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第40話:行間の暴力を檻に閉じ込めて(メリバ)

 鉄鋼の国ヴァトンの首都に吹き荒れる、男たちの濃密な絆を尊ぶ精神的熱病「BLビーエル」。その中心地であるフランバール公爵邸の「サークル第二拠点」は、今や王都のいかなる軍事要塞よりも緊迫した空気に包まれていた。


 部屋の主である天才同人作家シルフィ・エドワードは、インクに汚れた右手に羽ペンを握りしめ、机の上に広げられた金縁の羊皮紙を凝視している。それはヴァトン王国国家最高法務局の刻印が押された、紛れもない「婚姻届(入籍誓約書)」であった。


 そのシルフィの背後、高級ベロアソファーにどっかりと巨体を沈め、至高の供物であるフレンチポテトをボリボリと貪っているのが、すべての元凶たる黄色いカエルの怪異――マスター(なんJ民)である。


「……師匠」


 シルフィは静かに、しかし地響きのような威圧感を孕んだ声で呟いた。その双眸には、いつもの創作活動の熱狂ではなく、一人の「攻め(主導権保持者)」としての容赦のない情念が宿っている。


「私、ついに理解わかりました。私たちが日々生み出している、男たちの決して交わらぬ、しかし強固に縛り合わされた『行間の暴力』……。その頂点にある真理とは、私と師匠、私たちの関係性そのものの『固定カプ』に他ならないということに……! さあ、この誓約書にあなたの魂のサインを刻み、私と正式に籍を入れていただきます!!」


「――はぁぁぁ!?!?!?!」


 なんJ民の口から、咥えていたポテトがポロリと床に落ちた。


「な、何言うとんねんシルフィさん!www籍を入れるって、ワイとお前がリアルにガチのカプ(夫婦)になるってことか!? 無理無理無理!! ワイはカエルやし、中身はただのしがないネットの住民やぞ!? 二次元の壁どころか、属性の壁が完全に『期待値底割れ』しとるやんけ!!」


 猛烈に拒絶し、ソファーの上で短い手足をバタつかせるなんJ民。しかし、シルフィは冷酷に、フッと鼻で笑った。


「あら、拒絶なさるのですか、我が夫(仮)。……もしこの入籍を拒むとおっしゃるのなら、私にも『相応の構造的対応』の用意がございます。もし師匠がサインを拒むなら、私はただちにエルザ夫人、およびフランバール公爵様へ、このようにご報告いたします。『――我が師マスターは、ラーグ法国が放った、我が国の雄性を内側から腐らせるための精神テロの主謀者(総受け)であった――』とね」


「――ッ!?!?!?!」


 なんJ民の皮膚に、冷たい脂汗が噴き出した。この世界の住人たちが、自分たちのノイズを「国家転覆の謀略」として超が大つくほど大真面目に誤解していることを、彼は痛いほど知っている。


「もしこの報告が公爵家に届けば、師匠はただちに『国家最重要危険概念』として捕縛され、極北の『魔導鉄鋼・第零鉱山』へと送られます。そこは一度入れば二度と戻れぬ、文字通りの監獄。毎日、毎日、冷え切ったパサパサの芋を齧りながら、屈強な看守たちに囲まれて強制労働に身をやつす、期待値底割れの『灰色の地獄(総受け監禁ルート)』です!!」


「ひ、冷え切った芋……!! ワイの無限フレンチポテト生活が……!!」


 絶体絶命。外堀は完全に埋まり、退路は一ミクロンもない。

 しかし、なんJ民の脳裏に、かつて地球のインターネット、数々の論争と詭弁が吹き荒れる掲示板で培った、泥臭き『レスバトラーの魂』が奇跡の咆哮を上げた。


(……待て。ワイは誰や。ただのカエルちゃうぞ。数々の炎上スレを生き延びてきた不屈のレスバトラーやぞ……! ここでただの異世界の二次オタ令嬢に脅されて、はいそうですかとリアル婚姻届(人生の墓場)にサインして、ワイのタイムラインを終わらせてたまるかよォォォ!!!)


 なんJ民のギョロ目が、不敵な輝きを取り戻す。


「……ンゴッ。おもろいやんけ、シルフィさん。勝負レスバや。ワイがお前のその『鉱山送りの脅迫プロット』の矛盾を、完璧な【BLロジック】で粉砕したるわ!wwwwもしワイが勝ったら婚姻届は白紙撤回、ワイはこれまで通りポテトを食う神として君臨する。……お前が勝ったら、大人しくその婚姻届に、ワイの『魂のサイン』を刻んだるがな!!」


「――面白いです!!」


 シルフィの創作脳が、猛烈に反応した。


「我が師にして我が夫(予定)が放つ、極限状態のレスバ……! これぞまさに、関係性の主導権をかけた『攻防ウケセメの聖戦』!! 受けて立ちます、師匠! あなたの論理を、私の執着で完璧に完封シャットアウトしてみせます!!!」



「――先行はワイや! いくぞ、第一球レスや!!」


 なんJ民は、つまんだポテトをシルフィに向けて突き出し、なんJ民特有のメタ視点を交えた高速の打線(論理)を放った。


「まず、お前の『ワイを鉱山に送る』という脅迫文脈な。これがBLの【公式設定】として完全に矛盾しとんねん!お前は、ワイが国家最重要のテロリスト(総受け)やから鉱山に幽閉するって言うたな? だが、思い出してみぃや!wwww もしワイがマジでそのレベルの『世界を揺るがす闇の首謀者』やとしたら、ヴァトン王国の鉄の宰相ガノストローファやフランバール公爵が、ワイをただの『一般鉱山』に隔離するだけで済ませるわけがないやろ!!wwww」


「……な、何ですって……!?」


 シルフィが、微かに眉をひそめる。


「国家の規律を脅かす闇の概念の根源やぞ!? wwww捕まったら、即座に王都の中央広場で、全世界に晒されながら魔導処刑されるか、あるいは魂の記憶をすべて引き裂かれる『絶望の完全調教ルート』に突入するのが、この世界の『硬質な規律(ダークファンタジーの公式)』や!つまり、お前がワイを『鉱山送り(生存確定・五体満足)』にできると主張している時点で、お前の提示したプロットの危機感は『ガバガバの御都合主義』である証明になってまうねん!はい論破!! wwwお前の脅迫文脈は、世界観の整合性が天井突き破って崩壊しとるんじゃボケェェェ!!!wwww」


 ガハハ、となんJ民はカエルの腹を叩いて笑った。

 どうだ、これが地球のネット掲示板で鍛え上げた「作中の設定の隙を突く、最低のメタツッコミ」だ。この世界の住人なら、この公式設定の矛盾を突かれれば、一瞬で作劇の根底を揺るがされて黙り込むはず。


 しかし、シルフィは、天才同人作家であった。

 彼女の脳内は、なんJ民のその「メタな反論」に対し、光の速さで【独自の公式裏設定(言い訳)】を補完し、倍の質量で撃ち返すカウンター術式へと変換していた。


「――浅はか、浅はか極まります、師匠(笑)!!!」


 シルフィは、デスクをバン! と叩き、不敵な高笑いを上げた。


「フランバール公爵やガノストローファ閣下の『大真面目さ(解釈)』を、あなたが甘く見すぎている証拠です!彼らは、師匠の放つBLの概念を、単なる破壊兵器ではなく、『我が国の男たちの精神インコースをダイレクトに操作する、未知の因果律兵器』として評価しているのです!つまり、師匠を安易に処刑(完全消滅)してしまえば、王都に定着した『薔薇色の術式』が暴走し、近衛兵たちが全員、精神的難民になってしまうリスクがある……!だからこそ、彼らは師匠を『生かさず殺さず、魔導鉄鋼の磁場によって術式を中和できる極北の鉱山』へ幽閉し、その精神ノイズを国家のエネルギー源として永続的に搾取する道を選ぶ……! これは、公式のディストピアBLの文脈として、完璧に整合性が取れております!!」


「――ぶっ!!!!」


 なんJ民は、ポテトの油が気管に入り、激しくむせた。

 アカン、こいつ、ワイの適当なツッコミに対して、めちゃくちゃ設定の凝った「それっぽい言い訳(公式裏設定)」を秒速で捏造してきおった。


「くっ……! やるやんけ、シルフィちゃん。だが、第二球レスはこれや!!」


 なんJ民は、カエルの短い手を組み、今度は「属性とカプの不成立」という、BLにおける最も致命的な論点でレスバを仕掛けた。


「そもそもな、結婚(入籍)という制度の根底にあるのは、『固定された二人の社会的・肉体的ステータスの共有』や!見ろ、ワイのこの美しい、ツルツルとした黄色い皮膚を! ワイはどう見てもカエルの怪異やぞ!?wwwお前、BLの真理を語る作家のくせに、カエルと人間という『生物学的・属性的な解釈違い』を平気でスルーするんか!?お前が婚姻届の配偶者欄に『黄色いカエル(マスター)』って書いた瞬間、社会的ステータスが期待値底割れして、実家から勘当されるに決まっとるやろ!!それに、新婚初夜にワイと並んで寝る時、ワイがベッドの横のタライの水の中でゲコゲコ鳴いとるのを見て、百年の恋も天井突き破って冷めへんと言い切れるんか!? 『カエル×人間』なんてマイナーすぎて、王都の奥方がたのタイムライン(茶会)じゃ一瞬でブラウザバック(お開き)されるわ!! あぁん!?wwww」


 そうだ。どれほど精神的な絆を主張しようとも、現実の「属性の壁」は残酷だ。カエルと結婚した令嬢など、貴族社会の解釈が許すはずがない。


 だが、この「属性の壁」という論点こそが、シルフィ・エドワードという限界突破した作家の、最も得意とする主戦場(聖域)であった。


「――はぁぁぁぁぁん(溜息)??? 師匠、今、何とおっしゃいました?」


 シルフィの顔から、完全に笑みが消え、代わりに「深淵の神職」のような、絶対的な威厳が宿った。


「『種族が違うから属性が成立しない』……? 社会的ステータスが崩壊する……?

……笑わせないでください、このニワカ(凡人)がァァァ!!!」


 シルフィの背後に、幻覚のような「薔薇色の集中線」が吹き荒れた。


「――いいですか、師匠!! 『愛(尊さ)』の究極の形態とは、肉体的な美しさや、俗世のステータスなどという、下俗な表層パラメータをすべて削ぎ落とした先にある、『純粋なる精神ソウルの不合理な執着』のことです!!!これまで私が、何冊の『竜人と人間』、『魔族とエルフ』、『意思を持つ魔導具と主騎士』の、種族の壁を天井突き破って引き裂かれた男たちの、血を吐くようなカプを描いてきたと思っているのですの!?むしろ、カエルという『最も愛から遠い異形の肉体』に囚われた神が、人間の令嬢からの濃密な愛によって、その精神を固定ホールドされる……! これこそが、世界最高峰の『人外×少女』における、期待値天井突破の至高のシチュエーション(公式)です!!社会的ステータス? 勘当? 望むところですわ!! 実家を追われ、あなたというカエルを抱えて王都の裏路地で泥水を啜りながら、あなたのゲコゲコという鳴き声をBGMに、私は毎日、神の如き線画を描き続ける……! これ以上の『ハッピーエンド(薔薇色の未来)』が、この世のどこにあるとおっしゃるのですか!!!」


「――ひぎゃぁぁぁぁぁ(精神的ダメージ)!!!」


 なんJ民は、シルフィの放つ「限界オタク特有の、全ての現実的リスクを『最高のご馳走(燃料)』として消費する無敵のロジック」の前に、脳のキャパシティが完全に底割れした。

 アカン。こいつ、リアルな脅迫(実家の勘当)すらも、「作中の美味しいシチュエーション」として喜んで受け入れよる。



(マ、マジでヤバい……。このままやと、ワイの論理が全部、こいつの薔薇色の妄想プロットに読み込まれて、実写版の人外同人誌の主人公にされてまう……!)


 なんJ民のカエル肌から、尋常ならざる量の汗が流れ落ちる。

 残された時間は少ない。シルフィはすでに、手にした羽ペンの先端から、婚姻届を強制的に発動させるための金色の魔力光を放ち始めている。


(……落ち着け、ワイ。なんJ民の強みは何や。正論で勝てない時、ワイらが使う最高の戦術(奥の手)を思い出せ……!)


 なんJ民の脳内に、閃光が走った。

 そうだ。論理で勝てないなら、相手の土俵そのものを「お前のやってることはダサい、期待値底割れや」と煽り散らかし、精神的尊厳を全否定するしかない。


「……ンゴッ。ンゴンゴンゴ……!」


 なんJ民は、突然、ふんぞり返って不敵に笑い始めた。


「ククク……。シルフィさん、お前、自分が『天才同人作家』で、ワイを完璧にリードしとる(攻めとる)と思っとるみたいやけどな……。……お前のその『婚姻届のプロット』、一言で言って『めちゃくちゃベタで、ありきたりな、期待値底割れのクソシナリオ』やぞwwww」


「――……ッ!?!?!?!」


 シルフィの身体が、まるで極大の攻撃魔術をダイレクトに浴びたかのように、激しく硬直した。作家にとって、「あなたの作品はベタでつまらない」と言われることほど、魂を抉られる言葉はない。


「ええか、シルフィさん。お前がやっとることはな、ただの『才能の枯渇した商業作家が、ウケを狙って安易にやるハッピーエンド(結婚結末)』と同じやねん!wwwお前のこれまでの強みは何やった? 決して交わることのない男たちが、言葉を超えた『行間の暴力』で、決して結ばれぬ距離感の中で互いの執着をぶつけ合う……その『もどかしさ(尊さ)』が、王都の奥方がたを狂わせてきたんやろ!?wwwそれを、当の作者であるお前自身が、現実の『婚姻届』とかいう、国家の法律でガチガチに縛られた形式的な記号(籍)の中に、ワイという神(概念)を閉じ込めようとしとる……。これもう、実質的に『公式による解釈違いの最大手』やんけ!!!お前がワイと籍を入れた瞬間、お前の作品から『行間の暴力』は完全に消滅し、ただの『カエルと令嬢の平凡な新婚ノロケ瓦版』に成り下がるんじゃボケェェェ!!! はい論破!!wwww お前はワイと結婚した瞬間に、作家として完全に『脂肪オワコン』になるんや脱糞しろォォォ!!!wwwww」


――ドガァァァァン!!!


 会議室のタイムライン(空気)に、なんJ民の放った「なんJ民究極のレッテル貼り(公式による解釈違い)」という極大の呪詛が炸裂した。

 シルフィは、その言葉の暴力の前に、一歩、また一歩とよろめき、手に持っていた羽ペンを床へと落とした。


「私が……公式による……解釈違い……?」


 シルフィの瞳から、みるみるうちに光が失われていく。

 完璧な精神的勝利(レスバの勝利)。なんJ民は、己の「なんJの叡智」が、異世界の天才令嬢を完全に論破したことを確信し、ソファーの上で勝ち誇った。


「ガハハハ!!見たかシルフィさん!!wwwさあ、自分の解釈違い(愚かさ)を認めて、その婚姻届をゴミ箱に『ポイ捨て(リリース)』しぃや!!wwwww」



 勝負は決した。

 ……はずだった。


 しかし、なんJ民は、決定的な「エラー」を犯していた。


 膝をつき、絶望の淵に沈んでいたシルフィの身体から、突如として、先ほどまでの「薔薇色の魔力」とは明らかに質の異なる、どす黒く、悍ましい『漆黒の公式の波動』が立ち上り始めた。


「……ククッ。……アハハハ……ッ!!」


 シルフィが、不気味に肩を揺らして笑い始めた。


「……な、何や……? 何笑とんねんシルフィさん」


 シルフィは、ゆっくりと顔を上げた。その双眸は、完全にハイライトが消え失せ、底なしの深淵ヤンデレと化していた。


「――素晴らしい……素晴らしいです、師匠……ッ!!!」


 シルフィは、狂気的な速度で床の羽ペンを拾い上げると、立ち上がり、なんJ民に向かって狂ったように叫んだ。


「今、あなたの放った言葉によって、私の脳内のタイムラインが、完全に『神の領域ゴッド・プロット』へと大気圏突破いたしました!!

『婚姻という法律の檻に閉じ込められた神(概念)』……!

『それによって、かつての輝き(行間の暴力)を失い、平凡な新婚生活という名の絶望の中に擦り切れていく公式カプ』……!

――ッ!!! これ、最高、最高に美味しい『公式による公式の破壊メリーバッドエンド』のシチュエーションではございませんことォォォ!!!」


「――はぁぁぁぁぁ!?!?!?!」


 アカン。こいつ、ワイの「結婚したらオワコンになるで(正論)」という批判すらも、「オワコンになっていくカエルと令嬢の、退廃的なメリバ同人誌のプロット」として、美味しく脳内で消費し始めおった。


「いいですか、師匠!! 『解釈違い』? 結構です!! その『解釈違いという名の絶望の檻』の中に、作者である私と、神であるあなたが、二人きりで心中(入籍)する……!かつての輝きを失った師匠を、私がタライの水の中で毎日、愛おしそうに眺めながら、『ああ、あの人は昔、あんなに素晴らしい実況レスを放っていたのに、今や私の檻の中で鳴くだけの存在になってしまった……尊い……サヨナラ』と、脳のキャパシティを破壊しながら涙するのです!!これぞ、ハッピーエンドを超越した、究極の『絶望婚姻固定ディストピア・カプ』の完成です!!!」


「――嫌じゃぁぁぁぁぁ!!!そんな前衛的なメリバ同人誌の主人公にされてたまるかよォォォ!!!」


 なんJ民は、全力でソファーから飛び降りて逃げようとした。

 だが、シルフィの羽ペンから放たれた金色の鎖が、瞬時にマスターの短い手足を完全に縛り上げ、空中へと吊るし上げた。


「さあ、諦めてください、我が夫(確定)!! あなたの放った全ての打線レスは、今、私の完璧な『メリバ・プロット』の伏線として回収されましたわ!! はい、完全完封ゲームセットです!!」


「な、な、なんJ民のワイが……ただの異世界の二次オタ令嬢に……レスバで完敗……挙句の果てにヤンデレのメリバに監禁されるとか……こんなん……こんなタイムライン……聞いてへんぞ……ンゴォォォ……ッ!!!」


 なんJ民は、空中につるされながら、完全に白目を放ち、泡を吹いた。

 地球のインターネットでどれほど無敵を誇ろうとも、「現実のリスクを全て『尊い設定』として脳内で無効化し、心中すら喜んでプロットに組み込む無敵のヤンデレ作家」の前には、なんJの叡智など、ただの「美味しい前座プロット」に過ぎなかったのである。


『801板には手を出すな』


 なんJ民の脳裏にそんな文言が走馬灯のようによぎった。



 数分後。

 完全に魂の抜けた、ぐったりとした黄色いカエルの短い右手に、シルフィによって強引に羽ペンが握らされていた。


「さあ、師匠。ここに、あなたの『魂のサイン』を刻んでください。拒めば……分かっておりますね?(暗黒微笑)」


「……へ、へい……。もう、好きにしてや……。ワイは……ワイはただ、極極普通の……インターネットの実況スレに……帰りたかっただけなんや……」


 なんJ民は、涙ながらに、婚姻届の配偶者欄へと、その不格好な文字で『マスター(なんJ民)』と自らの魂の刻印サインを書き込んだ。その瞬間、婚姻届から眩いばかりの「薔薇色の魔法光」が天井突き破って大気圏まで上り詰め、ヴァトン王国の全域へと、新たなる概念の定着を告げるファンファーレが響き渡った。


「――やりました!!!ついに、ついに私は、神(師匠)との関係性を『完全固定(入籍)』いたしましたァァァ!!」


 シルフィは、完成した婚姻届を胸に抱きしめ、頬を薔薇色に染めて狂喜乱舞した。

 地球のインターネットでどれほど無敵を誇ろうとも、「現実のすべてを『尊いプロット』として消費する無敵の作家」の前には、なんJの叡智などただの前座に過ぎなかった。


 お互いが超大真面目に誤解を深め、ついに「カエルと令嬢の入籍」という、最悪のハッピーエンド(メリバ)へと突入したヴァトン王国のタイムラインは、今日も誰一人として全貌を把握しないまま、圧倒的な熱量で次なる「混沌のページ」へと突入していくのであった。

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