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40 魔法の受け継ぎ

更なる繁栄のために植物の生体魔法回路を利用出来ないかと模索中で行き詰まっていた訳だが生体魔法回路に組み込んだ魔法が子孫に受け継がれる事はここ一年の検証で間違いない事が確認された。

まだ動物実験と被験者が1名なので研究は継続中だ。

動物実験ではまだこれと言った不具合は見つかっていない。

人の場合はまだ生体魔法回路に魔法を組込んだ人自体が少ないし、その子供達はまだ幼体なので検証済ではないけど天谷師匠夫妻に確認した限りは大丈夫な筈だ。

生体魔法回路への魔法の組込自体が秘匿技術なので公表されてはいないけど生体魔法回路に組み込んだ魔法が子孫に受け継がれる事が魔法研究者の間で常識となってから修練に励む研究者が明らかに増えた。

そして何故か私の魔法技術習得の専門講座の講義を受けに来る中高生が増えている。


修練に励む人が増えた理由は分かる。

自分が修得して生体魔法回路に組込んだ魔法が子供達に受け継がれるのなら子供達は魔法の習得がグンと楽になる。

子供に少しでも楽をさせたいと思うのは普通の事だ。

子供が生まれた後では遅いけど少なくともこれから生まれる子供達の為にはなるかな。

でも私の講義を受ける中高生が増えているのは何故だろう?


「最近私の講座で講義を受ける中高生が増えているんだけど須美さん何か知ってる?」


須美さんは魔法学部の准教授で主に運動関係の魔法を研究している。

高校の時は同じ学年だったけど高校で話したことはない。

須美さんも高三の時から大学に入り浸っていて知り合いになったのも大学の武道場だった。


「それは魔法に対する要求水準が高くなって受講する中高生が増えたからだな」


「でも講座を開いた数年前からうちの仮所属の学生の質はそんなに変わっていないぞ?」


「受講した全ての中高生が卒業後にうちの大学に通う訳では無いし、君の研究室に入る訳でもないからな」


「それにしても多い気がするけど?成体になったら魔法の基礎教育は受けるだろう?真面目に遣っていれば初級講座は試験を受けるだけで単位が取れる内容だし、出欠は評価しないから講義に出る必要はない筈なんだけど?」


「だから真面目に遣って無かった奴らが受けに来ているんだ。君の講座は評価が高くて単位をとれば研究室に入る時に有利みたいだよ」


「でもそれなら高校を卒業してからでも充分だろう?」


「今は研究室で必須修得教科を決めているだろう?それで昔の受験情報みたいな感じで潰しが利く講座として中高生に紹介されているんだ。君の講座は他の大学でも評価が高いから単位が有ると魔法関係の研究室に入るのに有利な事になっている」


「なんだそんな理由か。でもせっかく教授して使える様にした中高生に他所に行かれるのは釈然としないな。元々うちの学生の底上げのために始めた講座だからな」


「それは大丈夫だよ。君の講座に出席している中高生には声をかけているから殆どがうちの大学に通うようになる」


これを聞いて私は受講生の顔を思い浮かべたけど研究室で受講生の中高生を見た覚えはない。


「うちの研究室に出入りする中高生の顔触れは増えていないけど?」


「だからうちの研究室に出入りする中高生が増えて教授は喜んでいるよ。学生の底上げにはなったし後進を引き込む道筋も出来た」


「別の研究室に流れているのか。じゃあ当初の狙い通りなのかな?学生の底上げにはなっているんだよね」


「そうだよ。御蔭でうちの研究室に入る学生も質が上がっている。実は制度が変わってから不安だったんだよ。他の研究室も同じじゃないかな?うちの大学で単位をとっても学士号は違う大学でも取れるからうちの研究室に入るとは限らないだろう?」


「制度の問題なのか?うちの研究室はあまり変わりない気がするけど?」


「権藤研究室は先頭を走っているから当たり前だ。君と沃土君を引き込んで以来、制度が変わる前から高校生が出入りするのは当たり前だし、中学の時から出入りしている娘もいるじゃないか」


「ああ、確かに制度が変わる前から変わっていないな。でもあの日を境に状況が変わってうちの大学は系列の中高生が大学の講義を受講するのを早々に認めていただろう?国の制度はその実情に合わせて変更しただけだからあまり問題ない気がするけど?」


「暫くは問題ないさ。大学生だった学生は同じ大学に通って同じ大学の研究室に入るだろう。その前提で学生になって大学側も受け入れている。だけどここから先は学生の奪い合いだよ。大学の囲い込みが無くなって、単位さえ取れればどこでも良くなった。地方の中高生なんて都会への憧れが強いから必要な単位だけ中高生の間に取って都会の大学に行こうなんて奴も多いんだ」


須美さんはかなり心配していたけど後で沃土に聞いたらうちの大学は魔法関連では結構名門だからそこまで深刻な話ではないらしい。

中高生が態々うちの大学まで講義を受けに来るのは元々魔法に興味が有るからでうちの大学の情報収集も兼ねているから講義の出席率も高いらしい。

そんな状況で声なんてかけられたら渡りに船だな。


「都会に行きたいのは理解できるかな。中高生の頃は私も考えたことが有る。ただ私はそのまま系列の大学に上がるしかない状況だったからな。あの日まではどうせ受験も無いからと遊んでいたしあの日以降は魔法に夢中でそんな事は考えもしなかったしな」


「私は高校にいても退屈だから君達の真似をして大学に通う事にして空手部の先輩の所に入り浸っていたからそのまま先輩の研究室に通うようになってそのまま研究室に居ついちゃった」


「あれ?確かかなり成績が良かったでしょう?学年でトップだった覚えがある。医学部に進学する話を聞いたけどゴタゴタで行けなかった口かい」


「あの日以降はなんか気が抜けて暫く何も遣る気がしなかったんだよな。『受験なんて楽勝じゃん』とか思えてきてさ」


「私は直ぐに魔法に夢中になって大学はどうせこのまま上がるだけだと深く考えてなかったな」


「あの頃は大学で武道場に入り浸っている内に魔法を使う事が楽しくなって、研究室に出入りして研究する様になって、結局そのまま居ついた感じだな」


「医学部進学の話は?」


「うちの高校は成績が良いと医学部を受験する様な感じだったじゃないか。滑ってもうちの大学に進めば良いし、受かれば学校の宣伝になるから」


「ああ、そうだったな。君の話も沃土から聞いたんだった。沃土にも話が来て叔母さんが凄く乗り気で愚痴を零してたんだ。成績上位者だけ高三から特別授業を受ける話だったかな?結局あの日が来て霧散したんだよな」


「うちも母親も乗り気で暫く五月蠅かったよ。でも仕方ないよな。あの日が来て成績上位者なんてあまり意味が無くなったんだからさ」


「それは沃土も言ってた。隆弘も似たことを言ってたな。成績が良かった奴の親は皆同じじゃないのか?暫くはあの日以前の感覚も残っていたしな」


「まぁ、医者なんて成績が良いだけでなるのはおかしいよな。良かったよ。もしあの日が来なくて医学部に受かっていたら母親が五月蠅かったから医学部進学になってた。臨床医は向いていないから今頃は研究医にでもなっていたかな」


「私は良くて中小企業のサラリーマンかな。親の伝手で就職して働いている気がする。確かにあの日が来て良かったよ。その御蔭で魔法の研究者だ」


「まぁ、人によるだろうな。あの日が来て失脚した政治家や役人は自業自得とはいえ良かったとは思っていないだろう。権威も地に落ちた感じだからな。それに今の中高生にとっては日常だ。成体になったら魔法が使えるのも神様情報も引き出せるのも当たり前」


「そうなんだよ。魔法が使えなかった頃の事は自分も幼体で魔法を使えなかったせいかあまり印象に残っていないみたいだ。私が高校生の頃に魔法の練習を見ていた小学生が高校生になって研究室に出入りしているけどそんな感じだな。私が練習していた簡単な魔法の事だけが鮮明に残っているみたいなんだ。それが切欠でうちの研究室に出入りしているみたいだし」


「そうなんだよな。皆テーマパークなんかで飛ぶのも当たり前で幼体の頃に親の魔法で飛んだ経験がある奴も普通にいるんだ。周りの大人も肉体年齢が三十歳前後で一旦止まるから老人の存在が急速に薄れている。祖父母世代も少しづつ若返ったから記憶もすり替わってしまったみたいだ。年が十も離れていたらもう子供の頃に経験した世界が全然違うんだよな」


昔は国際社会とか言って国の枠組みより優先する公共があたかも存在する前提で話す人が居たもんだが若い奴にそんな事を言う奴はいない。

言うとしても生態系とかの自然の枠組みの話で国際社会とかの人の枠組みの話では無い。

上の世代と下の世代では世界観の違いは既に顕著になっていて私達より下の世代は日本と世界の他の地域を完全に峻別して考えている。

下の世代では優先順位がはっきりしていて日本を己の群れとして優先するのは当たり前の事だ。

人は群れとして纏まるには大きくなり過ぎていたから国としての在り方は昔からその方が正常だったのだ。

まぁ、日本人が国の魔素生命と繋がる事によってそれがより明確になっただけの話だな。


「あと二十年もしたらもっと変わるぞ。生体魔法回路に組み込んだ魔法が子供に受け継がれるから私の子供達の世代は魔法を身に付けるのが容易になる筈だ」


「魔法研究者は皆そう考えて修練に励んでいるだろう?その話が研究者に広まってから私の特別講義に交じる研究者が増えたよ。ただ魔法の修練を積む者と積まない者の子供で差が出来そうなんだよな」


「代を重ねて蓄積が進むほどこの傾向が増すとするとかなりの格差が出来るかもな」


「まだ魔法には秘匿情報が多くて無理だけど何れは日本人全体を底上げしないと不味い気がする。権藤先生にも話しておくかな。沃土がもう話してそうだけど」


日本では一代や二代ではそこまでの差は出ないと思うけど四代先なら修練に励むか励まないかでかなりの差が開きそうだ。

既に日本と海外とではかなりの差が出てきている。


最近は魔法の情報を日本から海外に安易に出す事は禁忌となっていて、日本の魔素生命と繋がっている限り群れに対する反逆ぐらいの忌避感がある。

でも初期にはそこまでの忌避感は無くて転移魔法を友好勢力に教授するぐらいまでは政府が判断して情報を流していた。

だから敵対関係にでもない限りは整形質魔法や飛ぶ魔法については対価次第で情報を渡していた。

特に整形質魔法は見た目で明らかな変化が有るので秘匿できるものではない。

これは充分に戦争を吹っ掛けられる理由になるから全てではないけど色々な勢力の上層部に情報を渡していた。

若返りたくない奴なんてあまりいないだろうし理由なんて後付けで如何とでもなる。

整形質魔法の情報を日本が抱え込んでいたら如何なるか分からなかった。

核テロ未遂もあったしまだ日本一国では対処が難しかった。

今なら如何とでもなるんだがなぁ。


それで渡した魔法の情報をどう使うかは相手任せだったからその後の状況は様々だった。

現状はどうなっているかと言うと。

旧先進諸国は日本よりは遅れ気味だけれど国民全員に整形質魔法を施術する方向で進めている。

世界的な混乱で人口減となっていても加齢で引退する事が無くなって労働人口は一気に増加するから国力は確実に上がる。

肉体能力も向上して兵力も上がるから普及を急ぐ政府は有っても普及を妨げる政府は無かった。

金持ちを優先するとか軍隊を優先するとかはあっても国民への普及を妨げるものはいなかった。

だけど他の地域は事情が違って、全ての魔法を上流階級の特権として国民に教育しない国も多かった。

国力増強より権力強化の方を選択する国も多かったのだ。

混乱初期には治安があまり良くない国も多くてその選択自体が誤りとは言えないけど魔法を教育するかしないかで国力には明らかな差が出る。

当然のことながら国民に魔法教育をしない権力者は整形質魔法の国民への普及なんてしない。

被支配階級が力を持つことは自らの権力が相対的に弱くなる事に繋がるからな。

日本と敵対関係にあるシナにも間接的に情報が流れたけど当然のことながら民に普及なんてしない。

シナでもやはり魔法は一部の権力者の特権となっていた。


日本では整形質魔法の普及を始めて七年となり老人は見かけなくなって久しい。

今では当たり前の光景だけど見た目が三十歳程の大人ばかりになって一時はニュースになっていた。

魔法の発展に伴って治療技術も格段に進歩したので死亡率も減った。

防衛力は格段に向上して自国を守るだけなら何とかなるけど海外に部隊を展開するとなると物資の補給に無理があるから他国と協力しないと不味いなと言ったレベルだ。

だからシナの脅威からは他国と連合して対処している。

全て魔法の技術が進歩した成果だ。


日本の魔法研究者は最近になって生体魔法回路に組み込んだ魔法が子供に受け継がれることを確信した。

それで魔法の修練に励む研究者が増加している。

そうして生体魔法回路に組み込んだ魔法は子々孫々に受け継がれる事になる。

魔法が次代に受け継がれ次代が修練してそれがさらに受け継がれることが繰り返されれば今苦労して身に付けている魔法は未来では使えて当たり前のものになり魔法は更なる発展をして行く筈だ。

子孫の全てが魔法の修練に熱心とは思えないけど何人かが普通に修練を積んで次代に繋げば何れ大成する人も出るだろう。

全ての研究者がそこまで考えてはいないだろうけど研究者は魔法を知っていれば生き延びる可能性が上がる事を知っているのだ。

そして魔法を身に付ける度に実感もしているのだ。

これで仮に日本が戦乱に巻き込まれても家族を守る事が出来る。

そして魔法を子供に受け継がせる事が出来れば子供も生き延びる可能性は高くなる。

こうした研究者の修練により魔法の技術はさらに向上進歩して結果として国力は増す事になる。


日本政府は国民の魔法教育に益々熱心に取り組む様に成り、魔法の基礎教育のレベルを上げる事になった。



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