41 魔法の基礎教育
単体で魔法を行使する変わり者の植物を探す件は続行中で成果が徐々に挙がってきた。
栽培種の植物の中に単体で魔法を行使する変わり者のサボテンが発見されたのだ。
今迄はそんな観点で植物を栽培していないのでその特徴が遺伝的なものかその個体特有のものかはまだ確認できてはいない。
少なくともクローン体であればほぼ同じ特徴を受け継ぐことは確認できたのでそれを利用して応用研究は進めていた。
そして応用研究の成果として一般家庭で発電用にサボテンを栽培する事が当たり前の様に普及し始めていた。
発電の仕組みは発電機をサボテンの生体魔法回路に組み込んだ魔法で動かすだけの単純なものだ。
他にもいろいろな方法が考案されて試されたけど現状ではこの方法が技術的に一番信頼性が高く制御が容易な事が確認された。
動力を除いた部分は既存の技術の応用で技術としては成熟していて扱い易く普及も容易だった。
自家発電機の動力部分がサボテンの生体魔法回路に代わるだけだからな。
ただ大規模発電については応用出来ず、産業用としては今迄通りの発電方法で電気を供給していた。
この方法では大型の発電機が稼働できるほどの魔法は発動しなかった。
ここまでの諸々の研究結果については権藤先生に報告済みだ。
「小型発電機は稼働するけど大型は無理みたいだね。まぁ、人の魔法で大型発電機が稼働できないんだから当たり前か。修君、何かいい方法はないかなあ」
「原因はまだ掴めてませんが規模が大きな魔法は発動しないんですよ。この発電方法についてはメーカーの研究者が限界を見極めている所です」
「ん~元々の目的は達成できたから良しとしようか」
「そうですね。元が人の生体魔法回路を利用した発電方法の応用で定置利用が出来ないかと始めた研究ですから目的は達成しています。一般家庭用であれば充分ですね」
「そうだ。植物の生体魔法回路の応用については他にも色々考えてるよね」
「その件は学生達に色々遣らせています。人の使える魔法であれば組込む事自体は可能ですから。ただ魔法を上手く発動させるのが難しいんですよ」
「元々植物が使っている魔法とは違うからね。なるべく単純な魔法から始めないとね。何か発電機みたいに実用化出来そうなものはあるかい?」
「今の所、直ぐに実用化出来そうなのは送風ですかね。上手く調整すれば室内の空気を効率良く入れ替えたり循環させたりできそうです。これは液体にも応用できますね。他は物を空中にフワフワ漂わせるのも店の装飾やクリスマスツリーなんかに使えそうです」
「全て物を動かす魔法の応用だね。発電機と違うのは植物のみで可能な事かな。魔法は同じで調整が複雑になるだけだから可能だろうな。違う魔法は検討していないの?」
「殆どは物を動かす魔法の応用ですね。植物の生体魔法回路に組み込んで発動に成功したのはこの魔法だけですから。他の魔法はまだ研究中です」
「バリアとかゲートが発動出来たら便利そうなんだけどなぁ」
「亜空間系統の魔法は植物が使わないみたいで組み込んでみても反応が無いんですよ。変わり者の植物を探している所ですね。発動すればゲートなんか転移元と転移先に同種の植物を置いておくだけで転移出来そうですよね」
「植物と馴染んでいればね。これだけは植物の生体魔法回路を利用する限りは必須だな」
「使い魔並みに馴染む必要はありませんがペット並には馴染む必要が有りますね。そこまで考えると流通には便利そうだけど人は如何かなぁ。転移に失敗したら人が分断されかねません。安全を考えたら自分で転移した方が良さそうですね」
「既に学士になった連中が企業に採用されて久しいから物流関係は転移魔法も浸透して便利になったろう?人はともかく物さえ送れればそれに加速が付くかな。人件費がだいぶ浮きそうだし末端にも浸透しそうだ」
日本国内では学士であれば転移魔法の仕事での使用に制限はない。
だから運送業者は全国の配置された拠点間の輸送は転移で行いそこから先を配送する様になった。
生き物や生鮮食品はアイテムボックスに収納したり転移したりが出来ないから今まで通りの輸送が必要だけどね。
製造業でも工場間では転移で送るのが当たり前になりつつある。
だけど魔法そのものはある程度鍛錬を積まないと修得出来ないようで一般に普及する事にはなっていない。
「それは良い事ですよね。今なんか引く手数多なのは良いんですが研究者としてものに成りそうな学生まで企業が引き抜こうとするでしょう?それも引き抜かれた学生が研究者になるならまだしも現場で転移作業者では育て涯が有りませんよ」
「その辺りは企業の人達も頭では分かっているんだ。研究者として魔法の研究を続けさせた方が将来的には有利だと。だけど企業間の競争もあって出遅れたら死活問題だから止められないんだな。物流コストが劇的に下がって費用対効果が凄まじいんだ」
学生の引き抜きは収まりそうにないって事か。
配送の人達はアイテムボックスの扱いに熟練しているようだけどゲートの習得は難しいのかな?
「配送の人達はアイテムボックスの扱いに熟練しているから少し鍛錬すればゲートを修得出来そうですけど如何ですか?」
「それで今年から社会人向けの魔法技術習得の専門講座を開設する事になったんだよ」
「あれは制度が変わって学生向けの講座に社会人の受講申し込みが殺到したからですよね。分けないと私の所だけではパンクしてましたよ?」
結局うちの研究室だけでは無理だからと社会人向けの講座は須美さんと隆弘が担当になっていた。
社会人の受講者は真剣さも違うし企業で鍛錬されていて幾分楽みたいだ。
「あぁ、あれは凄かったね。あそこまで殺到するとは正直思っていなかった。以前から企業の要望は有ったけど大学はうちだけではないんだ。もっと分散されると踏んでいたんだ。結果として社会人向けの講座開設となった訳だね。殺到は君の講座の評価が高かったせいだな」
「私の講座と言っても講師は私だけではないし、基本は自衛隊の訓練プログラムだから他の大学でも同じ様な講座は有りますよね。国の方針で自衛官の講師も派遣しているからそんなに変わらないと思うんですけど何故ですか?」
「私もそう考えていた。実際に他の大学の講座と差が現れる程の違いは無いと思う。でも外から見ると君の名が有るだけで大夫違うみたいなんだな。社会人向けは君が担当しないし来年からは少し落ち着くのではないかな」
権藤先生の予想は外れて社会人の受講申し込みは翌年も落ち着く事は無く順調に年々増える事になる。
うちの大学の講師陣は各々の分野で業績を上げていて業界での評価は高いのだ。
「問題は学生の引き抜きなのでその辺りは私には如何でも良い話ですけどね」
「その対策としてうちの大学で検討中なのは魔法学部以外の学部にも転移魔法を開放することだな。魔法を使えるものが増えれば少しは引き抜きも減るだろう。学生達も就職に有利になるから良いんじゃないかな。そのために魔法技術習得の専門講座の単位所得が必須の特別講習を開く事になるけど」
「特別講習ぐらいなら学生向けも社会人向けも魔法学部全体の研究者で行えば大丈夫ですよ。でも魔法技術習得の専門講座で全ての学生を受け入れるのは無理ですよ。今でも中高生が増えて限界ですから。それに魔法学部生の為の講座だから難易度が少し高いのではないかなぁ」
「そうすると一般学生用の講座も開講しないといけないのか。講義内容は取り敢えず同じにしておこう。開講してみないと受講生のレベルは分からないからな」
「それなら自衛官の講師も呼んだ方が良いですよ。開講したばかりの時は慣れるまで大変ですから」
「その辺りは講座の担当者に話しておくよ。うちは手一杯だから他の研究室の者が担当になる筈だ」
「何とかなりそうですね。講義内容が同じなら中高生の受講生が今以上に増えた場合は分ける事も検討してください」
「うん、そうだね。了解した。話は変わるけど魔法の規模の制限については沃土君が研究しているんだけど制限を解除する方法を何か思いつかないかな?」
「沃土から回ってくるレポートを読んだ限りは制限の原因は生物の干渉によるものではない。生物に魔法が効きにくいのとは別の原因が有ると言う事ですね。それで今の所原因は掴めていない訳です」
「そこまでは私もレポートを読んで知っているよ。砂漠だろうが太平洋上だろうが差は無いんだよね」
「でも何かの干渉が有るのは間違いなさそうなのでシェルターの中の異空間なら差が有るのではと考えて沃土には伝えておきました。今は実験中の筈です」
「ああ、違うかもしれないな。実験経過は何か聞いてる?」
「まだ何も聞いてません。仮にこれで大規模な魔法に成功しても利用が難しいです。異空間からは何も出来ませんから。現象が異空間内で閉じている訳ですからね。原因究明のためには役立つかもしれませんが」
「原因が究明できれば制限を解除する方法に繋がるかもしれない。制限を緩和するだけでも有用かな」
「個人的には制限は有った方が良いと思いますよ。魔法だけでテロが可能になったら今頃はシナの覇権争いに巻き込まれていた可能性が無きにしも非ずです。一度考えてみたことが有るんですが見える範囲だけでも空気を一気にアイテムボックスに収納すれば暴風は起きるわ衝撃波が発生するわで大変な事になる。制限が有るから出来ませんけどね」
「制限を解除する方法を探すのはそれらに対処するためでもある。逆に制限を強化する方法も同時に見つかると思うんだよ。それに研究の過程で制限が解除できない事が分かればそれはそれで有用だよ。安心できるからね」
「制限の原因を究明する事には賛成です。魔法は応用は進んだけど理論は確立できていないまま経験則に頼っている感じですからね。物理法則みたいな法則が解明できれば一段と発展するでしょう」
魔法の研究が進むにつれて魔法には何らかの制限が有って大きな変化を与える規模の魔法は使えない事が分かってきた。
例えばアイテムボックスには制限なしに物を収納可能だが水や空気を一気に収納して地球上から無くす様な事は出来ない。
その制限のせいで池の水を一気に全て収納する事すら不可能なのだが量的に少しづつなら全てを収納する事は可能なのだ。
魔法に対しては何か状況変化に抵抗する様な制限が存在する。
ただあくまで魔法に対する制限が有るだけなので科学技術と組み合わせれば大規模な事は可能だ。
物理的な方法には物理法則による制限しかないため魔法を種火にする事は可能で、例えは悪いけど核物質が有れば魔法で核テロは可能だし、ガスタンクを魔法で爆破テロも可能となる。
今の所はこの魔法の制限がどの様な法則の下にあるかは掴めていない。
この制限のため産業用の発電については小規模な発電を行い一旦充電するとか、小規模な発電を多数行って纏めるとか色々な案が出ているけどまだ実用化はされていない。
植物の生体魔法回路を利用して大型発電所並みの電力を供給するとなると今の所は良い方法が無いのだ。
考えるに発電を工夫するよりも電気の使い方を工夫する方が良い気がする。
でもそれだと今のインフラとかはそのままでは使えないんだよな。
発電以外の植物の生体魔法回路の応用については色々な所で研究を進めている。
権藤先生との話にも出た様にうちの研究室でもクリスマスツリーの周りで飾りをフヨフヨ漂わせたり、部屋の空気を循環させたり、水槽の水を循環させたり等色々遣っている。
まだ全然目処が立っていないけどバリアやゲートが発動出来ないかと考えて研究を進めている。
今遣っているのは使い魔に魔法を覚えさせる時に遣る方法で使い魔の様に植物と繋がって覚えて欲しい魔法を使って見せる事を繰り返している。
才能のある使い魔ならこれだけで魔法を覚えて使う様になる。
私の使い魔のミヤも実験で何度も転移させていたらいつの間にか転移を覚えて使う様になった。
植物にもこの経験則が当て嵌まるかどうかは分からないけど他は魔法回路に魔法を組込んで反応するか観察するぐらいしか手は無い。
まぁ、地道に繰り返すさ、繰り返すうちに何かいい案も浮かぶかもしれない。
そんな感じで研究の日々を過ごしていると日本政府の発表が有った。
魔法の基礎教育のレベルを上げる為に検討していた魔法カリキュラムの変更内容が正式決定したのだ。
日本では成体になったら魔法についての基礎教育をしている。
魔素生命からの情報の取り出す方法・魔法回路の作成方法・魔法の行使の方法等について知識を与えて一通り使える様に訓練していた。
これらは履修すれば修了なので魔法の習得については当然ばらつきが出て知識だけあって魔法を殆ど使えない者もいたし自己鍛錬して一通り修得する者もいた。
でどの様な人が多いかと言うと知識があって習った魔法は一通り発動させたら終了としてその先の習熟の為の鍛錬はしない人が六割で半数以上だ。
鍛錬して左右脳の使い分けができる人は二割程度となり、残りの二割は魔法教育を受けない者と受けても身に着けようとしなかった者だ。
このまま放置すると鍛錬する者としない者で差が更に開く事になる。
そこで政府は国民の魔法の技術力の底上げを図って、左右脳の使い分けができる人を六割程度まで引き上げる目標を立てた。
権藤先生はこの件の検討委員に選抜されて検討会議に出ていてここまでは情報を得ていた。
「先生、政府発表の魔法の基礎教育のレベルを上げる件でお話が……」
「君の意見も参考にして検討したから左右脳の使い分けができる人を増やす内容になっているだろう?」
「その件は良いんです。魔法技術習得の専門講座の初級を修了するのと同じぐらいまでの底上げになって、数年も続けばそれが社会的にも当たり前になり魔法が社会に浸透します」
「君の望み通りだね。私もこのままの格差が定着すると魔法が特殊技能みたいになって不味いなと考えていたから上手く行ったと考えている」
うちの大学は教育機関を吸収したり提携したりして学校グループを形成して魔法教育に関してはその閉じた環境の中で上手く回る様にノウハウを蓄積してきた。
学校周辺の住民との関係も重要なので普通に通える範囲であれば受け入れてきたけど行政区域で言えば精々市どまりの範囲で魔法教育を充実させてきた。
充実させてきたと言っても成体になった生徒の四割が左右の脳の使い分けが出来れば大学に進学しても充分に通用するとの目標で遣ってきた。
文系の大学では必要になるとは思えないからそれで充分だったのだ。
それが大学制度の変更で社会人に開放されて、更に今回の国からの教育機関としての選定で全国的に開放されてしまった。
国民の一人としては格差解消のため賛成だけど個人的には大問題だ。
これ以上受講生が増えたら確実にパンクする。
「問題なのは大学がそのための教育機関として選定されている事です。公立中学に自衛官の講師を派遣して教育する話で進めていた筈です」
「その話は途中で変更になった。自衛官の講師では相手が大人中心で子供が混ざるぐらいなら良いけどいくら成体でも子供が中心では特に小学生相手は無理だそうだ。せめて高校生ぐらいからと言っていたな。そのぐらいなら少年工科学校もあるから対処可能だそうだ」
「それは大学でも同じでしょう?元々高校卒業が前提だったしそんなノウハウは有りませんよ?」
「君はうちの大学の系列に幼稚園から高校まであるのを知っているでしょう?それに教職課程もあるし教育大学とも提携している。学校法人としてはノウハウ持っているんだ。それで教育大学に魔法教育学部を新設して教師を養成する事になった。魔法技術習得の専門講座の初級まではそちらの担当になる」
「それは組織上の事でうちの大学が遣る事は変わりませんよね」
「まぁ、そうだね。当面は君達が講師を務めるからね」
「教師は何処が養成するんですか?その話だと私が担当する講座の受講生は増える一方で減る要素が有りません。教育大学には魔法教育の専門家はいないから教師を養成なんてまだできませんよね。当然のことながら初級を担当する教師もまだいません」
「それで君と沃土君には今迄の講座の講師は外れて貰い教育大学で講師として学生の教育と魔法の基礎教育を担当していた教師の再教育をして貰う事になったから宜しくね。自衛官の講師も何人か派遣されるから協力してね」
やっぱりそうだよな。
うちの大学の誰かにその話が回ってくるよな。
「因みに拒否権は有りますか?」
「選択権はあるね。今回の要請を受けるか、今迄と同じ講師を続けて受講生の増大に対処するか。どちらも大変だと思うけど大人だけを相手にする分要請を受けた方が楽だと思うよ」
こうして私は魔法基礎教育の教師を養成する講師として駆り出される事になった。




