表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
169/177

第169話 「お茶漬け」


深夜食堂しのぶ。


暖簾の外では、夏の夜風が静かに通り過ぎていく。


厨房で湯気の立つ炊きたてのご飯を見ながら、マサがぽつりと言った。

「さて……」

「お茶漬けでも食べるか?」

忍がくすっと笑う。

「急ね、マサさん。」

マサは肩をすくめた。

「塩むすび対決のあとだろ?

 なんだか、腹が落ち着かなくてな。」

すると隣で八恵子が笑う。

「分かるよ、それ。」

「料理人ってのはね、

 結局、最後はお茶漬けに帰るんだ。」

忍が小さく頷いた。

「じゃあ今日は、

 三人三様のお茶漬けにしましょうか。」

炊きたてのご飯が三つの茶碗に盛られる。

まずはマサ。

焼き鮭をほぐし、

刻み海苔、白ごま。

そこへ熱々のほうじ茶を静かに注ぐ。

「俺はこれだ。」

「焼き鮭茶漬け。」

シンプルだが、香ばしい香りが立つ。


次に忍。

梅干しを丁寧にほぐし、

しそを細かく刻む。

「私はさっぱりと。」

「梅しそ茶漬け。」

熱いお茶を注ぐと、

梅の香りがふわっと広がった。


最後に八恵子。

少しだけ考え、

塩昆布と刻み生姜を乗せる。

そして言った。

「お茶じゃないよ。」

マサが眉を上げる。

「ん?」

八恵子は鍋から静かに注ぐ。

「出汁茶漬け。」

かつおと昆布の香りが

厨房いっぱいに広がった。


三人は同時に箸を持つ。

さらさら……

静かな音だけが響く。

しばらくして、忍が言った。

「……やっぱり」

「お茶漬けって、

 落ち着くわね。」

マサが頷く。

「料理ってのはさ。」

「凝ったもんより、

 こういうもんの方が難しい。」

八恵子が笑う。

「違いない。」

「米、塩、出汁。」

「それだけで

 人は幸せになる。」

三人の茶碗は

いつの間にか空になっていた。


マサの一言

「腹が落ち着く料理ってのは、

 派手じゃないもんだ。」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ