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42 植物の変化

変わり者の植物を探す件についてはうちの大学では農学部が主体となって共同で研究していた。

ある日の朝、研究対象の全ての植物の生体魔法回路に組み込んだ魔法が発動する事が確認された。

一斉に全ての植物の生体魔法回路が利用可能になったので間違いではないかと再確認の実験が3回行われて間違いない事が確認された。

私は最初の確認報告を受けて直ぐに転移して再確認の実験に立ち会った。


「栗原さん、おめでとうございます。いったい何でしょうね。今迄サボテンのそれも一種類しか生体魔法回路を利用できなかったのにいきなりこんなに増えて。こちらの現象の方に興味が湧きますね」


一斉にこの様になったのでこれは何か原因が有るには違いないのだがそれが何かはさっぱりわからない。


「本当に今朝になって突然、対象植物が全部利用可能になった訳だから。昨日まではさっぱり反応が無かったんだよ。それが突然これだ。訳が分からない」


「権藤先生には私が連絡を入れます。栗原さんは他の研究者に連絡を入れて確認して下さい。もしここだけの現象であればこの研究室に何か固有の原因が有ります。でも他の研究室でも同様だとしたら日本もしくは世界的な現象と言う事です」


「ああそうだな直ぐに確認するよ」


その日は一日中電話が鳴っていて、私達は日本中の大学を転移して回っていた。

少なくとも日本中で同じ現象が起きていた。

日本の北から南まで植物は多岐にわたるからこれで日本国中どこでも発電機を設置可能だ。

なんとまあ、人にとって都合の良い話だ。

権藤先生は緊急の招集が掛かったそうでどこかへ行ってしまった。


「利用可能な植物を発見する目的は達成できましたけど何か引っかかりますよね。同種の植物だけなら繋がっているからまだ分かるんですが、多岐にわたり過ぎていますよね。それも同じ日に突然。え~と、栗原さんどうかしましたか?」


「君は不安じゃないのか?私は不安で仕方がない。突然使える様になったんだ。突然使えなくなることもあり得ると言う事だ」


「魔法自体が魔素乱流期になったら使えなくなるんですよ。五万年以上先の話ですが。神様情報で確認すれば分かると思いますが使える魔法が使えなくなった事例はこれしかありません。人が植物の反感を買って植物が魔法を使わなくなる可能性はありますが使えなくなることはまず有りません。今回の件も植物が人のために魔法を使う様になったんです」


「理由は?」


「私の妄想かもしれませんが植物の生存戦略だと思いますね。今日日本中を回りながら考えたんですが人は品種改良とか言っていますが栽培種の植物達は今迄も人に利用価値が有る様に変化して種の繁栄を勝ち取ってきたんです。それと同じ事が今回も起きたのではないかなと。魔法だから唐突に感じただけで珍しい事ではないのではないかと」


『植物達は人にとって有用になる事で種として繁栄しようとしている』と私は考えている。

人との共生関係を強化する事で繁栄に繋げようと魔法を使う事を選択したのではないかと。

今回の件は人にとって都合が良すぎるのでそうとでも考えないと説明が付かない。

発電機にしてもサボテンだけでは栽培に適切な環境が限られてくるから日本全国に普及する場合のネックになっていたのだ。

庭木とか観葉植物が発電に利用できるなら普及に弾みがつく。


「人に都合が良すぎはしないか?」


「そうですよ。植物達は人の都合に合わせる事で種の繁栄を図っているんです」


「修君。君は植物にそんな意思が有ると思うのかい?」


「当然ですよ。そうでないと植物と繋がる為に信頼感が必要になるとは思えない。人に認識できていないだけで植物にも何らかの意思が有るんです」


「そうかもしれない。でもどうやってそれを証明したらいい?」


「植物と繋がって情報の遣り取りをするぐらいしか思いつきません。異質すぎて今の所は何も分かりませんけどね。研究は本来そんなものでしょう。今回の様に劇的な成果はまれだ」


「うん、そうだね。本来研究なんて地味なものだ。それに望んだ成果が得られるとも限らないものだ。今回の現象の原因究明も地道に進めるしかないね」


「そうですよ。今回の件は色々な仮説が出て沢山の研究者がその仮説を証明しようとするでしょう。そして殆どが仮説の間違いを証明して終わるでしょう。でも新しい発見も出てそれらが次の研究に繋がるんですよ。そんな事の繰り返しです。取り敢えず今は研究の成果が挙がった事を喜びましょう」


「そうだね。今は挙げた成果を喜んで悩むのは明日からにしよう」


ある日突然、人は周りの多種多様な植物の生体魔法回路を利用出来る様になった。

この唐突な植物の変化の原因はまだ解明できていない。

この日を境に日本では植物を利用した製品の開発が進んで人々の日常に溶け込むことになった。








農学部では植物の使う魔法についても研究を進めている。

元々植物が使う魔法であれば生体魔法回路に組み込んで利用可能になったから何か良い利用法が無いかと考えている訳だ。

虫の嫌う匂いの発生を強化して虫よけにするとか人の好む香りの発生を強化して芳香剤の代わりにするとかだ。

このあたりの魔法は人のドーピング魔法に当たる能力強化の魔法で植物も普通に使っている。

植物の中にはアルカイド系の強力な毒物を持つ物もあるからかなり危険だけど薬にもなるから有効成分を植物の魔法で上手く抽出できる様に成れば手間が省ける。


自衛隊では植物の生体魔法回路を利用すれば酸素の供給と空気の循環と浄化が同時に行えて潜水艦等の閉じた空間の中では非常に有用なため研究が進んでいた。

アイテムボックスを使えば空気を溜め込んで使う事も可能で実際今はそうしているけど植物を利用した方が自然に沿った形で無理なく行える。


植物の生体魔法回路の利用方法については他種多様な植物の利用が可能になってから民間の方でも応用研究が進む様になった。

大体は今迄造ってきた製品と植物の組み合わせなので企業も技術的な蓄積が生かせるし消費者も既存の製品の新型みたいな感覚なのであまり違和感なく受け入れられた。

植物の育成がセットとなる訳だけど観葉植物が家にあるのは珍しくもないし庭に木を植えるのも普通の事だから一般家庭で特に問題となる様な事も無かった。


「植物の魔法を利用する技術は日に日に進歩していますね。栗原さん」


「発電するだけならあらゆる植物が利用可能になったし、他にも色々な利用方法が開発されているからね」


「生体魔法回路の調整は難しいけど利用するだけなら普通に育てるだけで問題ありませんし、業者に頼めば庭木とかも利用できるようになりましたからね。以前はサボテンだけだったのに。虫よけや芳香は上手くいっていますか?」


「虫よけはメーカーと協力して製品化を進めているけど、芳香は香りの調整とかが難しいんだ。利用者が好みで調整出来れば良いんだけどそれだと需要が限られるだろう?」


「そこまで魔法に熟練している人は限られますからね。芳香のために魔法の鍛錬をする人もいないでしょうし。魔法の基礎教育による能力の向上を待つしかありませんね。目標は国民の六割だそうですから」


「そこまで待っていたら時間が掛かりすぎるよ。それでメーカーはお金持ちや企業相手に空調も兼ねるような形でレンタル会社を通しての貸出を検討している。レンタル会社で管理しながらであれば調整もし易いしデータも集め易いしね」


「ああ、じゃあ上手くいっているんですね。空調や換気は何気に便利ですよね。家にあると空気は淀まないし物置とかも黴臭く成り難いですよ。家で色々試してみました」


「あれは便利なんだよね。池の周りの樹木の生体魔法回路を利用して水の循環に使えないか検討中なんだ。水の淀みを無くすだけで水質が随分違ってくるから」


「淀むと水中の酸素が不足して水が嫌気菌で腐敗してメタンガスとか発生しますからね。順調そうですけど何か問題は有りませんか?」


「メーカーとの会議で問題になっていたのは植物を育てるのを嫌がっている人達からのクレームかな?面倒だとか苦手だとかで何とかしろと。相談されたけど『そもそも自分で遣るのが面倒だからと植物に手伝って貰っている訳なので嫌なら自分の魔法で対処するしかない』と答えておいたよ」


植物の育成に対しては面倒だとか苦手だとか言って拒否する人達がいるらしい。

まぁ、それは個人の選択の自由なので別に問題は無い。

お金は必要だけど代行業者に頼めば自分では遣らずに済む。

それも嫌なら幸いと言うか大抵の事は人の魔法でも可能な事なので不便ではあっても対処可能な筈だ。

魔法を使えない人は如何するのかって?

正確には彼らは魔法を使えないのではなくて使わないのだから本人の問題だ。

今の所、健常者で魔法を使えない人は見つかっていない。

いるのは鍛錬しないで能力を錆び付かせている人だけだ。

結局の所、彼らは己で選択してその状況にある訳で他人には如何しようもない事なのだ。


「他の手はお金をかけて代行して貰うかですね。レンタル会社に植物の管理を任せるとか」


「メーカーもまだお金持ちか企業相手しかレンタルは想定していないな。人手が足りなくなるのが目に見えているからね。需要が有っても供給力が足りない」


「転移作業と同じ状況かな。最近は工学部の学生もゲートが使えるだけで運送会社なんかの引き抜きが有るようですから。企業内での社員育成が間に合っていないようですね」


「その話は農学部でも聞くなぁ。でも流石に運送会社に就職とかは無いな。入社して直ぐに物流に廻された話なら聞いた事がある。農学部では評判が落ちて学生が訪問しなくなっちゃったけど」


「あからさま過ぎますね。本人が納得していれば良いけど評判が落ちると言う事は違いますよね」


「農学部出て社内とは言え直ぐに物流に廻されたら気分悪いさ、農業に興味が有ってそれなりの会社に入ったら本人の希望を無視して仕事が最初から物流ではねぇ。農学者としては育てる気は無いか役に立たないと言っている様なものだ」


「待遇だけなら運送会社の方が良さそうですよね。工学部なら生産管理や生産技術にも関わるからまだ納得もしそうだけどなぁ」


「直ぐに廻すからだよ。周りには大学の農学部出はいなかったようだし、結局直ぐに辞めて転職したしね。会社への帰属意識も湧かない内にそんな待遇では遣る気が無くなるよね。会社組織の仕事の流れとかを掴ませてからなら本人も納得したかもしれないのに。会社の方は厚遇したつもりでいるんだよ」


「厚遇ってどこがですか?」


「魔法を使う事による特別手当とかで残業なしで他の新人よりも手取りは多かったそうだよ」


「金銭面だけの話なら運送会社に行ってますよね。ミスマッチかな?」


「まぁ、殆どの人は会社に従ってそのまま働いているんだろうな。待遇の話も給料さえ貰えれば気にしない人は気にしないからね。仕事をしている内にその仕事が面白くなる人もいるだろうし」


「その辺りは当事者の意識の問題だから仕方が有りませんね。他に研究で何か行き詰まっている事とかは有りませんか?」


「多くの植物の生体魔法回路を利用出来る様になっただろう?沃土君達と一緒に調査していたんだけど調査する限り全ての植物が変化しているんだよ。聞いてないかい?」


「え~と、全てのと言うのは野生種も全てですか?調査する事は聞いてますけど結果は聞いてません。まだ調査報告書とかも見てませんけど」


「調査報告書はまだ書いている所だからね。途中経過は権藤教授には報告している筈だけど、君に話すのは不味かったかな?……まぁいいか忌避感もないし問題ないだろう」


「途中経過は聞いています。今の所、人との繋がりを拒否する植物がいないって話ですよね。その時は途中経過の話だったので野生種まで全てとは思っていませんでした」


植物の生体魔法回路が利用可能になった件については沃土が中心になって研究を進めていた。

そして野外の野生種の植物を調査した結果、やはり同じ様に変化していた。

植物の魔法についてはそれまでの調査では植物群とか植物種単位で行われていて植物単体では行わないとされていたものが変化していたのだ。

富士の原生林の植物も樹齢二千年とかの屋久杉も調査の結果、みんな変化していた。

それまで植物の中には人と馴染まない植物も何種類かは有ったがそれらの植物も軒並み変化していた。


「そうなんだ。時間さえ掛ければ繋がることが出来て生体魔法回路を調整可能になるんだ。人の選り好みは有る様だけどね。そうなると君の想定していた仮説では全ての植物が生存戦略として人の都合に合わせる様になった事になる。栽培種だけならともかく野生種まで全てとなると変だろう?」


これは私が想定していたのとは状況が異なる様だ。

人の都合に会わせて変化しただけならこの様に全ての植物が変化するのは変だ。

栽培種以外の植物が変化する理由がない。

最初のサボテンに関しては私の想定が合っていた可能性はあるけどそれ以降の植物の変化は異常だ。


「確かに変ですね。そうなると想定し直しですか。でもなんでこうも人に都合が良い様に変化したんでしょう?たまたま植物の都合と人の都合が合地したとか?でもその方がもっと不思議だ」


「不思議だろう?実用上は問題ないけど問題ない事が変なんだ。君も原因を考えておいてよ」


「分かりました。時期に権藤先生からも研究室の皆に指示があると思いますから考えます」


「所で君の遣っている植物に亜空間系統の魔法を使わせる件は如何なっているの?目途は立った?」


「その件は進展有りません。未だにサボテンの鉢を抱えて転移しています」


私がサボテンの鉢を見せると栗原さんも植物の鉢を見せて言った。


「やっぱり?私も君の様に鉢を抱えて転移しているけど何の兆候もないね」


「これは地道に進めるしかないですよ。探す方も色々試していますが反応する植物は見つかっていませんしね」


「繋がれる訳だから何か切欠が有れば出来ると思うんですけどね」


植物は同じ種の植物同士は繋がっている。

繋がっているという事は亜空間を利用していると言う事だ。

でも魔法回路を創って魔法として亜空間を使うのとは別物の様で上手く行っていない。

動物が亜空間系統の魔法を使ったのは魔素生命の創造が最初と思われるが植物に魔素生命はいない。


「この件は地道に進めるしかないね」


「そうですね。何かいい方法はないですかね?転移魔法ではハードルが高いのかもしれません」


「アイテムボックスとかデータボックスを植物に使わせるのかい?植物が必要とするかなぁ?」


「水を撒く時にアイテムボックスから直接出して撒いてみましょうか。そのくらいしか思いつかない」


「それは意外と良い案かもしれない。今迄それは遣っていないな。私も遣ってみるよ」


「そうしましょう。定期的に必要な事だしたいした手間でもない」


「でもそれが面倒だとクレームをつける人がいるんだよ。困ったもんだ」


「困っているのは当人ですから当人が何とかしないと。他人には如何しようもありませんよ」


この日から私は植物への水やりにアイテムボックスを使う事にした。

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