第1話 JKの皮を被ったサムライ
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【土日集中更新・明日(日)夜完結】
本作は全10話・約3万字【ハッピーエンド完結済短編】です。
気に入っていただけましたら、ブックマーク、評価での応援(いいね!)、
なにとぞよろしくお願いいたしますm(_ _)m
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
初夏。
窓をすべて開けてあるけど、部員が多いのでけっこう暑い。
第二音楽室が、放課後は俺たち軽音部の部室になる。
奥にある防音室を使えるのは、バンドごと、週に二~三回といったところ。
1年生で、まだバンドを組んでいない俺がやれるのは、もっぱら大部屋での基礎練習。
今日も黙々とギターのリズム練をやっている。
(絶対ギター!)
というわけでもない。
これだって備品のギターだ。
スタジオに空きがあればドラムセットに向かい、ベースが空いていればベース。
昔から妙に器用な俺は、どれもそこそこにこなせた。
楽器だけでなく、勉強もスポーツも、みんなそこそこに。
そんな中途半端な俺の、中途半端な毎日。
今日もそうだと思ってた。
あいつがやってくるまでは。
「えっ……ダンノウラ……? 剣道部……だよな?」
「入部早々、上級生十人をシメたっていう……あの……」
「マジか。あんな小学生みたいなのが……」
いきなり入って来た部外者に皆がざわつく。
そいつは入学一ヶ月にして既にちょっとした有名人だった。
小柄な、そこらのアイドルもかなわないほどの美少女――なのだが。
いつも顔つきが凜々しすぎるというか、殺伐というか、凶暴というか。
気のせいか、全身から放つ殺気で周囲の空気がぐにゃっているように見える。
「む……。どうした。君は確か……」
顧問の上田先生が尋ねると、
「1年4組、壇ノ浦しのぎ。軽音部への入部を希望します」
壇ノ浦はパキパキと口上を述べ、まるで決闘状を叩きつけるかのように入部希望書を手渡した。
部員のざわめきも練習の手もピタリと止まる。
「いや……しかし、君は剣道部員だろう?」
「退部しました」
「スポーツ推薦入学者は……なにかと難しいんじゃないのか、転部というのは……」
「推薦のお誘いはいただきましたが。お断りしました」
「一般入学だったのか?」
「勉強もできるんです。文武両道が壇ノ浦家の家訓ですから」
不敵に嗤う壇ノ浦のクールでサツバツとしたたたずまいは、
(JKの皮を被ったサムライ……)
そんなかんじ。
「……わかった。じゃあ、入部の手続きをしよう。そこに座って」
上田は困惑を押し隠し――隠せてないけど――隅で壇ノ浦に書類を書かせはじめる。
俺も部員たちも練習を再開する。しかし奴が気になってしかたない。
そこへ、防音室の扉が開き、練習を終えたバンドが出てきた。
2年生のドラム長久手沙耶。2年ギター本能寺ナギ。3年ベース&ボーカル沼田静馬。
本能寺さんと沼田さんが何か言い合いをしている。
それを無視して、沙耶がタオルで汗を拭きながらこっちへやってきて向かいに座った。
沙耶は小学校からのいわゆる幼馴染み。
「ふにゃっ」としたファニーフェイスにナイスバディーのグラドル系。これでいて子供の頃は乱暴なガキ大将だった。
胸元を広げていたり汗で透けていたり、目のやり場に困る。
「あっつ」
譜面で扇いでやる。
これも部の備品。何十年も前に流行ったロックバンド、『ブラウヘルツ』のもの。なんと表紙に直筆サイン入り。
ギターのユーヤが、ここ、根尾彩多摩高校のOBなのだ。
その影響もあってか、我が軽音部は人気が高く、施設や備品も充実している。
「ありがとう、タケちゃん」
「あのなあ、沙耶……高校生にもなってタケちゃんって……」
「それにしても暑いわねぇ。エアコンつけたいわー」
「無駄にツーバス踏むからだろ。ミセスのコピバンでなにゆえ……」
「知ってるでしょう。あたしはほんとはグッツグツのハード系がやりたいの。
今のバンドは……」
沙耶はそこで声のトーンを落とし、まだ言い争ってるメンバーをチラ見した。
「今なんつった本能寺ぃ」
「聞こえないのか。ピッチがゆるすぎてキモチワルイ、吐きそう。って言ってるんだ」
「はぁぁっ!? ちゃんと譜面通りやってるし。意味わかんねぇし」
「だったら分かりやすく言ってあげよう。
この、自分が音程外してることにも気づかない救いようのないドヘタクソめっ!」
「おまえな~……」
「さわるな! ヘタがうつる!」
「ふざけんなコンチキショー!」
沙耶の顔に苦笑が浮かぶ。
本能寺さんは、ハーフの美形でありながら眼鏡っ娘でブンガクかぶれという、だいぶトリッキーな人だ。
ギターのワザマエは超高校生級。
しかし……とにかく口が悪い。
「ヘルプでやってるだけだし。そろそろ解散しそうだし」
「煮つまってるなぁ……」
「そのうちぜったい自分のバンド組むんだ。
ホルモンとかゴクモンとか、そっち系の……」
「あいかわらずの特殊性癖……」
「特殊性癖いうな。
ていうかタケちゃん、あたしのバンドでギターやってよ。
ここんとこずっとギターのリズム練、頑張ってるみたいだし」
「いや、これは……部のギターがたまたま空いてたから……」
「そういえば中学の学園祭じゃベースやってたわよね」
「ちなみにドラムも叩けます」
といっても単純な8ビートだけだが。
パンクとか古風なロックンロールなら問題ない。
ピストルズとかブラウヘルツなら、ギター、ベース、ドラム、全パートやれる。
そんな俺を沙耶は鼻で嗤った。
「タケちゃんって、昔っからそうよねぇ。
小器用になんでもできちゃうけど、どれも中途半端っていうか。
楽器だけじゃなくて、勉強もスポーツも。
器用貧乏って言葉、タケちゃんのためにあるようなものよねぇ」
「いっ……いきなり核心ついてくるんじゃねぇ」
俺だって気にしてるんだ。そういう自分を。
「まあ、なんでもいいけど、ドラムはあたしと被るんで。
ギターかベースでよろしく」
俺が曖昧にうなずくと、沙耶はドリンクを飲みつつ視線を転じた。
机に向かって書類を書いている壇ノ浦しのぎをそっと指さす。
「ところで、あれ……ダンノーラさんじゃない。
剣道部の。『十人殺し』で有名な」
殺してはいないと思うけど。
壇ノ浦が、剣道部の上級生をまとめてシメたという噂は全校規模でささやかれている。
「入部希望だってさ。剣道部は辞めたらしい」
「へー! 剣道部から軽音部に! 珍しい」
確かに、あまり聞かない話だ。
十人殺しの影響だろうか。部に居づらくなったとか。怪我でもしたか。
見ていると、不意に上田先生と目が合った。
「小牧。お前、壇ノ浦とは同じクラスだったな」
「はい。そうですけど?」
「彼女、ベース希望の初心者なんだが」
「えっ、ベース?
ダンノーラさん、あたしとバンドやらない? ぐっつぐつにハードな……」
立ち上がった沙耶を上田先生が「待て待て」と手で制す。
「早まるな長久手。まずは基礎練習からだ。
それ以前に――自前の楽器を買いに行きたいそうだから。
小牧、『ネコメ楽器』まで案内して、色々アドバイスしてやってくれ。
お前ベースもやれるんだろ?」
「はあ。中途半端に……」
「自分で解っていればいい」
「……さりげなく抉ってきますね……」
このあたり、バンド活動といえども部活。
ちょいちょい「指導」が入る。
「すまんが、頼む。
朝礼やホームルームでも聞いたと思うが……。
最近、あのあたりで変質者の目撃情報が多発してるんでな。
女子一人で歩かせたくない」
「ああ……あれですか。
身長2メートル、金髪碧眼で上半身はだかの巨デブが、
スタンガンを手に走って追いかけてくるから注意するように、っていう……」
「それだ」
我が街、根尾彩多摩は、巨大な製粉製薬自動車場を擁する多国籍都市。
そして警察が仕事をしないことでも有名だ。
治安の悪さは全国でもトップクラス。
変質者のレベルも余所では考えられないくらい高い。
「注意するようにって言われてもねぇ」
苦笑する沙耶を扇ぎつつ、俺は「わかりました」と先生に答えた。
変質者は恐いけど、男と見込まれて悪い気はしない。
などと思っていると、
(うわ……めっちゃ見てる……)
壇ノ浦がこちらを凄い目で睨んでいるのに気がついた。
立ち上がり、つかつかとこちらへ歩いてる。
よろしくねと挨拶、などという雰囲気ではない。
(今からそっ首叩き落としてくれる……)
両眼からそんなあからさまな殺気が吹き出していた。
気のせいか腰に差した二刀が幻覚える。
「えっ……なに……?」
タダナラヌ気配に固まる俺。
その腕をいきなり壇ノ浦しのぎがガッシとつかんだ。




