キッサタマリバ・一文字
「君ってさ、いつもメロンフロート頼むよね」
かの人は唐突に切り出すと、すっかり空になったコーラフロートで音を立てた。
「先輩、その癖行儀悪いッス」
「あや、これは失礼。」
ズズズ。
言ったそばからこれである。
「いや先輩、治ってないッス」
「いやはや。」
ズズズ。
形の良い眉が、申し訳なさそうに八の字を描く。
が、目が笑っているので本来の意図はまるわかりである。無論、自分が公共のマナーを気にする人間であることを知った上で、からかいに来ているのである。
「次やったらたまたま相席だったことにして席をたちますね」
ため息をつきながらそう言うと、今度は口に一文字
が出現した。
まったく忙しい人だ。
「むむっ……その場合、お支払は……」
「当然、割り勘でしょうね」
「そんな……ボクが明日の飲み水をも知れぬ身であると知っての仕打ちかい」
「他人の相席なので、知らないでしょうね」
冷たく言い放つ。
ちょっと可哀想だが、まあ、自業自得である。
私がそういうコト―他人の目を集めること―を気にしすぎる性格なのを知ってて意地悪をするような人には、いいクスリである。
そんなぁ~とか言いながら、飲んでしまったコーラフロートの残骸をうらめしそうに眺めているダメな大人を見ながら、こういう大人にはならないようにしようと改めて私は決意したのだった。
そもそも大の大人が高校生に借金して喫茶店は人間としてもアウトな気がする。
と、まあこんな風に話題を誤魔化して済ます。
……憧れてた先輩がこんなのだったと知ってたなら、きっと、メロンフロートなんて好きにならなかっただろう。
まだ先輩がこんなのだって知らなかった頃。
フロートが大好きだと小耳に挟んで、共通の話題がほしくて"そういうキャラ"にしたのがいつの間にか本当に好きになっていた。
そんな理由なんて、言うつもりはないのである。
そんな理由なんて、絶対言わないのである。
もういまは恋とか愛とかじゃないので、大丈夫だけど。
言うとからかわれるのが目に見えてるので、言わないのである。
……"こんなの"な先輩と一緒にフロートを食べるのが好きなんだと気づくのは、もう少し先、アイスが溶けかけた頃のお話。




