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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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87話 商人たちの初陣

ヴァレリア商会支店が開設されて三か月。


村は今日も活気に満ちていた。


農業革命によって生産された穀物が倉庫に積み上がる。


紡織産業によって作られた布が各地へ出荷される。


鍛冶工房では武具が生産される。


薬師たちは新薬を研究する。


そして。


人もまた育っていた。


かつて貧困村だった土地。


盗賊と病に怯えていた村。


今では人口七万五千を超える巨大都市へ成長している。


その中心にあるのが教育だった。


環境が人を育てる。


ケルナインが示した思想。


それは今や村人だけではなく、ヴァレリア商会にも浸透していた。


その日。


ヴァレリア商会支店は朝から騒然としていた。


「う、浮いた!」


若い商会員が叫ぶ。


身体が地面から浮き上がっていた。


レビテーション。


空中浮揚。


周囲が驚く。


さらに別の場所。


木箱が勝手に持ち上がる。


テレキネシス。


念動力。


荷物が空中を移動していく。


さらに。


『聞こえるか?』


『聞こえます!』


口を動かしていない。


テレパシー。


念話能力だった。


一人ではない。


二人でもない。


三百人を超える出向組の多くが超能力へ覚醒していた。


レビテーション。


テレキネシス。


テレパシー。


基礎能力。


しかし効果は凄まじい。


物流。


連絡。


索敵。


商売。


全てを変えてしまう能力だった。


商会員達は興奮していた。


そんな中。


最も驚いていたのはマーガレットだった。


会頭室。


机の上に帳簿が置かれている。


マーガレットは何気なくそれへ意識を向けた。


次の瞬間。


帳簿が消えた。


「え?」


本人が固まる。


周囲も固まる。


帳簿が無い。


盗まれた訳ではない。


感覚だけが残っている。


頭の奥。


広大な空間。


そこに帳簿が存在している。


マーガレットは息を呑んだ。


「まさか……」


意識を向ける。


帳簿が再び現れた。


支店中が騒然となる。


鑑定結果。


【アイテムボックス】


覚醒。


マーガレットは椅子から立ち上がった。


昔。


トミーへ頼み込んだことがある。


マジックバッグを売ってほしい。


いくら払ってもいい。


譲ってほしい。


商人なら誰もが欲しがる能力だった。


物流の革命。


輸送の革命。


保管の革命。


その力が。


今。


自分自身に宿っている。


「信じられない……」


思わず笑みがこぼれた。


さらに覚醒は続く。


鍛冶職人。


革職人。


紡織職人。


建築職人。


薬師。


料理人。


専門家達。


それぞれが新たなスキルを獲得していた。


【魔道具作成】


【高級鍛冶】


【高級調薬】


【紡織師】


【建築士】


【加工師】


次々と覚醒する。


かつて王都でしか見られなかった高位スキル。


それが当たり前のように生まれていた。


職人達は興奮していた。


「俺が魔道具職人だと?」


「夢じゃないのか……」


「本当に覚醒した……」


才能が無かったのではない。


教える者がいなかった。


その事実を全員が理解していた。


昼。


支店前広場。


エミリーが立っていた。


狼獣人。


戦闘部隊を率いる将。


その前には出向組三百名。


全員が緊張していた。


今日は初めての実戦訓練だった。


「出発する」


短い言葉。


商会員達の顔が強張る。


当然だった。


彼らは商人だ。


戦士ではない。


帳簿を扱う。


商談をする。


商品を運ぶ。


それが仕事だった。


魔物と戦うなど本来の職務ではない。


しかし。


この村では違う。


自分の身は自分で守る。


それが常識だった。


森へ入る。


索敵部隊が先行する。


風属性。


光属性。


超能力。


索敵網が展開される。


やがて。


ミシェルが報告した。


「前方二百メートル」


「ホーンラビット二十七」


「フォレストウルフ八」


「危険性なし」


即座に情報共有される。


テレパシー。


瞬時に全員へ伝わる。


商会員達が驚く。


王国軍より優秀だ。


伝令がいらない。


指揮系統が崩れない。


エミリーが頷く。


「マーガレット」


「はい」


「最初をやれ」


緊張が走る。


全員が見る。


マーガレットは深呼吸した。


怖い。


正直怖い。


死ぬかもしれない。


しかし。


会頭が逃げれば全員が逃げる。


だから前へ出る。


水属性魔法。


魔力操作。


魔力循環。


授業で何百回も繰り返した基礎。


魔力が形を作る。


透明な水球。


マスク魔法。


ホーンラビットの顔を覆う。


魔物が暴れる。


跳ねる。


足掻く。


しかし。


数十秒後。


動かなくなった。


絶命。


傷一つない。


血も流れていない。


皮も。


肉も。


骨も。


完全な状態。


商人達が驚く。


「素材が無傷だ……」


「凄い……」


「価値が落ちてない……」


エミリーが言う。


「収納しろ」


マーガレットが頷く。


アイテムボックス。


収納。


瞬間。


ホーンラビットの死体が消えた。


どよめきが起こる。


「早い!」


「荷車いらない!」


「凄ぇ!」


マーガレット自身が驚いていた。


収納空間の中。


完全な状態で保存されている。


腐敗しない。


劣化しない。


重さもない。


商人として理解できた。


この能力は戦闘能力ではない。


物流革命だ。


利益革命だ。


商売そのものを変える力だ。


「なるほど……」


マーガレットは笑う。


「商人向けね」


エミリーも笑った。


「そうだ」


「戦士は倒す」


「商人は売る」


「同じ狩りでも目的が違う」


商会員達が納得する。


そして。


実戦が始まった。


ホーンラビット。


フォレストウルフ。


ロックボア。


次々と狩る。


テレパシーで連携。


テレキネシスで拘束。


マスク魔法で討伐。


即収納。


素材損傷ゼロ。


最初は震えていた商人達も変わっていく。


恐怖が薄れる。


経験になる。


成功体験になる。


教育とは知識だけではない。


経験もまた教育だった。


夕方。


帰還。


全員無傷。


討伐数百。


収納された素材は山のような価値を持っていた。


商会員達の顔は明るかった。


朝とは別人だった。


自信がある。


成功した。


自分達にもできた。


その実感があった。


夜。


支店会議室。


マーガレットは報告書を見る。


討伐成果。


素材価値。


輸送コスト。


利益予測。


全てが異常だった。


従来の数倍。


いや十倍以上。


アイテムボックスとマスク魔法の相性が良すぎる。


そこで彼女は確信した。


この村は人材を育てる。


農民も。


商人も。


職人も。


教師も。


戦士も。


全員を育てる。


環境が人を育てる。


それは理想論ではなかった。


現実だった。


マーガレットは立ち上がる。


幹部達を見る。


「決めたわ」


全員が注目する。


「出向組だけじゃ足りない」


「ヴァレリア商会の全従業員を順番にここへ送る」


静寂。


そして。


全員が頷いた。


反対者は一人もいない。


今日見た。


今日体験した。


だから理解できる。


ここは学校だ。


世界最高の学校だ。


「賛成です」


「異論ありません」


「全員教育しましょう」


「商会そのものを強化できます」


満場一致だった。


マーガレットは窓の外を見る。


夜でも勉強する人々。


教える人々。


訓練する人々。


働く人々。


成長をやめない人々。


そして小さく笑った。


「本当にとんでもない場所ね」


かつて貧困村だった土地は。


今や世界最高峰の人材育成都市へ変貌していた。


そして。


ヴァレリア商会もまた。


その環境によって、さらに大きく成長しようとしていた。







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