239話 新生冒険者
世界は再び動き始めていた。
かつて。
冒険者とは生きるための職業だった。
貧困。
病。
飢餓。
魔物。
盗賊。
奴隷商。
人々は命を繋ぐために剣を握った。
食うために戦った。
守るために戦った。
生き残るために戦った。
だが今は違う。
全世界人口百七十億人。
全世界食料充足率百三十%。
識字率百%。
魔法覚醒率百%。
教導スキル覚醒者百七十億人。
教師百七十億人。
農業革命は世界を変えた。
紡織産業は世界を豊かにした。
貧困村だったアルナ村から始まった変革は、今や世界の常識となっていた。
飢える者はいない。
学べない者はいない。
病に苦しむ者も激減した。
魔力操作。
魔力循環。
魔力吸収。
それらの教育が普及した結果、人類はかつてない繁栄を手にしていた。
だからこそ。
若者達は新たな問いを抱いた。
何を目指すのか。
何のために努力するのか。
その答えが。
新生冒険者制度だった。
◇
アルカディア連邦中央広場。
巨大な掲示板の前に数万人の若者が集まっていた。
新生冒険者登録所。
その文字が輝いている。
「おい見ろ!」
「第一期募集だ!」
「全世界共通資格だぞ!」
「行くしかねぇ!」
歓声が響く。
かつての冒険者ギルドとは違う。
依頼を受けるだけの組織ではない。
教育機関。
研究機関。
開拓機関。
防衛機関。
全てを兼ね備えた巨大組織だった。
セリナが説明する。
「目的は討伐ではありません。」
「成長です。」
「学習です。」
「発見です。」
「開拓です。」
「人材育成です。」
会場が静まる。
続けて映像が映し出される。
魔物生息地。
異界開拓地。
海底都市。
竜族領。
魔王国領。
悪魔領。
未踏破地域。
果てしない世界が広がっていた。
土地は無限に近い。
未知も無限に近い。
研究対象も無限に近い。
若者達の目が輝く。
◇
最初に飛び出したのは戦士達だった。
ソフィアが率いる戦闘教導隊。
巨大演習場。
数千人の若者が集まる。
「強くなりたい者は前へ出ろ。」
数千人が一歩前へ出た。
ソフィアは笑った。
「いい目をしている。」
「なら教えてやる。」
「強さとは何かを。」
訓練が始まる。
身体強化。
筋肉強化。
魔力循環。
魔力操作。
剣術。
槍術。
格闘術。
防御技術。
連携技術。
若者達は驚愕した。
才能ではない。
努力だった。
積み重ねだった。
環境だった。
教導だった。
ソフィアは言う。
「天才なんて少数だ。」
「大半は鍛えた結果だ。」
「強くなりたいなら努力しろ。」
若者達の目が変わる。
◇
次に増えたのは魔法研究者だった。
アリア研究所。
世界最大の研究施設。
若者達が押し寄せる。
「水魔法をもっと効率化できないか?」
「重力魔法と風魔法を組み合わせたら?」
「雷属性の新技術は?」
「転移魔法の距離限界は?」
研究が始まる。
止まらない。
かつては教師不足だった。
今は違う。
教師が百七十億人いる。
だから若者は挑戦できる。
失敗できる。
学べる。
アリアは満足そうに微笑んだ。
「ようやくですね。」
「知識が知識を呼び始めた。」
世界図書館。
全知識保存計画。
識字率百%。
その成果が現れ始めていた。
◇
マイケルの元には治癒師志望が殺到した。
「人を助けたい。」
「治したい。」
「命を守りたい。」
若者達が集まる。
ヒーリング。
浄化。
治療。
診断。
薬学。
予防医学。
公衆衛生。
病を防ぐ知識。
かつて人類を苦しめた病。
それを忘れないための教育。
マイケルは言う。
「治すだけでは足りない。」
「病にならない社会を作る。」
若者達は真剣に学ぶ。
それもまた冒険だった。
◇
そして。
意外な人気を集めたのは農業だった。
農業革命の英雄達。
リーン。
ガイル。
グラン。
バルド。
ベルン。
彼らの講義は常に満席だった。
「農業?」
「地味じゃないか?」
そう言われた時代もあった。
今は違う。
食料を生み出す者が世界を支える。
その事実を全員が理解していた。
新品種開発。
土壌改良。
魔法農法。
気候制御。
巨大温室。
若者達は夢中になった。
食料生産もまた冒険だった。
◇
紡織産業も同じだった。
リーザ。
リーブ。
リーゼ。
三人の工房には長蛇の列ができていた。
糸。
布。
服。
防具。
魔法繊維。
新素材。
研究は尽きない。
「まだ軽くできる。」
「まだ丈夫にできる。」
「もっと暖かく。」
「もっと美しく。」
職人達が目を輝かせる。
若者達も負けていない。
新しい発想。
新しい技術。
新しい挑戦。
環境が人を育てる。
その言葉を証明するように。
才能が次々と花開いていた。
◇
そして。
最も人気を集めたのは。
異界探索だった。
魔王国領。
悪魔領。
竜族領。
未開発大陸。
未知の森。
未知の海。
未知の山脈。
若者達は旅立つ。
討伐だけが目的ではない。
発見。
交流。
研究。
開拓。
学習。
成長。
それら全てが目的だった。
ロバートは遠くを見ながら笑った。
「面白い時代になったな。」
エミリーも頷く。
「強制されているわけじゃない。」
「自分から挑戦している。」
セリナは静かに資料を閉じた。
数字が並ぶ。
新生冒険者登録数。
一億。
二億。
三億。
増え続ける。
止まらない。
若者達は答えを見つけ始めていた。
生きる意味。
努力する意味。
成長する意味。
誰かに与えられるものではない。
自分で見つけるもの。
そのための環境は整った。
貧困村から始まった小さな改革。
農業革命。
紡織産業。
教育革命。
魔法革命。
そして今。
冒険者革命が始まろうとしていた。
世界は再び前へ進む。
百七十億人の人類と共に。
より強く。
より賢く。
より豊かに。
新たな時代の冒険者達が、その先頭を歩いていた。




