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エピローグ

〜白い虎の手記より〜



 戦争は終わった、パイン公国(わたしの祖国)の敗北という形で。


 自国の領内で大量破壊兵器を使用するという、歴史上最も愚かな行為を犯した国は、連合の物量に押されその後無惨にも敗戦した。


 私は彼女の死を見届けた後、地下迷宮内を歩き地上に出た。あの位置は事前に頭に入っていた地点だった。


 地下迷宮を抜け出した後聞こえてきた敗戦を知らせる鐘の音。


 VIII号が落とされ、死神の命も落とされたのを見計らったかのように……生き残った政府高官により組織された臨時政府は遅すぎた白旗を上げた。


 私にはその音色がヴァルハラへと旅立って行く戦士たちを見送るレクイエムのように感じた。




 公国軍のパイロットであった私は戦後、オレンジ共和国の収容所において、強制労働の役に着いた。


 パイン公国は戦後、二つに分断された。連合側の傀儡国家である西パイン共和国、公国の血を引き継ぐ東パイン連邦へと……


 収容所の中で、私は自分の祖国が二つに引き裂かれるのをただ眺めている事しかできなかった。


 そして二年……私は役務を終えた私は釈放され東パイン連邦に帰還した。帰還した私はそのまま東パイン連邦陸軍に復帰した。


 しかしながら、私の戦果を恐れた上層部は……私を閑職へと置いた、おそらく連合側の意志が入っているのだろう。


 事実上軟禁状態であり、人型戦車に乗る事も無かった。だがそれでも軍に入れるだけありがたかった。


 ……私には、他の居場所なんてないからだ。


 釈放されてから、"彼女"の事を調べた。


 あの時出会った私と同い年くらいの黒髪の女の子。肩に死神のエンブレムが入っていたシャーマンに乗っていた彼女。


 彼女の名前はすぐに知れた、共和国内では有名人だったようだ。名を"ユリ・キリシマ"。東方系の人であるらしい。


「もし生まれた国が違かったら……私もアナタと肩を並べて戦えていたかもしれないのに……」


 二年経っても、あの彼女の言葉はまだまだ胸に強く刻まれている。


 調べた結果、彼女は戦死していた事が正式に分かった。わかってる、それは私が一番よくわかってる……でもちょっとは希望を持ったって許されるだろう。


 私の手には、あの時彼女から託された青色のリボンがまだ残っている、皮肉なことに、彼女の唯一の遺品となってしまったようだ。


「……」


 私も、もう二十二歳。こういうアクセサリーをつけるなんて柄でもないけど……それでも彼女に託されたリボンを私は常に髪を結ぶリボンとして身につけている。



 休暇を利用してあの場所に行ってみた。季節は春、公国の旧都ドラゴンフルーツ。戦火により打ち捨てられ未だ復興も進まない旧市街地、私と彼女が出会った場所。


 地下に降りあの場所に、そこには一台のシャーマンイージーエイトがあの時と変わらずに打ち捨てられていた。


 シャーマンは朽ち果て、兵器としての役割を終え静かに横たわっていた。


 崩落した天井部から日が差し込んでいる、周囲は風に乗せられ飛んできたであろう草花に覆われていた。


 ……地下に彼女の亡骸は無かった、戦後地下迷宮には連合軍による調査が入ったと聞く、その際に遺体が回収されたのだろうか。それとも土に還って行ったのだろうか。



 そうして……機体の周りには赤色の綺麗な花々が咲いていた。あれはリコリスの花であろうか。


 その光景を見て、私は何故か泣いてしまった。年甲斐もなく号泣してしまった。


 私の頭の中には様々な記憶が通っては消えていった。自分のこと、彼女のこと、あの新型爆弾で消滅した私の故郷のことが。


 もし、彼女が生きていたなら。私は彼女に会ってこう言いたい。



 あの救いようのない戦争の中で、私があなたに出会えたのは何よりも幸せな事でした。と……

最後までご覧いただきありがとうございました。

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