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伯爵から婚約破棄された令嬢。それでも健気に相手方に尽くした結果、伯爵家を破滅させる。「おや、伯爵様の屋敷が燃えていますね」  作者: 有郷 葉


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アノーラ、婚約破棄される


 はじめまして。私はとある男爵家の長女、アノーラといいます。

 当家は貴族ながらあまり裕福ではなく、私もほぼ平民のように育てられました。周囲にはこれを気の毒と言う方々もいますが、私はそう思ったことはありません。いつでも自由に町に行くことができ、町の皆さんと同じ物を食べたりできるのですから。

 こんな暮らしを送っているうちに私は平民令嬢と呼ばれるように。我ながらピッタリの呼称だと思います。


 なお、当家には古くより受け継がれてきた大切な家訓が。身分に関係なく誰に対しても善意を持って接しなさい、というものです。ご先祖様の何人かはこの家訓のせいで家が傾くほどに財産を失ったそうですが、私は素敵な教えだと思っています。当家が財産を失った分、救われた人々がいるに違いありません。

 このように考え、私も幼少から家訓を胸に抱いて生きてきました。


 すると十歳のある日、とても不思議な夢を見ることに。光の塊が私の目の前に現れてこう告げたのです。


「心清き乙女よ、あなたに特別な力を授けます。今後、他者に善意を施す度にあなたの魔力は高まるでしょう」


 この話を神官の方にしたところ、どうも天の啓示というものらしく、私は聖女になったそうです。


 ですが、私は魔力や魔法とは無縁の生活を送っています。せっかくなので、精霊魔法を勉強してみることにしました。

 どの属性がいいか頭を悩ませていてふと閃きました。当家には小さな農園がありますので、そこで役立つかもしれない地霊魔法にしましょう。


 借りてきた本を参考に修練すること一か月、少しだけ地霊さん達と仲良くなれた気が。

 農園に出て地霊さん達に、作物を元気にしてください、とお願いしてみました。すると、途端に周囲に植えられた作物が活き活きと。

 どうやら地霊さん達に働きかけて植物を元気にしてもらう程度のことなら、特別な魔法は必要ないようです。これはよい力が身につきました。早速、いつもお世話になっている農家さんの畑も元気にさせにいきましょう。


 いくつかの畑を回っているうちに、奇妙な事態に気付きました。最初は私の周辺の作物に活力を与えるので精一杯だったのに、いつの間にか畑一面を一気に終えられるようになっています。

 知らない間に他者に善意を施していたらしく、これが魔力が高まるということみたいです。


 また、地霊さん達に働きかけなくても、皆さんの困り事のお手伝いをするなど、私はいつも通り生活しているだけで魔力が高まることが分かりました。つまり、私は日常的に高まる状況に。

 ただ高まっているだけなのももったいないので、地域全体の農園を元気にさせにいくことにしました。


 そのような活動を続け、十二歳になった頃には私は農聖女と呼ばれるように。当家は変わらずに底辺貴族ですが、皆さんがお礼にと色々とくださるので暮らしていく上で困ることはありません。

 ちなみに、私は地霊魔法の修練も毎日欠かさず続けていました。これによって、簡単な土木工事なら特別な魔法は必要とせずに行えるように。地域の皆さんもとても喜んでくれています。


 そうして十四歳になったある日、私は家の農園で年配の紳士さんと出会いました。


「突然訪問してすみません。あなたが聖女アノーラ様ですね。ぜひあなたがお育てになった作物を拝見したくて訪ねて参りました」

「そうですか、ここにある物は全てそうですよ。どうぞご覧になってください」


 紳士さんは身なりがよく、当家より位の高い貴族の方かもしれないと思いました。当家より下の身分の貴族はそういません。

 確か紳士さんは作物を見にきたはずですが、なぜか私についての質問ばかりをしてきます。


「アノーラ様、それほどのお力があれば今よりもっとよい暮らしができるのでは?」

「お言葉ですが、私は充分によい暮らしをしています。家族が普通に生活を送れて、地域の皆さんのお役にも立てているのですから」

「欲がないのですね。だからこそ聖女と呼ばれておいでなのでしょう。またお邪魔しても?」

「いつでもどうぞ。せっかくですので、お土産を差し上げましょう」


 と私は自慢のかぼちゃを一つ収穫し、紳士さんに手渡しました。彼はその重さに若干よろよろと。大きさも通常の倍以上ある自慢のかぼちゃです。


「こ、これは、大変立派ですな……」

「大きいだけではなく、ほくほくで甘くてとても美味しいですよ。自慢のかぼちゃです」

「……アノーラ様、人からおっとりしていると言われませんか?」

「はい、よく言われます」


 この日以降、紳士さんは頻繁に当家の農園にやって来るようになりました。特に何をするでもなく、ただ私とお喋りをして帰っていきます。きっと仕事の合間に息抜きにでも来ているのでしょう。いつも育てた野菜達を褒めてくれるので、私もお話ししていて楽しい気分になります。よいお友達ができました。


 それからしばらくして、当家に前代未聞の知らせがもたらされることに。


 屋敷の自室にておっとり、ではなくゆっくりしている私の所に、お父様が慌てた様子で駆けこんできました。


「大変だ、アノーラ! 伯爵家のホーキンス様がそなたに婚約を申しこんできた!」


 伯爵家といえば当家より遥かに格上の貴族です。そんな雲の上のお家がなぜ私に?

 聞けばホーキンス様は最近若くして当主の座を引き継いだ方だそうで、まだ二十一歳とのことです。それでも私とは大分年が離れていますし、この私に伯爵家当主の妻が務まるとも思えません。


「お父様、私は農業しか取り柄のない平民令嬢です。そのお話はお断りください」

「うむ、私もアノーラには無理だと思う。が、断れん……。家の格が違いすぎてとても断れん……」


 お父様は貧乏男爵家の当主だけに小物精神がしみついています。


「もういいです。自分で直接お断りしてきます」

「く、くれぐれも失礼のないようにな!」


 失礼のないように……? 手ぶらでお断りするのも失礼ですね。そうです、お詫びに自慢のかぼちゃを持っていきましょう。


 こうして私はかぼちゃを手に伯爵家へ。

 幸いにもホーキンス様はすぐに会ってくださることになりました。

 当家より数倍広い屋敷のエントランスで待っていると、それらしき男性が一人の女性を伴って現れました。彼はまず私を足の先から頭の天辺までじっと観察。


「あなたがアノーラ様ですか。なぜかぼちゃを持って……。ともかく、突然婚約を申しこんだこと、驚かれたでしょう。そしてまた突然で申し訳ありませんが、婚約の申しこみを取り下げさせてください」


 おや、手間が省けました。では、用事も済みましたし、かぼちゃを差し上げて帰りましょう。

 と思っていると、ホーキンス様はため息をつきつつ言葉を続けます。


「実は、あの婚約の申しこみは侯爵である伯父上に強引に迫られる形で出したものになります……。まったく、伯父上にも困ったものです。どうして伯爵である私がこんな底辺貴族の令嬢と結婚しなければならないのか。ああ、アノーラ様、申し訳ありませんが、今回の破談はあなたがあまりに貴族の教養を身に付けていなかったため仕方なく、ということにさせてください。代わりにそれなりの迷惑料をお支払いしますので、構わないですよね?」


 彼の話に呼応するように隣の女性が笑い声を。


「かぼちゃなんて持ってきていますし、教養がないのは本当のことですよ。申しおくれました、私はとある子爵家の次女です。ホーキンス様とは将来を誓い合った関係ですの。ふふ、あなたはお呼びでなかったということです、かぼちゃ令嬢様。さすがに少し気の毒ですし、この方を伯爵家の農園ででも雇ってあげたらどうですか、ホーキンス様。あはははは」


 これに対して、私もまず笑顔で応えました。


「それでは、お言葉に甘えてもよろしいでしょうか。ぜひ私をこちらの農園で働かせてください」


 私がそう申し出ると、楽しげに笑い合っていたホーキンス様と子爵令嬢さんは信じられないものでも見るような目でこちらに視線を。


 すぐにおいとまするつもりでしたが、そうもいかなくなりました。

 このお二人は大変な性悪です。放置して帰れば間違いなく周囲によくない影響を及ぼすでしょうし、何よりお二人自身のためにもなりません。

 たとえお節介と言われようとも、私が正してあげなければ。


 ふむ、魔力が高まってきているのを感じます。やはりこれは善意の施し。

 ホーキンス様、子爵令嬢さん、今しばらくのご辛抱です。必ず私が救って差し上げますからね。


 そう決意を固めているとお二人はブルッと体を震えさせました。


「……今、何だか寒気が」

「私もです。とても嫌な予感が……」






今夜、後半を投稿します。

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