アノーラ、伯爵になる
本日、王国から伯爵の爵位と領地を授与したいとの打診がありました。
どのような形にするかは当家に任せるということでしたので、まずはお父様が全てをお受けになってはと提案。
すると、お父様は大変な慌てぶりで。
「無理だ! まるで娘の功績を横取りしたようになるではないか! 世間から叩かれる! ホーキンス様のように焼き討ちに遭うのは嫌だ!」
「では、どうしろと?」
「そなたが全てをお受けしてくれ。アノーラ伯爵様、今後は当男爵家も何卒お引き立てのほどを」
「……お父様、社交の場ではいつもそんなへりくだった笑みを……。うぅ、娘として自然と涙が……」
「放っておいてくれ! これが私の生きる道だ!」
頑固にこびりついたお父様の小物精神を剥がすのは無理でした。
ここで、私達が話す部屋にススーとお母様が。
「私は伯爵の母としてアノーラと共に参りますよ」
「くっ、夫より権力者の娘を選んだか! ならば私も伯爵様の腰巾着として共に行く!」
まあつまり、一家揃って新しい屋敷に引っ越すことになりました。まずはその屋敷を建てなければならないのですが。
後日、正式に伯爵となった私は両親を伴って新たな領地、すなわち以前はホーキンス様の所領だった土地にやって来ました。
焼き討ちで焼失した屋敷は片付けられ、すでに綺麗な更地になっています。
「ここにまた屋敷を建てるの? 早くても数か月は掛かりそうね……」
ため息をつくお母様に私は首を横に振って返しました。
「そんなに掛かりませんよ。私も手伝いますし」
「アノーラが? あなた、土木工事をしていたのは知っているけど、大工仕事もできるの?」
「建材の提供ならできます。このように」
私が両手をかざすと、何もなかった更地に巨石がドン! ドーン! と頭を出し、巨木がニョッキ! ニョキ! と急成長しました。
地霊属性は練度が上がるにつれ、あらゆる大地由来の物質に干渉できるようになります。日々の修練と聖女としての魔力のおかげで、私は石から植物に至るまで自在に生やせるようになりました。
おや、お母様が先ほどの生成の衝撃でひっくり返っています。
「すみません、大丈夫ですか?」
「そんな建材が生成できるなら、いくらでもお金は稼げたでしょ……。当家はなぜ貧乏貴族のままだったの……? 石材や木材を売りなさいよ。私、どれだけお肉やお魚を我慢していたと思っているの!」
なんと、私の方は野菜中心の暮らしに満足していましたから、そういう発想は全くありませんでした。かぼちゃでは駄目でしたか?
お母様がお肉やお魚をどれほど食べたかったかくどくどと説かれたのち、今度はお父様が。
「しかし、いくら建材があっても人手がないことには屋敷は建たないぞ」
「その点もご心配には及びません。皆さんが手伝ってくださると」
「皆さん……?」
「あ、ちょうど集まってきました」
私が視線を向けた先から大工さんや石切り職人さんなどが続々と。数にして百人か、二百人ほどはいるでしょうか。声をかけたら王都中から次々に手が上がりました。
最年長の棟梁らしき方が場を仕切ります。
「皆の者! 聖女様のお屋敷だ! 気合入れて一か月で仕上げるぞ!」
「「「おー!」」」
そうして約一か月後、私達が暮らす屋敷がついに完成。家具などもすでに搬入済みですのですぐに住むことができます。
私が夕食(かぼちゃだけでなくお肉やお魚もあります)を作っている間、お父様とお母様は大はしゃぎで屋敷中を見て回っていました。
家族でのディナーの席にて、お母様が涙を流しながらぽつりと。
「……夢のようだわ。嫁いできて十六年、ついに貴族の暮らしが送れるのね……」
そうですね、これまでの私達はほぼ平民でした。
翌日から使用人の皆さんを徐々に呼び戻し、本格的に伯爵家の運営が始まりました。農園は空き領地だった間から私がたまにやって来てお世話をしていましたので、すぐに収穫ができるように。
最初の月から前伯爵家と変わらない収入が得られ、現伯爵家は早くも軌道に乗りました。そして、翌月からは使用人のお給金やいざという時のための貯蓄分を差し引いた、大体収入の半分ほどのお金を王都中の慈善団体に寄付することに。
この決定には両親も同意してくれましたが、お父様がふと疑問を口にしました。
「そなたの力があれば、どんな災害が起こっても農園はすぐに元通りにできる。いざという時などあるのか?」
部屋の窓辺に移動した私は外の景色を眺めながら。
「農園なのですが、地中にたっぷりと地霊さん達を注いでおきました。数か月はたわわに作物が実るはずです」
「なぜそんなことを……?」
「ですので、数か月に一度はきちんと帰ってきますので」
「だから、いったいどういうことだ……?」
「明日から私は旅に出ます。お父様、伯爵代理としてここの運営をお願いしますね」
振り返ってそう告げると、お父様は椅子から崩れ落ちました。
ですから、お父様が伯爵になっては? と最初にご提案したじゃないですか。
さあ、世界中に善意の輪を広げに参りましょう。
と意気込む私にお父様がぼそりと。
「自覚がないかもしれんがな、そなたの善意は相当怖いぞ……」
そうでしょうか、心外ですね。
これで完結となります。
ずいぶんと奇妙な聖女ですみません。
まず、異様なまでのかぼちゃへのこだわり。
そして、心は清らかでもちょっと狭め。
腹黒さも少々あるかもしれません。
完全に無垢な聖女ではざまぁは難しいですよね、やっぱり。
こんな小説でしたが、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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