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ウィンターソルジャー  作者: 鷹雪
死霊のはらわた
21/27

A計画

この章だから、ということなのでしょうけど今回も長々と話しております。


 再びライバー邸に一同が集まった。

今回は先日とは違い、作戦会議である。前回のように、どこかくだけたあの感じは微塵もなかった。


 そこにヨニーが現れると、手にした紙に目を落としながら大きな声で語りだす。

「よーし、それでは全員こちらに注目。とにかく作戦は立てた。この通りの方向で、これなら解決も可能かもしれないという道筋が見えてくると思われる。あとは全員でそこを目指してやってみるしかない」

すると不安そうな顔のウ-テがちょこっと手を上げるのを見て、ヨニーは「はい、どうぞ」と声をかける。


「あの、ですね。その予定通りに行きそうにない時。その場合はどうなるんでしょう?」

「ああ、そうだぜ。それに解決方法は向こうが望むハッピーエンドってのが条件じゃなかったか?作戦を立ててもその通りにならなかったら、面倒をしょい込むことになる」

 ウ-テに続きファーギーも声を上げるのを見て、ヨニーは一同の一番後ろに立って壁に寄りかかっているグリフを見る。それをうけグリフの口が開いた。

「わかっている。だが、今のうちの戦力だけでハッピーエンドに至るのは多分不可能だ。周りの協力と運が絶対に必要になる。それに、詳しいことはまた別に話すことになるが。その娘、このままだと長くはないとわかった」

 意外な言葉に驚いたフィンが兄に

「えと、長くないってことはどういうこと?」

 と聞いた。

「簡単な話だ。じきに彼女は正気を失うということだ。そうなったらもう助けられない、殺すしかない」


 その言葉を聞いて、ケイン老は自分のあごに手を置くと

「ふうむ、それで説明は別といっておったな。今ではだめなのかの?」

「じいちゃん。前にも言ったが俺の推論に確証はない以上、予断を与えるような情報をここでは言えない。かわりに役割ロールを与えるからそれを全力ではたしてほしい。皆も聞いてくれ。例えるなら堅固な城を攻撃するような繊細で危険な依頼だ。きちんとした下準備が必要になる」

 そういうと再びヨニーにむけ、合図を出す。


「それではそれぞれの役割を。まず、当主殿は私とブルンネル氏との話し合いに臨みます。契約書の細かい点を潰しておくためです。その間にフィンレイ君はウ-テ君には聞きこみをしてもらいたい」

「わたしですか?誰から?」

「そうだな、まずは侍女がいるはずだ。その人達から一通り話を、そしてその後で……」

「フィン」

 グリフは弟の名を呼び、弟は兄を見た。

「危険はお前が担当だ。彼女本人と再び面会しろ」

「それってさ。なんかマズイ事になの?」

「はっきりといえばそうだ、としか言えないな。たぶんではあるが、むこうがあの日のお前を覚えていたら、今度はかなりヤバイことになると思うぞ」

 この時、ほんのちょっとだけだが今回の事件に乗り気を見せてしまった自分のことをフィンは後悔した。

そして、そんな弟の心の中を見透かしたのか、兄は大丈夫だというようにニカッと笑顔を向けると

「ま、用意はしておいてやる。自分の勘を信じて立派にやりきって見せろ」

「なぁ、あたしは呼ばれてないけど。どうなってるんだ?」

 兄弟の会話に割り込んできたファーギーの非難の声に、ヨニーは「えーと」と口ごもると

「君はグリフィン殿とうちのギルドに行って貰うことになって…いる……」

そう言った本人は不安に口ごもるが、それを聞いて不満だったのはファーギーも同じであったらしい。彼女はあまりみせたことのない可愛らしい仕草で口をとがらせると

「なんだよ、フィンはお楽しみが待ってるのに。あたしはまた辛気臭い連中に会いにに、ムカつくデブとデートかよ」

「だまれ、お前の好きな殺しはないのだからこっちでいいんだよ。ちゃんとやれよな」

 そうグリフはぴしゃりとしめると、ケイン老が口ほ開いた。

「皆、聞いたな?それでは明日に向けて準備だ」



 いったん部屋を出ていったグリフがなにかを背中に担いだエリーを連れて戻ってくると、居間ではケイン老はヨニー、ウ-テを相手に明日の打ち合わせをすでにしていた。

「おい、フィン。お前はこっちだ」

 そう言って所在なさげにしていた弟を呼ぶと、なぜか同じように暇そうにしていたファーギーもついてきてしまう。

「なんだよ、お前は呼んでないぞ」

「いいじゃないかよー。あたしも暇だし、あっちよりこっちの方が面白そうだ」

 やれやれ、と首を振って諦めると弟に語りかけた。

「いいか、フィン。明日はこれを使え」

 そう言うと、エリーに合図をする。エリーは肩に下げていた袋を下ろすと、その中のものを次々と取り出してきた。それを指し示しながら、グリフは説明を始める。

「革鎧だ、明日は下に鎖をつけるなよ?そのかわり、じいちゃんの倉庫からこいつをもってきた」

「鎖帷子のことね、わかった。って、これは手甲?」

 黄土色に変色した鈍い輝きを放つそれは、普通の物よりも一回り分厚く指まできっちりと覆うように出来ていた。


「こいつの使い方は知ってるよな?指までしっかりと守れる、刃も通さない。そのかわり鈍器は無理だ。あと、この厚みだ。これだけで殴ってもいける」

「わかってる」

「よし、次はこれだ」

 そういって手を置くのはこれまた少し変色した同じく黄色がかった輝きのラウンドシールドである。しかし、意匠なのか、その盾の中央にこれみよがしに存在感をうったえる宝石のような輝きを放つ水晶がはめ込まれていた。

「なんだよ、この趣味の悪いの」

 盾など使わない、というのもあるのかもしれないがファーギーは一目見ただけでその醜悪さを切って捨てる。それに対して、訂正を求めるかのようにグリフは言い返した。

「失礼な。無駄にかっこいいと言え」

「えっと、これを持っていくの?なんでさ」

 それは暗に、こんな目立つ物を持ち歩きたくないというフィンのアピールであった。


「まぁ、聞けって。これはな、じいちゃんのコレクションの中では安物の部類だが、明日のお前になら役に立つはずだ」

「なにかあるってこと?」

「そうだ、このダサい水晶は見た者の心をかき乱すという効果がある魔法の品だ。といっても安物だ、効果はたかが知れている。お前はこれを持って例の娘に会え」

「かき乱す?………それって下手したら襲われろってことだよね?」

 あの時見た少女の尋常ではない様子が思い浮かび、そこに兄の言った危険担当の台詞で結果をフィンは予想してしまう。

「まぁ、そうなるだろうな。というかそうでないと困る」

 そう不吉に返すグリフにファーギーは聞いた。

「なぁ、それなら聞くけどよ。なんでフィンを襲わせるんだ?」

「うん?まぁ、そのくらいなら話してもいいか。まず、フィンにたいしてなぜかは知らないが心を乱された様子を見せたのだろ?その時のことを相手が覚えているなら、当然次に会っても同じ反応が期待できる。

 そして、なぜこんな装備を用意したかと言えば。フィンを襲わせることで相手の症状を一気に悪化させる、というのが目的だ」

「え、悪化させるの?」

 あまりに意外な答えにフィンは驚いて聞き返してしまった。

「そうだ、その必要がある」

「なんでそんなことを……」

「へっへっへっ、あたしにはわかるぜ、この大悪党め」

 ショックを受けるフィンと違い、邪悪な笑みを浮かべるとファーギーは自分の考えを述べはじめた。

「どうせよ、それで大変だ。お嬢様の症状が悪化したわ、とか騒いでさ。なにかの間違いが起きても、うちのせいじゃありませんってやるんだろ?そこからハッピーエンドでも大金をがっぽり、ダメでもあれがいけなかったとつらい顔をしていればいい。まったく、上手いことを考えたなぁ」

「おお、さすがに頭が切れるな……って、そんなわけないだろ。バカだな、お前」

「え、違うの?」

 てっきり自分もファーギーと同じことを考えていたせいでフィンは思わず驚きを口にしてしまった。


「お前達、俺をなんだと思ってるんだよ。ヒドイな……今までの話を聞いて思ったのさ。彼女は多分、普通の状態を薬物をつかうことで保っているんじゃないかってな。だがそれだと症状は抑えることができるだろうが、実際はどこまでひどくなっているのか。正確にわからない」

「つまり、僕らの手で悪化させることで。今のその子の状態を把握しようってこと?」

「そうなるな」

「でもよ?あたしがバカだからかもしれないけどさ、もし手遅れだったらどうするんだよ」

「いや、多分まだ大丈夫だろう」

 めずらしくそうポジティブな言葉で強引に話をきると、グリフは説明を続ける。

「フィンと会っておかしくなった時も、肉体的な変化はなかったのだろ?ああいうのはな、最終的に肉体が元の形状をとどめないほどの変化をおこすはずなんだ。そこまでいってしまったら、確かにもう何をしても助けられなくなるがね」

「なるほどね。僕の任務は重要なわけだ」


 するとそんな話を聞いたせいだろうか、顔を曇らせファーギーが

「なぁ、やっぱりあたしはフィンと行った方がいいんじゃないか?」

「お前は俺と来るんだ。言っただろ?殺しはなし、傷はつけてもフィンなら上手くやれる」

「いや、そりゃそうかもしれないけどよォ」

「ガリランドの時とは違って、今回は準備するしね。大丈夫だよ」

 フィンはそう言うと笑顔を作ろうとしたが、ガリランドの町の名前を口にしたせいだろうか。

かえってそれは不安を感じさせるような不自然な笑い顔になってしまった。

「ま、死なないようにしろよ」

 ファーギーも納得はしかねるようだったが、一応元気づけてきた。




 ウィンター・エンドの魔術師ギルドのマスター・フローラの部屋に若い魔術師が転がり込んできたのはまだ朝も早い時間であった。朝食を終え、さて今日の予定はと机に座ったところでのことである。

「マ、マスター・フローラ。大変です!」

「どうしました?」

 入ってきた廊下の向こうでなにやら騒がしい気配があった。

「あの、先日訪れました。えっと、貴族のかたが。そうだ、ライバーとかいう人が突然マスターに面会させろと押し入ってこられまして」

「それで、どうしたの?」

「はい、はい…お待ちくださいと言ったのですが、聞いてくれません。無理やり押し通ろうとしますので、生徒がそれを止めようと魔法で………」

「まさか!?魔法でとらえてしまったとか?」

 流石に驚いて声を上げたが、それがかえって相手を冷静にしたらしい。一瞬、きょとんとした眼でマスターをみたまだ若い魔術師は、落ち着いた声で報告を続けた。

「いえ、そうではありませんん。一緒に来ていらした女性にのされてしまいました」

「そう……とにかく、落ち着きなさい。それとお客人はすぐにここへお通しして」

 わかりました、と答えると急いで再び廊下へと飛び出していく。

(まったく、通路は走ったら危ないじゃない。)

思わず注意をしたくなる衝動にかられるが、それを飲み込んで耐えた。

 ライバーか。ついに来たのか。

同時に、あのヨニー・レーンがいやいや面会に来て催促していた事を思い返す。

 フローラはため息をつく、どうやら再び覚悟を決めなくてはならないようだ。あんな、皆で幸せになれるからなどと非道の行いをそそのかしてきた相手である。あれから騒動もなんとか一段落ついたが念のため様子を見ていた。が、聞けばむこうはこちらに不満たらたらであったという。

 だから早晩しびれを切らして怒鳴りこんでくることもあるかもしれない、とは思ってはいた。

 しかし、本当にそうなるとは。やれやれ。

 廊下の騒ぎがだんだんと自分の部屋に近づいて来るのを感じる。そして、問答無用の勢いでドアが勢いよく開けられた。先日と同じように無礼な振る舞いのまま、グリフとファーギーが部屋の中へとずかずかと入ってきた。しかも、ファーギーの両手には首根っこを押さえられて引っ張り回されている生徒達の姿があった。


「ちょっと!ライバーさん、これはいったい!?」

「おはようございます。マスターフローラ。それではまず人払いをしましょうかね」

 まったく話しの出来ない相手はそう言い切ると、ファーギーに合図を送る。送られた方は了解したのか、

「オラオラッ!お前等とっとと部屋から出るぞ。ボス達は大切なお話しがあるんだってさ」

 そう言って扉の外に出て閉めると、それを背に仁王立ちして立ちふさがった。

 そんな傍若無人な振る舞いが眼前に再び繰り広げられ。はぁ、とため息をつくギルドマスターにグリフは上機嫌に語りだした。

「そうそう、そういえばまだ言ってませんでしたっけ………事件解決おめでとうございます」




 4人で迎えに来た馬車の中で揺られていると、外を見ていたケイン老がなにかを見て

「おお、あれじゃ。あそこが目的地のブルンネル邸だ。大きいぞ」

 それを窓からヨニーとフィンがのぞき見る。

「確かに、大きい」

 フィンは思わずそれしか言えなかった。ここに来て自分のたちの新しい屋敷を広すぎると感じていたこの青年には、その何倍も広さと大きさを感じさせる邸宅を表す言葉がなかったのだ。


「さて、確認するぞ?わしと魔術師殿が話している間。お前とエルフの嬢ちゃんで聞きこみ。これでいいのだな?」

「そうです。たぶん、それほど大した話は聞けないとは思いますが。その間にフィンレイ君達に調べてもらうための陽動のようなものですから」

 ヨニーの言葉に、ウ-テが自信なさげに

「でも、もし上手くいかなかったらどうしましょう?」

「そうそう悲観することもないよ。そのための役割分担だし。できるだけ成功させるつもりでいこう」

 そうやって逆に励ましているフィンは、気合いでも入っているのだろうか。今日はいつもより元気そうだった。

「フィンレイ君の言うとおり。最悪、フィンレイ君が相手の御姫様に会えることができれば今日の我々の面会は成功と言えます。我々と君が失敗しても、まぁなんとかなるはず。気負うことはありませんし、上手くいかなくても落ち込む必要はありません」

「ほう、そうなのか?」

「そうなのです。まぁ、ウ-テ君が失敗した時は他のシーフに来てもらわないといけないとは思う……」

 その言葉を聞いて、ピクンとエルフの娘の細い体が震える。こころなしか、少し涙目になりそうである。


「あ、いや。まぁ、その時はってだけの話しだよ。それに我々もしくじればこの依頼自体、なかったことにしてくれと言われるかもしれない」

「そうだよ、頑張ろう」

 ヨニーとフィンが慌ててフォローを入れると、無言のままだったが涙目のウ-テはこくんと頷いて見せる。

「しかしな、あいつは繊細だとか危険とか言うておったが。その割にはそれほど難しいことには聞こえんかったがの」

 ケイン老がのんびりとそういうと

「まぁ、確かにあの極悪人の推測は僕も聞きました。感想としては最悪のシナリオだし、確かに頭がおかしい奴だとは思いましたが、それほど外れているとも思いません。あとは実際に見ないことにはなんともいえませんから。

それに、今日はそのための準備。あとで、できるだけ歩きやすい道を作れるように努力しましょう」

 どちらかというとあの兄の悪口を言われただけのような気もしたが、まぁそれも間違ってないのかもと思い。皆はヨニーのその言葉を聞いて顔を見合わせて頷き合った。



 馬車が止り、4人が降りてきた。

 今日もケイン老は鎖帷子をしたにつけてはいるものの貴族としての格好をしていて、反対にフィンレイの方は革鎧に盾を背中にかけて腰から剣をさげている。身軽に、との注文もあったのでその他に邪魔になりそうなものは身につけてこなかった。

 ヨニーはいつもの一目で魔法使いとわかるフード付きのローブを着ていたが、ウ-テの方は珍しく頭に真っ赤な頭巾をかけ、腕の半分ほどの長さのマントを鎧姿の上に羽織っていた。


 そんな彼等の前にはメイドと執事らしき足腰のしっかりした初老の男性が迎えにきて、彼らを屋敷の中へと案内し始めた。

「あっ」

 その時、隣を歩いていたウ-テが何かを見つけたのだろう。声を上げたのを聞いてフィンは何事かと周りを見回して見る。

(むっ、彼女を発見)

 そう、あの日彼がであったあの少女が庭先の一角を前にフラフラしているのが見えた。

 しかしあんなところで彼女は何をしているのだろうか?

そんな疑問に答えがえられないまま、屋敷の方から何人かのメイド達が慌てたように飛び出してくると、少女に向かって走っていったのを見た。


 屋敷に入ると、ある部屋へと導かれていく。

どうやらそこでここの主人が待っているようであった。その部屋の前で、フィンはウ-テに腕を掴まれ止められると、ちょうど目の前の扉が閉められた。

 部屋の前にいる屈強な体の男が、無表情の目を2人に向けてくる。

 フィンもウ-テもにっこりと笑顔を向けたが、これではなにかいかにも企んでいるのを誤魔化すみたいで、ちょっとばかり失敗してしまったような気がする。

 そこでメイドが部屋の中から廊下に退出してきたのを見計らって声をかけた。

「あの、私達は話しの間にお譲さまの話を聞かせてもらおうと思いまして。どなたか、彼女の身の回りを世話をする人と会わせてくれませんか?」


 とくに打ち合わせもなく言ったので、もし断られたら終わりであった。が、こちらの素性はそれなりに伝えられていたのだろう。

 グリゼルダ嬢つきの侍女という2人を紹介してもらえた。

 2人の名はル―ダとカリカといったのだが、これがもう実に大変に面倒くさい人物だったのである。

 ブルネットの髪が印象に残るル―ダはフィンが、ウ-テが、何を聞いても「そうっすね」「さぁ?」「知らないです」「別に」となるばかりでちっとも協力的ではない。

 思わずカッとなったのか、しまいにはウ-テが「ちゃんと協力してくれないと、お譲さんどうなっても知らないぞ」などと口走りそうになってしまい、慌ててフィンがその口をふさぐ事態になった。

 当然だが、彼女はこちらをにらみ続けてそれから口をきいてくれなくなってしまった。

 もう1人のカリカは亜麻色の髪で丸眼鏡をした、ちょっとのほほんとしている風な女性であった。こちらは先ほどに比べると幾分かましではあったが、それでも大した違いはなかった。

「お譲さまがこの状態になったのはいつでした?」

「その時は私、ここにいなかったので。それに伝聞でしか知りません。お答えしかねます」

「え、いや。伝聞でいいので、ぜひ」

「すいません、お答えしかねます」

「そ、そうですか」

「では、彼女の状態が……変化するのはどのくらいの頻度でしょう?毎日なのか、数日に一度とか。変化にも違いがあるとかは?」

「すいません、ご存知かと思いますが。あの方は貴族ですので、そのような個人の風評に悪影響を与えるような質問にはお答えしかねます」

「う、ですけど。どういう状態なのか?というのは解決に向けての重要な情報なのですが……」

「すいません、お答えしかねます」

 万事がこの調子なのである。とはいえ、こうなるのはフィンにしてみれば理解できないことではなかった。

 ちょっと調べただけでは両親のわからないという事情を持つ娘なのだ。そのまわりに口の軽い者をおいたりはしないというのは、しごく当然のことである。

 とはいえ、このままでは2人はなにも収穫のないまま終わる可能性が出てきたわけだが。

それでは非常に困ったことになる。

(まずいなぁ、なんとか信用を得られないと。もしくはなんとかしてだますか)

 それは、そんな思いから出た何気ない言葉であった。

「あ、そうそう。ここに来た時、そのお譲さんだと思うんですけど。見たんです、庭にいましたよね」

 ウ-テのその言葉に2人はなぜか口ごもって「はぁ」と返事を濁して返してきたのだ。

 それを見た瞬間、フィンの中でなにかが猛烈な衝動となって這いずり回るのを感じる。そしてその衝動の勢いのまま、思わず考える前に言葉の方が飛び出していた。

「ああいう風に彼女がいつもいる場所ってありますよね?」

「え?ええ」

「そうですよね。なぜかわからないけど、そこにいると心休まる場所。自分の家の中でも特にそう言う場所は、説明できないけど自然とあるものじゃないですか?」

「そう、かもしれませんね」

「さぁ」

 早口でまくし立てるフィンの勢いにのまれてしまったのか、今度は彼女達2人の答えが別々になった。これにフィンは確信をもって話しを続ける。

「いや、ありますよ。彼女はあそこによくいくんですよね?他にはどこかありませんか?この家の中で。あんな風な家の外でもいいのですけど」

 目の前の2人は困惑した顔で自然とお互いの顔を見やった。それを見てフィンは心の中でガッツポーズをとる。

(やった、勝ったな)

 それはまさしく正解のボタンをひきあてたという確信であった。



 フィンとウ-テが案内されたのは、屋敷の中にあるあまり使われないという客間のひとつであった。

この部屋は光があまり入らず。また、窓の外に大きくて太い樹木が生えているのもあって利用することが少ないのだと説明された

 お譲さまはこの部屋に良く訪れ、暖炉の前まで来ると季節に関係なくただ立っていたり、屈んでいたりしているのだという。

「夏はまだいいのですが、冬でも薄着で来られる時があって。凍死してしまうと旦那様も心配されて、ここの暖炉は冬はずっと火を絶やさないのです」

 そう説明を受ける中、フィンは部屋を見回し、暖炉を除き見た。

 確かに、日中なのに影が差していてうす暗い部屋だ。それに、ここだと冬は冷えるのと言うのもうなづける。暖炉も中までのぞき見たが、自分の目ではなにもわからなかった。


「ウ-テ。出番だよ」

 そう言って、自分が下がると。エルフのシーフは一つ大きく深呼吸をすると、暖炉の組まれた石に手を伸ばしていった。

 そのか細い指が石の表面をなぞってゆっくり動く。

 そんなウ-テにいぶかしげな目線を贈る侍女たちの気を引こうと、フィンが言葉をかける。

「あの、ここと庭といるのは頻度に違いがありますか?」

「えっと、どういう?」

「庭に出ていくのと、ここに来るのに回数の違いがあるのかってことですよ」

「さぁ」

「申し訳ありません、特に数えていたわけではないので」

「そうですか」

 本当かどうかはわからないが、多分そんなに違いはないということなのかもしれない。

 その間もウ-テの指をはわせて触り続け、なにかが見つからないかと探っていく。

(どうだ?)

 今回、ウ-テに与えられた役割ロールは『なにかを見つける』ということだった。もっとも、それがなんであるかまではわざわざ指定されなかったわけだが、フィンの中では兄が知りたがっていた事はこのことだという確信があった。

 だが、どうやら結果は芳しくなかったようだ。ウ-テのかわいらしい顔の眉間には、皺が寄り。なにかを見過ごすまいと必死に集中しているせいか、汗がうっすらとわき出ていた。

「だめ、わからない」

 いがいにさばさばした声でそう言うと、ウ-テはしかめっ面のまま体を起こした。

(参ったな。あとは外だけか)

 さっそく次に行こうと声を出そうとしたフィンの目を見ると、ウ-テは

「まだ待って。あとひとつ、やってみたいことがあるの」

 そう言うと、懐から貝殻と小さめのハケを取り出したのだ。そして、貝殻を開けるとそこにはなにかはわからなかったが金粉らしき山が出てきた。

「これはね、ドワーフが使うある金属なんだ。これには面白い効果があってね。ま、うまくいったらわかるから」

 そうつぶやきながら、ハケに金粉をまぶすと暖炉の表面に軽く振りかけ始めた。

 そんなウ-テの行為を不信と非難の目で見始める侍女たちに、ひきつった笑みを向けながらフィンは内心(頼む、なにもなかったとはならないでー)と願っていた。

 そしてどうやらその願いはかなったようである。

ある地点からきっちりと長方形に金粉がそれまでと違い、床にこぼれ落ちなかったのだ。

「これのこと?」

「そう、他の金属にすいつくように反応するの。ここになにかあるんだね」

 そういうと、再びその場所に念入りに指を這わせてみる。何度も行ったり来たりしたが再び

「だめ、やっぱりわからない。困ったな、なにかあるのは間違いないよ」

「いいさ。そこまでわかれば十分だよ」

 さじを投げるしかなく、嘆いてみせるウ-テをフィンは励ましてから2人の侍女に向き直ると

「庭の方も見せてください。できるだけ詳しくお願いします」


 庭の一角に案内された僕たちだったが、草をかき分けて入っていったウ-テは今度はそれほど時間もかからずに草をかき分けて戻ってくると

「驚いた、こっちはすぐにわかったよ」

 なんでも、地面に隠すように埋められた井戸があったらしい。

「奥の方とか、見れた?」

「ダメだった。適当だったけど木でふさぐように封がされてたから。開けることもできたけど、やらないで戻ってきたんだ。それでいいよね?」

 それにうなずいてかえすと、にっこりと笑みを浮かべてフィンは侍女たちの方へ顔を向けた。

「あのですね。あとひとつだけ、お願いがあるんですが。いいですかね?」

 ウ-テは無事に最低限以上の結果を出したのだ。いよいよフィンの番がやってきたのだ。


 しかし、今度ばかりはすぐにいい返事は出してもらえなかった。

 少女の今の様子を見ておきたい、とだけ伝えたが彼女達の反応はいま一つで、あまりこっちを少女の所へと案内したくないという空気を醸し出し続けていた。

(やはり、この2人相手だと難しいか)

とはいえ、時間の方もそれほど多くはない。

祖父は今、依頼人と会って話しているがそれが終わってしまうと帰りますよ、ということになる可能性があった。その前になんとしてもフィンは少女に会わねばならない。


「面会謝絶、それほど重い症状と言うことですか?」

 わかってはいるが、言葉にいちいち苛立ちが混ざってしまう。

「そうではないのですが。私達には許可は出せません。申し訳ございません」

やはりガードが固い。いや、これぐらいのことではびくともしないからこそ彼女達が選ばれているのかもしれない。

(うまくできるか、ここが勝負だ)

「いやいや、ウ-テ。この人達がここまで言うんだ。しょうがない、あきらめよう」

 突然そう言うフィンに、驚くウ-テは目をむいたがそれに構わず続けて

「あとで訪問者全員がぞろぞろとお譲さんのお部屋にお邪魔する。そんなことをしたくないからと思ってのことだったのだけれど。確かに、女性を連れているとはいえ僕のような男が休んでいる女性の部屋に入るというのは躊躇されても仕方ありませんよね」

 ここでよわよわしい笑みを2人に向けると、なんだかばつが悪そうな顔をしながら「ええ、まあ」と向こうは返してきた。

「では、お手数ですが。さきほどの執事の方たちを呼んでください。”あの人達”ならば、僕らの考えを聞いて違う答えをしてくれるかもしれませんから」

 もう、これはほとんど賭けのようなものだった。


 2人の侍女の後についていくフィンとウ-テは再び屋敷の長い廊下を歩いていた。

もうダメで元々、の精神ではあったが同時にこれ以外ではもう無理だろうとの思いもあった。しかし、おかげでどうやら勝負には勝ったようである。

「少しだけですよ」

 との言葉にうなずきながらも、フィンは自然に背中にかけていた”あの”盾を下ろして左手に気づかれないように持っていく。

 これが言われている通りの効果を発揮するならば、ほんのわずかな時間でもきっちりと効果が出てくるはずである。

わずかに腹の底から感じる興奮に鼻を膨らませて見る。

落ち着けよ、フィンレイ。

そう心の中で自分に繰り返し言い聞かせていた。

ということで探索編(上)はここまで。

次回は、お嬢様の部屋を胸をドキドキさせながら訪問します。

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