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part59

キールが奴隷たちを解放して国の辺境から歩き出そうとした。しかし、いつまで経ってもその場から動かない少年がいた。心配になったキールは、水筒の蓋を開けて、少年に差し出した。


キール「まだ喉が渇いている?それとも…疲れたかな」

少年「…僕は…なんだかここにいてはいけないように感じます」

キール「どういうこと…?」

少年「よく分からないんだけど…何か、僕の大事なものを無くした気がして…ぽっかりと、空白があります…」


空白。それ即ち無。少年は幼いながらに、何かがないことに気づいたのだ。しかし、肝心の正体はわからない。それもそうだ。分からないという理解があるから、それが空白として定義されるのだから。少年は虚な目でキールを見つめる。まるで何も語ることがないように、生きた屍として座りながら、時間を過ごすつもりなのだろう。それはあまりにも臆病な選択だ。


キール「僕には無くしたものはない、だけど昔からないものがある」


そう言って、キールは少年の隣に座った。同じ目線で目の前を見ると、夕日が燃えて、火山に入りそうだ。見ているだけでむさ苦しい。


キール「僕は、いつまで経っても満たされない体を持っている。だから、満足を知らないんだ。満足できたらこの先ずっと明るい未来を見ることができるはずなのに、僕にそんな資格はないんだ。水筒は満タンなんだけどね」


キールは自身の水筒をあらためて少年に渡した。生きようとした少年は、無意識に水筒を飲み干した。彼は、無くしたものが何かも分からずに、その不安を抱えながらも生きようとしている。キールはそれを見て、酷く羨ましい気持ちになった。一生満足できないという事実に埋れたまま、彼のように努力しようとしたり、情熱を感じていなかった。この差は、一体どうやってついてしまったのだろうか。


少年「…すみません、早く行きましょう」

キール「いいんだ…名前は?」

少年「オーヴィン」

キール「オーヴィン…よろしくね」


その刹那、キールたちの周囲に酷い悪臭が立ち込めた。悪臭、というよりも、薬品などの体に悪い成分が爆発したような匂いがする。吸ってしまった者たちは咳が止まらなくなり、その場に蹲った。それはオーヴィンも例外ではなかった。


オーヴィン「ゲホッ…ゲホッ…!」

キール「空気の流れを一定方向に留めるように『制限』!」


『制限』により空気は新鮮なものになった。しかし、このやり口を見て、キールは怒りに燃えた。なぜ奴が再び動き出したのか。


キール「なんで、こんなタイミングを…」

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