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47 魔法技能学校の推移

植物の利用によって魔法使いの負担は減り、より高度な仕事に専念できるようになった。

高度な仕事と言っても企業では亜空間系統の魔法を使う部門に移ったり研究職になったりするだけの事だけどこれまでよりは高度な魔法の技能を必要とする様になる。

それが魔法技能学校の設立に繋がり、御蔭で私はそこの魔法学部における代表みたいなことをする羽目になった。

今では提携している医科大学等からも講師陣が来て講義を行っている。

結局のところ最初の話とは違ってきて私は講義をするだけではなく各所から来た代表者と打ち合わせを行い今後の方針を決めたり講義内容の調整をしたりと奔走している。

研究に専念する話はと言うと確かに学校を設立せずにいた場合よりはましな状況だ。

大学の研究者全体を見れば状況は改善されているのは確かだ。

魔法の基礎的な所は共通しているから各学部でバラバラに対処するよりも纏めた方が効率は良い。

でも代表者として魔法技能学校に出された者は負担が増していて研究に専念するとは言い難い状況だ。

確かに何もせずにお手上げになるよりは遥かにましな状況ではあるけど誰かがやる必要があると分かってはいるけど個人的には納得できない。

『納得できないぞ!忙しくて娘と遊ぶ暇もないじゃないか!』

娘の美織は魔法技能学校設立の年に生まれて可愛い盛りの三歳なのに!

暇を見つけては転移で顔を見に行くから忘れられる事は無いけど平日は纏まった時間が取れない。

世の会社員の方々よりはましな事は分かっているけど唯の研究員ならもっと早く帰れるのに!




植物の利用は人手不足の緩和にもなったから経済の活性化に繋がっている。

ただ植物の魔法を利用した製品は例によって忌避感が強く働くため国外には輸出できなくて、市場は日本のみだ。

日本に滞在中の各国のビジネスマンや公使なんかが製品を自国に密輸した様だけどそれらの国で普及する気配も今の所はない。


アメリカでは植物の魔法を利用した発電機は燃料が元々安い事もあって庶民が必要性を感じていないようだし植物の生体魔法回路の管理等のコストを考えると現状では総コストが返って高くつくらしい。

日本の調査では普及すればそれなりに安くなる筈なんだがエネルギー関連を牛耳る業界の圧力が強く国としても優先度が低いから潰されている感じだな。

それに加えて魔法使いの需要が軍・治安関係・経済界が優先で民生は後回しみたいだから普及させる動機も弱いみたいだ。

アメリカ軍が分裂しかねない国を何とか纏めている状況では利点が有っても優先順位は低くなっている。

昔の様に所謂セレブにエコが流行ってはいないのも一因かな。

世界的には人口が減少している事もあって燃料の需要は減っていて中近東地域の混乱を含めても燃料価格は下がっているからか日本以外の国では普及する為の熱意が湧かない感じだな。

これらはあくまで民生利用の話で軍事利用は進めている筈だ。

燃料の調達等の補給の事を考えたら利点が多いからな。


でも屋内の空調や芳香の為に使うぐらいは広まっても良さそうなのにそれも広まっている様子がない。

如何やら生体魔法回路を調整する為の技術料が高くて製品化に見合わない様だ。

整形質魔法の施術が可能な者であれば技能的には問題のない筈だが海外ではその施術料が高く設定されている様で空調等で技能を使うと技術を安売りすることになり遣る者がいないのだ。

で普及のためには新しく魔法使いを養成しないといけないが仮に養成してもその者は実入りの良い仕事つまり整形質魔法の施術に流れる。

海外では軍事優先の為か市場の魔法使いの需要に対して供給が足りていないのだ。

これは魔法教育が普及して魔法使いが増えない限りは解決しない問題だな。


各国の研究機関で植物の魔法の技術解析をしている筈だから各国で研究者達が生体魔法回路への魔法の組込みに気付くのは時間の問題だろう。

日本は生体魔法回路への魔法の組込みは魔法の秘匿技術として国外の研究者には教授していないので各国の研究者にとっては未知の技術である。

近年になってその存在自体は知られる様になったがサンプルも日本人の魔法使いぐらいしかいなくて今迄は事実上解析不能だった技術だ。

解析するためには生きたままサンプルを捕獲しないといけないが捕獲対象は日本のある程度以上の技能をもった魔法使いかその使い魔でありこれまで成功した試しはない。

手に入る情報が少ないためか彼らの生体魔法回路への魔法の組込みの研究もあまり進んでいなかったようだな。

それが植物の魔法を利用した製品の入手によって初めてサンプル入手となり解析可能となった形だ。

この魔法技術の流出は植物の魔法を利用し始めた時点で懸念されてはいたけれど日本は国力の増大を優先して今に至っている。








植物の魔法の利用の日本社会への浸透は驚くほど速く進んで植物の魔法を利用した小型発電機が発売されて五年経ち魔法技能学校設立の頃には植物の魔法を利用するのは当たり前になった。

そしてシナからの偽装難民を自衛隊や海上保安庁が上手く処理して脅威の芽を摘んでいる結果として脅威に対する楽観論が広まっていた。

それ故か魔法技能学校設立四年目の昨今では自分が魔法技能を鍛錬しなくても問題ないと考える者が増えている。

鍛錬の結果として植物の生体魔法回路を自分で調整可能になってこれ以上の魔法の鍛錬は必要ないと考えるのならまあ良い。

だけど誰かが遣るから自分は楽しようと考えて魔法の基礎教育レベルの鍛錬すら怠る者がいるのは国を傾けかねない問題だ。

そう考えて日本政府は国民の魔法の基本技能の向上の為に魔法教育に力を入れているのだが国民の方は国外からの脅威を深刻に捉えていないのか政府が目標とする基準には達していない。

平和な時代であれば問題ないのかもしれないが世界を見渡すとそんな状況には無い。

日本はシナの混乱の渦の傍にいていつ巻き込まれてもおかしくない状況だ。

日本が平穏なのは魔法技術が優位にあるからで魔法技能の鍛錬を怠るのはその優位を自ら放棄する行為であり日本政府としては見過ごす事のできない大問題である。

働き蟻の何割かは働いていないとの話を出して魔法の基礎教育を軽視し鍛錬を怠る者もいるがその蟻は補充傭員として待機しているのであってサボっているのではない。

蟻は欠員が出れば働くし群れに外敵が現れた時は戦うから蟻の群れは不必要な者を養っている訳ではない。

魔法の基礎教育の鍛錬を怠るのは群れの待機要員で有る事すらも拒否する様なもので非常時には切り捨てても構わないと公言しているも同然なのに気付いていないのだ。




「魔法技能学校で受講生の増加の伸びが年々鈍化しているだろ。なんか植物の魔法の利用が普及して魔法技能の鍛錬を怠る人が増えている気がするんだけど……美里はどう思う?」


「どう思うって……その判断が正しいかどうかって事?それともこの状況が不味いんじゃないかって事?」


「え~と、どちらもかな。どう思う?」


「良く調べないと分からないけど植物の魔法の利用が一因ではあると思うわね。不味いかどうかは分からないわ。仮に何かあって魔法技能の鍛錬を怠る人達が淘汰されても自然淘汰の一環で仕方のない事なのよ。まずないとは思うけど逆の状況も充分あり得ると考えると全ての人に魔法を強制するのもどうかなと私は思っているわ」


「沃土も確かそんな事を言っていたな。考えは理解できるけど納得できない感じなんだよなぁ」


「あなたはそれで良いのよ。そういう人なんだから。いずれにせよどんなに言っても遣らない人は遣らないわよ。それが彼らの選択なんだからどうなっても責任は彼らに有るのよ。気にしても仕方がないわ」


「でも勿体ないじゃないか。それに子々孫々と続くんだよ。生体魔法回路に組み込んだ魔法については子供の生体魔法回路に受け継がれるんだから」


「世界を見渡すとその鍛錬を怠っている日本人すら魔法を使える方なのよ。日本における魔法教育の成果は挙がっているとみるべきね。機会は有るのだからそれを掴むかどうかは個人の問題なのよねぇ~」


「でも日本政府は危機感を抱いているから年々魔法の基礎教育のレベルを上げようとしているだろう。魔法技能学校への要求も年々上がっているけど今では上級クラスだとバリアやシェルターも教授している。これ以上は自衛官にでもなって特殊技能の専門訓練を受けた方が良いぐらいだ。あとは自分で探求して技能を高めるか個人的に誰かに弟子入りするぐらいしか手はないな」


「あなたが弟子にすれば良いんじゃないの?」


「私は大学の学生と研究生で手一杯だよ。中高生も研究室に出入りしているし、どうしてもと言う話なら大学に入って貰うしかないかな」


「個人的に何人か弟子にして武技を教えているじゃない。同じ様に出来ないの?」


「あれは魔法の研究とは別枠で弟子と言っても意味合いが違う。天谷師匠から教わった武技を伝えないと伝承が途絶えるのは不味いだろう?それに自衛官か警察官で天谷師匠の孫弟子にあたる人達が紹介されてくるぐらいだから一からは教えていないんだよ。強さも私と殆ど変わらないし同門内の技術交流の意味合いもあるんだよね~」


「そういえば私は武技を教わっていないわ」


「……教わりたかったの?言われた事が無かったけど……身に着けたいなら教えるけど魔法の技能については殆ど君は身に付けているから教えるのは武技としての体の使い方ぐらいかなぁ。戦闘技術だから身を守る役には立つよ。攻撃への対処とか身に付くし。ただシェルターを使えば完璧に防御出来るし逃げるだけなら転移すれば良いんだから必要かどうかは疑問だね。まぁ、相手を打ちのめすつもりなら必要かな~」


「………別に教わる必要はないかな。どうしよう。誰かを助ける場面に遭遇したら必要かも」


「犯罪発生率が下がっているのを知ってる?日本にいる限りまずそんな場面に遭遇する事は無いよ。酒を飲んで箍が外れでもしない限りは日常でそんな場面はない。私に弟子入りした人達も業務で必要な人が殆どであとは武術が好きで純粋に強くなりたいと思っている人ぐらいだ」


「あなたはどうして覚えたの?あまり必要なさそうだけど」


「私が天谷師匠に弟子入りした頃はまだ自衛隊とは繋がりが無くて魔法を使った武技については私達が最初の弟子なんだ。そもそも天谷師匠は武技関係の魔法が専門で魔法を習うのも武技を習うのも同じだったんだよ。医療関係者は整形質魔法しか習っていなかったけどね。私は飛ぶために役立つかもと魔法なら何でも習っていたらこうなっちゃた。実際に武技の体の使い方とかも飛ぶのに役に立ったんだよね~」


「そうなんだ。初めて聞いた。武技を習っていなかったら飛べなかったって事?」


「ん~少なくとも道具を使わずに飛べるようになったのは武技の御蔭かな。私は体の使い方が上手くなかったからね。天谷師匠に弟子入りしてなかったら飛べるにしてももっと時間が掛かっただろうな」


「ふ~ん。今では珍しくもなんともない魔法なのにね。道具を使わずに飛ぶ人もゴロゴロいるし」


「でもスペシャリストはほんの一握りだろ。その殆どが自衛官だし。体の使い方が重要なんだ」


「私も武技を修得すればもっと上手く飛べるようになるかなぁ~」


「いや、君は飛ぶために必要な体の使い方はダンス等で修得済みだから後は根気よく鍛錬するだけだな。鍛錬する事自体は良い事だけど……今以上に飛ぶ事が上手くなっても地球上ではあまり役に立たないよ。私が鍛錬している理由は宇宙を移動するためだからね」


「月や火星に行くつもりなのよね。私も一緒に行こうかな」


「そうする?なら今度から宇宙に行く時は誘うよ。宇宙で鍛錬しているんだけど今程度の能力では月に行く気にもならないんだよ。仲間もいないし少しマンネリ化しているから丁度良いや」


「じゃあそうする。でも一緒に行っている自衛官の方達は何しているの?あなたの鍛錬を見ているだけ?」


「彼等は衛星軌道上で何かしているよ。軍事機密だから見ない様にしている。それにいつも一緒に行っている訳ではないからね」


「宇宙ステーションはどんな感じなの?」


『宇宙の個室で二人きりで地球を眺める………なんてロマンチックなの』とか美里は考えていた。


「宇宙ステーションかあ。宇宙ステーションは狭い臭いだね。密閉空間の狭い中で人が何人もいればそうなるよね。まぁ、それも昔の話で今では植物の御蔭で臭いは改善されたから大丈夫だよ。以前は行くと魔法で消臭するかバリアで臭いを遮断するかしていたね。狭いのは宇宙コロニーを設置すれば解決できるんだけど目立つから政府方針で避けているんだ」


「…………なんか思っていたのと違う。個室で二人きりなんてことは無いの?」


『あれ?なんか変な事言ったか?機嫌が悪くなったぞ』


「だから狭い所で何人もの研究者が無重力実験をしていて二人きりは無理かな。宇宙コロニーを設置すれば個室も有りだけど。早く設置の許可が下りないかなぁ。ねえそう思わない?」


「…………」返事がない。


「月へ行く時は二人きりになれるよ?」


「…………何年先の話よ!」


「早くても五年は先かな?」


「…………」


それから私は彼女の機嫌を直すために毎日頑張って翌年に次女の美香が生まれた。

長女の美織とは四つ違いだ。

彼女の機嫌は………直ったのかな?

因みに彼女が私と一緒に宇宙ステーションに行く事は無く、二人の間で宇宙ステーションが話題になる事も二度と無かった。

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