあったらしい。
それで、とにかく一度決着をつけようということで報告書が作られたんだけど、はっきり言っておくよ。あのクソ野郎(つまり無能な衛兵隊長殿のこと)の名前をつけたあの報告書は最悪だった。
あんなに僕等が協力してやったというのに、あの報告書では僕等はまるで事件を盾にあおりにあおってひどいことをしているとか書きたてたんだ。しかも、その要約部分「ライバーの連中が原因、あいつらが悪い」ってとこだけ抜き出して町に張り出したんだ。僕らに向けられた目は非難なんてものじゃなかったよ。
そして僕等は町を出る羽目になった。
こうして書いてみても、やっぱり腹の底では納得いかないことは多いよ。それでも、おじいちゃんや兄がしっかりしてくれていたから、あのクソ報告書が世に出た時も。それほど時間をかけないで町を出る用意をちゃんとしてくれていた。
実は昨日、郵送でガリランドの共同学校から卒業証書が送られてきたんだ。
先生も言葉少なく、これからの成功を祈ると書いてくれていた。兄とは一応の約束で、共同学校で1人だけの卒業式をやってもらうことになっていたけど、あの騒ぎでそれもなくなって本当に落ち込んでいたんだよ。でも、そうは言ってられないよね。
僕は大丈夫だよ、新しい町に来たけどなんとかやっていけそうさ。
そうだ、最後になったけど僕が新しく住むこの場所について書いておくよ。
ウィンター・エンド。三国連邦の第3位と呼ばれるほどの大都市さ。本当に人が多いんだよ。
なんと貴族、平民とそろって3万人以上いるっていうんだからね。
まぁ、人のるつぼだからか治安はそんなによくないけど、とても活気のある場所さ。
ここはもうひとつ、ウィンター・コートっていう城塞があるんだ。
これは本当にすごくてね、丘じゃなくて山と言っていいくらいの大きさがあるんだよ。
なんて偉そうに書いているけど、僕自身ここには来てまだそんなにたっていない。だからなにがあるのかなんてわからなくて、なにもかもこれからだよ。
今はとにかく落ち着かなくてね、僕はおじいちゃんについてあちこちを挨拶しに回っているんだ。もうヨボヨボだからそうでもないだろうと思っていたけど、竜殺しの異名はまだ通じるらしい。僕らを歓迎してパーティを開こうと思う、なんて話も出ているんだ。
そうなると、僕も社交界にデビューってことになるのかな。ああ、それはちょっとしんどいかも。
あの不気味に毎日を引きこもっていた兄もそれは同じみたいだ。でも、今の彼はあのころとは違う、毎日を休む暇なくあちこち飛びまわっているよ。人が変わった、なんて言葉があるけど。あれはもう中身ごとそっくり変わったんじゃないかと疑うレベルだよ。
でも不思議とやせないんだよね、食欲は落ちてないからかな。
まぁ、とにかくそういうわけで、新しい場所で新し家で僕は元気さ。
なにがどうなるとかまだ決まってないけれど、近いうちきっとなにか話題になるようなこと、始められたらなって思ってるよ。
それじゃ、今回はこの辺で。またね。
君の友人より フィンレイ・ライバー』
読み直して見た。
まぁ、こんなもんだろう。封筒に入れさっさと封を閉じる。
それが終わると、手の中にあったその手紙を机の上へと投げ出した。
ふぅ~~~~~~~
ため息が漏れる。
嘘だった。
全部がウソだった。
フィンは今、いわゆる強烈なホームシックから鬱気味になっていたのだ。
マジで毎日がつらい、生きるのがつらい。
手紙ではいきがって元気だ、未来は明るいからみたいなノリで書いたがそれは全部強がりで、真実はその間逆だ。
ガリランドを放り出されるように出てきて以来、どうにもこうにもやってられなかった。
そこに来てこの町である。
ウィンター・エンド。なにが冬だ、なにが終りだ、バカ野郎め。
でかいのである、圧倒的なのである。
町の入り口から見上げたら、遠くに見える小さな一角が次の俺達が住む場所だと聞いて気が遠くなりかけた。道いっぱいに人が詰まって移動しているのを見て、息苦しさを覚えた。見上げるほどの巨像はあちこちにあって、そのどれもが見事な出来栄えであった。
そんなショックの数々からあまりにヘロヘロしすぎてしまい、最初は面白がっていたファーギーも次第にイライラして「田舎者」呼ばわりし出す始末。
正直に言う、ここでやっていける気が今は全くしない。
僕はもうダメかもしれん。
フィンレイ・ライバー。17歳となって新しい町で今、静かに空回りし続けていた。
よかったら感想等ください。




