74話 受け継がれる力
朝日が都市を照らしていた。
かつて貧困村と呼ばれた土地は、今や王国でも類を見ない巨大都市へと変貌している。
人口一万七千人超。
食料充足率二五〇%超。
教師八千人以上。
教導スキル保持者千人以上。
孤児院百軒。
学校数百棟。
紡織産業は王国有数。
農業革命は完全に定着。
そして。
今日、新たな発表が行われた。
都市中央広場。
数万人が集まっている。
演台に立ったのはロバートだった。
将軍スキル保持者。
二千人規模となった戦闘部隊の総責任者である。
「発表する!」
魔族特有の低く響く声が広場へ響く。
「本日より戦闘部隊を二千名へ増員する!」
歓声が上がる。
さらに続く。
「索敵部隊も二千名へ拡充!」
再び歓声。
都市は拡大を続けていた。
ジョンウン王国からの亡命者は今も増えている。
治安維持。
国境監視。
難民保護。
全てに対応する必要があった。
戦争のためではない。
人を守るための拡充だった。
ロバートが拳を掲げる。
「我々は誰かを支配するために強くなるのではない!」
「守るために強くなる!」
歓声が広場を揺らした。
その頃。
中央学院。
教師養成棟。
マイケルは一人で訓練を続けていた。
額から汗が流れる。
目の前には大量の教材。
教育理論。
魔法理論。
治療理論。
超能力理論。
指導理論。
数年間。
休むことなく学び続けた。
かつて泣き虫だった少年。
失敗ばかりだった少年。
誰よりも弱かった少年。
その彼が今。
都市最大の教師になろうとしている。
静かな教室。
マイケルは目を閉じた。
体内で魔力が循環する。
魔力操作。
魔力循環。
何千回。
何万回。
繰り返してきた訓練。
魔力の流れが自然になる。
呼吸のように。
心臓の鼓動のように。
そして。
何かが弾けた。
視界が変わる。
世界が変わる。
情報が流れ込む。
「これは……」
目の前の机を見る。
瞬間。
情報が浮かび上がった。
材質。
製作者。
製造年代。
強度。
価値。
全て見える。
マイケルが目を見開く。
「鑑定……」
覚醒した。
ケルナインと同じ能力。
鑑定。
教師として最強の能力。
才能を見る力。
可能性を見る力。
人材を見つける力。
その時だった。
さらに体内の魔力が変化する。
空間が揺れる。
目の前に小さな裂け目が生まれた。
マイケルは理解した。
「アイテムボックス……」
二つ目だった。
教育資材。
薬品。
教材。
食料。
全てを運搬できる。
教師として理想的な能力。
さらに。
まだ終わらない。
体から光が溢れる。
教室全体を包む。
教導スキル。
その力が膨れ上がる。
レベル1。
レベル2。
レベル3。
レベル4。
そして。
レベル5へ到達した。
教室全体が震えた。
知識。
経験。
教育理論。
全てが統合される。
一人を育てる力。
百人を育てる力。
千人を育てる力。
万を育てる力。
教導スキルレベル5。
都市史上初だった。
マイケルは静かに座り込む。
涙がこぼれた。
思い出す。
昔の自分。
弱かった。
情けなかった。
泣いていた。
何もできなかった。
そんな自分を救ってくれた人がいる。
ケルナイン。
旅人。
英雄ではない。
指導者。
人を育てる男。
マイケルは拳を握った。
「先生……」
その声は小さかった。
だが確かな決意があった。
その日の夕方。
都市中央会議室。
幹部会議が開かれていた。
セリナ。
エミリー。
ロバート。
トミー。
ソフィア。
カタリナ。
ガイル。
エレノア侯爵。
リーン。
ミシェル。
そしてマイケル。
主要人物が集まっている。
トミーが最初に口を開く。
「聞いたぜ」
「鑑定覚醒したんだって?」
マイケルが照れる。
「はい」
「運が良かっただけです」
即座に否定された。
「違う」
言ったのはガイルだった。
ドワーフ戦士が腕を組む。
「努力だ」
「運でレベル5になるか」
ソフィアも頷く。
「毎日見てた」
「誰より勉強してた」
カタリナも笑う。
「戦士より訓練してたな」
会議室が和やかになる。
エレノア侯爵が微笑む。
「素晴らしいことです」
「人材が育った」
「それこそが都市の勝利です」
その言葉に全員が頷く。
人材。
それが国家。
それがケルナインの理念だった。
セリナが資料を広げる。
現在の都市状況。
人口一万七千人。
戦闘部隊二千人。
索敵部隊二千人。
教師八千人超。
教導スキル保持者千人超。
数字が並ぶ。
だが。
ケルナインは数字を見ない。
人を見る。
だから都市は育つ。
その時。
扉が開いた。
ケルナインだった。
全員が立ち上がる。
だが彼は手を振る。
「続けてくれ」
いつも通りだった。
自分が中心になろうとしない。
椅子に座る。
会議は続く。
セリナが報告する。
「ジョンウン王国からの亡命者は継続中」
「風魔法放送の効果が出ています」
トミーが続く。
「商人も流れてきてる」
「職人もだ」
「教師も増えた」
エレノア侯爵が言う。
「国家は人材で成り立つ」
「向こうは崩壊が進むでしょう」
ケルナインは静かに聞いていた。
命令はしない。
指示もしない。
育った人材が考える。
育った人材が決める。
それが理想だった。
会議終了後。
マイケルは呼び止められた。
ケルナインだった。
二人きりになる。
少し沈黙。
そして。
ケルナインが言う。
「鑑定か」
マイケルが頷く。
「はい」
「覚醒しました」
ケルナインは少し笑った。
珍しいことだった。
「よく頑張ったな」
その一言だった。
だが。
マイケルの目から涙が溢れた。
何年も。
何年も。
追い続けた背中。
その人に認められた。
それだけで十分だった。
「ありがとうございます」
ケルナインは立ち上がる。
「これから忙しくなる」
「教師を育てろ」
「俺より上手くなれ」
そう言って歩き出した。
マイケルは背中を見る。
遠い。
まだ遠い。
だが。
追いかけることはできる。
そしていつか。
自分も誰かを育てる。
救われた人間が。
誰かを救う。
それがこの都市だった。
環境が人を育てる。
教育が才能を開花させる。
人材こそ国家。
その理念は今日も広がっていく。
風魔法放送が空へ響く。
学校では教師が教える。
孤児院では子供が学ぶ。
農地では豊かな作物が育つ。
工房では職人が技を磨く。
都市は成長を続ける。
誰か一人の力ではない。
育った人々の力だった。
そしてマイケルは新たな一歩を踏み出す。
教師として。
治癒師として。
教導者として。
未来を育てる者として。




