232話 包む文化(前編)
異界歴七年。
人口五十億人。
食料充足率百三十パーセント。
農業革命は成熟期へ到達していた。
小麦。
大豆。
野菜。
果実。
香辛料。
家畜。
魚介。
それらはもはや不足する資源ではない。
教育を受けた農民。
教導スキルを持つ教師。
魔力操作。
魔力循環。
そして各地に広がった生産技術。
かつて貧困村で飢えに苦しんだ人々は、今では世界最大級の食料生産文明を築いていた。
しかし人々は満足しない。
豊かになれば新しい工夫が生まれる。
新しい料理が生まれる。
新しい文化が生まれる。
その中心となったのは、小麦だった。
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異界中央調理研究都市。
巨大な料理研究施設。
そこには料理人。
農業教師。
発酵職人。
製粉職人。
無数の人材が集まっている。
研究テーマは単純だった。
「もっと持ち運びやすく。」
「もっと保存しやすく。」
「もっと美味しく。」
その答えを最初に見つけたのは若い料理人だった。
彼は麺を作っていた。
パスタ。
うどん。
ラーメン。
どれも成功した。
しかしある日。
彼は余った生地を眺めながら呟く。
「包めばいいのでは?」
それが始まりだった。
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最初に作られたのは肉餅だった。
小麦粉。
挽肉。
香辛料。
野菜。
全てを混ぜる。
生地で包む。
焼く。
鉄板でじっくり火を通す。
香ばしい香り。
肉汁。
外はカリッと。
中はジューシー。
試食会。
職人たちは目を丸くした。
「美味い。」
「食べやすい。」
「持ち運びも楽だ。」
「保存性も高い。」
瞬く間に広まった。
市場で売られる。
学校で出される。
旅人が携帯する。
兵士も持ち歩く。
肉餅文化が誕生した。
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しかし料理人たちは止まらなかった。
焼くだけではない。
蒸す方法も研究される。
発酵技術。
酵母。
パン文化。
それらを応用する。
ふわふわの生地。
柔らかい皮。
そこへ挽肉を包む。
巨大蒸し器。
蒸気魔法。
水属性魔法。
職人たちは改良を続けた。
そして完成する。
饅頭。
肉まん。
豚まんに近い料理だった。
最初の試食会。
エルナは静かに一口食べる。
柔らかい。
温かい。
優しい味。
病人でも食べられる。
老人でも食べられる。
子供も喜ぶ。
治療院は即採用した。
学校給食も採用した。
異界中へ広がる。
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やがて具材は多様化していく。
オーク肉。
ボア肉。
魚介。
野菜。
発酵食品。
チーズ。
様々な組み合わせが誕生する。
最初に人気になったのはオークまんだった。
オーク肉。
醤油。
大蒜。
胡椒。
少量の味醂。
それらを混ぜる。
生地で包む。
蒸す。
完成。
酒場街で爆発的な人気を獲得した。
職人たちは昼食に食べる。
農民たちは畑へ持っていく。
市場では長蛇の列ができる。
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続いてボアまん。
脂の甘みが特徴だった。
チーズとの相性も良い。
若者たちは夢中になった。
「ボアまん最高!」
「いやオークまんだろ!」
市場では論争まで起きる。
しかし誰も怒らない。
平和な論争だった。
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海洋都市ではさらに別の進化が起きる。
魚介まん。
海老。
貝。
魚肉。
海洋連盟の料理人たちが研究した。
魚醤。
香草。
胡椒。
組み合わせる。
蒸す。
完成した魚介まんは大ヒットした。
港町では朝食の定番になる。
漁師たちも絶賛した。
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さらに海底都市ネプトリア。
そこで研究されたのがクラーケンまんだった。
巨大クラーケン。
その柔らかな足肉。
旨味が強い。
食感も良い。
料理人たちは歓喜した。
細かく刻む。
挽肉状にする。
香辛料を加える。
包む。
蒸す。
完成。
予想以上の人気だった。
「これは美味い。」
「海鮮より好きかもしれない。」
観光客まで押し寄せる。
ネプトリア名物になった。
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やがて異界の人々は気付き始める。
包む。
それだけで料理の可能性が無限に広がることに。
肉を包む。
魚を包む。
野菜を包む。
発酵食品を包む。
保存しやすい。
運びやすい。
食べやすい。
文明向きだった。
そして。
さらに大きな革命が静かに始まっていた。
ある料理人が肉餅を見ながら呟いた。
「もっと小さくしたらどうだろう。」
その発想が。
後に異界全土を巻き込む。
餃子革命の始まりとなる。




