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第22話:解釈違いは国家反逆罪~地下8.5階で会いましょう~

 北の街道は、今や異様な熱気に包まれていた。女装した少年エーミールの足元には王国最強を誇ったはずの魔導騎士たちが武器を捨て、プライドを捨て、ただその可憐な毒に酔いしれて跪いていた。


「……あぁ、……エーミール様。……その冷たい視線。……女王陛下の教典にはなかった、……未知の、……禁断の解釈だ……!!」 「もっと……もっと罵ってください!!我々は、陛下の筋肉教義カノンを捨て、貴方のフリルに忠誠を誓います!!」


 茨の魔女ローズはその光景を鼻血を流しながら見守っていた。


「……終わった。調査団、全員陥落。でも、……わかる。……エーミール君の攻めは、……国家をも超える、……真理なの……!!」


 だが、その歪んだ調和を空を切り裂く黄金の雷鳴が粉砕した。


「……貴様ら、……よくも我が聖域をこれほどまでに汚してくれたな……!!」


 雲を割り黒い翼を広げた小柄な竜、女王フジョーシ=ヤオイが地上へ降り立った。彼女の瞳は黄金の怒りに燃え、手には鈍く光るドラシール正統BL教典が握られている。その威圧感だけで跪いていた騎士たちの背筋が氷結した。


「じ、……女王陛下……ッ!?」


「黙れ、裏切り者ども。……筋肉を愛でるべき騎士が女装した子供の足元で這い蹲るなど、……もはや救いようのないやつらだ。……貴様らには相応の報いを与えねばならん」


 女王が教典を開き、空中に複雑な魔法陣を描く。


「……秘奥義:【鋼の(ガチムチ・)肉壁(ハードBL)・無限鑑賞刑ッ】!!」


「ぎ、……ぎゃああああああああ!!」


 騎士たちの周囲に魔力で構成された巨大なスクリーンが出現。そこには、筋骨隆々とした大男たちが互いの汗と筋肉をぶつけ合い、一ミリの妥協もなく愛を語り合う超硬派・肉体美BL映像が脳内に直接24時間連続で投影され始めた。女装という安易な可愛さに逃げた彼らの脳を、強制的に筋肉の法理で上書きし、廃人へと変える禁忌の処刑。調査団は一瞬にして泡を吹いて倒れ伏した。


「……さて。……次はお前だ、変態女」


 女王の冷酷な視線が、震えるローズを射抜いた。エーミールは女王の放つ圧倒的な腐の威圧に気圧され、唇を噛んで黙り込んでいる。


「お前がこの国の少年を女装させ、文化の根底を腐らせた元凶だな? ……お前の罪は重い。……BLの解釈を歪め、国家のアイデンティティを破壊しようとした国家転覆罪……いや、それ以上のジャンル改ざん罪で、地下牢へぶち込んでやる」


 女王は冷たく言い放つと、茨の魔法で抵抗しようとしたローズを難なく組み伏せ、魔法の鎖で縛り上げられた茨の魔女ローズを見下ろした。ローズはすでに精神の限界を超え、虚ろな目で「……残業代……出ないのに……こんな……」と呟いている。


「……さて、茨の魔女よ。……貴様の罪は重い。だが、その背後にいる黒幕を吐けば多少の減刑(1日2時間の休憩)は考えてやらんでもない。……言え、その黒幕ははどこにいる?」


「……エ、……エドワード辺境伯の、……館……。……黄色いカエル……なんJ民を名乗る、……あの、……期待値の化け物が……すべてを……!!」


「……よし。……ドラシール地下牢へ連行せよ!! 私は直ちに再編部隊を動かす!!」


 




 一方その頃、エドワード辺境伯の館。ワイは豪華なテラス席でシルフィが描いた騎士団長と副団長の禁断の鍛錬を眺めながら最高級のお茶を啜っていた。


「いやー、シルフィwww お前の画力、もはやプロ級やなwww この筋肉の陰影とか、なんJのお絵かき板でもトップ張れるレベルやぞ!! www」


「師匠にそう言っていただけると、……私、生きててよかったって思います……!! 」


 師弟で「期待値最高やなwww」と笑い合っていた、その時。館の正門が重々しく開かれ、トランペットの音が鳴り響いた。


「……なんや? www エドワードさん、また客か? www」


 だが、現れたのは客ではなかった。黄金の紋章を掲げ、一糸乱れぬ動きで進軍してくるのは竜王直属の概念審議官・第二調査団。彼らはエドワード辺境伯(健康食品の社長)の制止を「女王陛下の勅命である」の一言で退け、正規のルートで堂々とワイのいるテラスへと踏み込んできた。


「……貴様が、自称なんJ民……カエルだな?」


 審議官が広げた巻物には、女王の印章が鮮血のように赤く輝いていた。


「ドラシール竜王国法、第801条解釈汚染罪、および第45条国家秩序(BL)攪乱罪の容疑により、貴様を拘束する。……抵抗は無意味だ。これは竜王フジョーシ=ヤオイ陛下自らの署名による、緊急連行命令である」


「ちょ、……まっ……!! www 事務的すぎやろ!! www せめて天井をぶち抜くとかの演出してーや!! www なんでこんな役所仕事みたいな感じなん!? www」


 ワイがツッコむ間もなく、特殊な魔封じの銀布がワイの全身を覆った。この国の絶対権力、すなわち国家という名の運営デバッガーが、ついにワイというバグを完全に隔離しに来たのだ。


「……連れて行け。……行き先は、地下牢だ」


「待てや!! www ワイはただのニートや!! www 労働基準法はどうなっとるんやあああ!! www」


 無機質な騎士たちに引きずられ、テラスから連れ出されるワイ。それまで呆然としていたシルフィが、ようやく事態の深刻さに気づき、椅子を蹴り飛ばして駆け寄った。


「……ま、……待ってください……!! 師匠を……!! 私の師匠を、どこへ連れて行くんですか!!」


 だが、騎士たちの槍の石突きがシルフィを冷たく遮る。


「お嬢様、退きなさい。……これは国家の審判です。……このカエルは、我が国の尊さを根底から汚した異端なのです」


「……嘘よ……!! 師匠は、……引きこもりだった私に、……新しい世界の美しさを教えてくれた……救世主なんです!! ……待ってください、師匠!! 嫌だあああああああ!!」


 シルフィの、喉をかき切るような絶叫が館に響き渡った。彼女は床に伏し、遠ざかっていくワイの後ろ姿に向かって涙を流しながら手を伸ばす。


「……師匠……!! 師匠ぉぉぉぉぉぉ!! 」


「……シルフィ……。……ポテトの揚げ時間は……守るんやで……!! www(ドナドナされる音)」


 ワイはそのまま、黒塗りの馬車(囚人護送用)へと押し込まれた。





 護送用の馬車から引きずり出され、底の見えない螺旋階段を延々と下らされたワイ。地下1階、2階……そして通常の最下層である地下8階を通り過ぎた時、騎士が壁の隠しスイッチを押した。すると、岩盤が唸りを上げて開き、さらに下の階層へと続く中途半端な隙間が現れた。


「……ここが、貴様のようなカスの終着駅だ。……地下8.5階へようこそ」


 放り出された先でワイは言葉を失った。そこは、狭い独房どころか地上のスタジアムをも凌駕するとんでもなく巨大な大空間だった。


 見上げるほど高い壁。その周囲を囲むのは、何万人もの観客を収容できそうなすり鉢状の観客席。そして中心には、真っ平らな砂地が広がる巨大な闘技場。


「なんやこれ……www 野球場ボールパークでも作るつもりか!? www」


「……違う、……あんた……。ここは、……女王様が、……解釈違いの異端を……公開処刑するための……聖裁の円形劇場……」


 声のする方を見ると、闘技場の端にある鉄格子の中で茨に縛られたローズが干からびた雑巾のように吊るされていた。


「ローズさん! www なんや、えらい広々としたところに住んどるな!! www」


「……笑えないわ……。……もうすぐ、……始まる……。……女王様の、……強制・解釈・アップデートが……」


 その時、天井の岩盤が開きまばゆい黄金の光と共に、竜王フジョーシ=ヤオイがゆっくりと舞い降りてきた。彼女は観客席の最上段、一段高くせり出した審判席に腰を下ろし、冷酷な黄金の瞳でワイを見下ろした。


「……さて。……巷でなんJ民と名乗り、我が国の伝統的なBL文化を女装という度し難い侮辱で汚した邪神よ。……お前の姿を拝ませてもらおう」


「邪神ちゃうわ!! www ただのニートのカエルや!! www 女王さん、あんたこれ設定ミスやろ!! www 牢屋が広すぎて掃除大変そうやな!! www」


 ワイのレスバ(叫び)に対し、女王はピクリとも眉を動かさず、傍らの巨大な教典を「ドスン!」と置いた。


「……口の減らぬクズめ。……お前が広めた女装ショタという安易な可愛さ。……それは男同士の魂の激突、肉体の極限の美しさを否定するこの世で最も重い罪だ。……今ここで我が真理を見せつけ、その歪んだ性癖をデリートしてやる」


 女王がパチンと指を鳴らす。すると、闘技場の四隅にある魔導クリスタルが輝き出し、大理石の石畳の中央に巨大な立体映像ホログラムが映し出された。


「……見よ!! これこそが国家予算の30%を注ぎ込み、私が自ら監修した究極のハードBL、ドラシール筋肉地獄絵図:剛腕の契り編だ!!」


「ヒエッ!? www 演出の気合の入り方がインフラ整備より上やんけ!! www」


 闘技場に現れたのは身長3メートルはあろうかという、全身筋肉の塊のような竜人族の巨漢二人。彼らは互いの襟元を掴み合い、汗を飛び散らせながら腹の底から響くような声で愛を語り合い始めた。


『……おい、……お前の……その大胸筋……!! 昨夜より……さらに……仕上がっているな……ッ!!』 『……フ、……貴様に……認めてもらうために……100セット……追い込んできたからな……!!』


「……どうだ、クズよ。……この圧倒的な質量!! この圧倒的な雄の香り!! ……フリルやドレスなどという姑息な装飾など、この筋肉の衝突の前には無力であると知るがいい!!」


 女王は悦に入り、頬を赤らめて叫ぶ。観客席(今は空席だが、魔力が録音された歓声が響いている)からは「尊い……」「解釈一致……」という呪いのようなエコーがワイの脳を直接叩いてくる。


 ワイは、あまりの「絵面の濃さ」に胸焼けを起こし、その場にうずくまった。


「……アカン、……期待値が、……胃もたれで死ぬ……!! www 勘弁してーや、……ワイは薄い本は……もっと薄っぺらい感情で読みたいんや!! www」


「……いいえ、……あんた……。……本当の地獄は、……これから……」


 ローズが涙ながらにワイに告げた。女王フジョーシが、再び冷酷な声で宣告する。


「……なんJ民よ。お前はただこれを見るだけではない。……お前が地下8.5階に放り込まれた本当の理由は、……我が新作の考証係として、永遠に私の創作を手伝わせるためだ」


「…………は?」


「私がBLのプロットに詰まった時お前がその斬新な視点を持って、私の教義を補完するのだ。……さあ、筆を執れ。……今夜中にこのガチムチ巨漢たちが夕焼けの砂浜で、なぜか100キロのバーベルを挙げながら告白するシーンの整合性を証明しろ」


「…………強制残業デスマーチやんけええええええ!! www」


 地下8.5階、広大な腐のコロシアム。そこは女王の飽くなき創作欲を満たすための、終わりのない地下強制原稿執筆場やった。


「……ローズさん、……ワイら、……これ……一生脱稿できへんやつや……www」


「……だから、……言った……。……魔女会議の方が、……まだ……マシ……だった……」


 天井からは「期待値……期待値……」というワイの叫びが空虚に反響し、女王の「尊い……!!」という叫びが地下深くの闇へと消えていった。

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