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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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229.6話 異界へ集う者たち(後編)

異界歴三年。


人口は十億人を突破していた。


人間。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


ダークエルフ。


魔族。


悪魔族。


海洋種族。


そして新たな来訪者たち。


異界はもはや一つの国家ではなかった。


一つの文明圏だった。


農業革命によって食料は余る。


紡織産業によって衣服は行き渡る。


医療革命によって病は大幅に減少する。


教育革命によって誰もが学ぶ。


そして酒造革命によって人々は笑う。


そんな世界へ、さらに新たな種族が流入し始めていた。


ドラゴン。


長寿種。


強大な魔力を持つ種族。


かつては山脈の王者。


空の支配者。


人類から畏怖される存在だった。


しかし彼らにも問題はあった。


変化が少ない。


発展が遅い。


長命ゆえに挑戦が少ない。


数百年。


数千年。


同じ生活を繰り返す者も珍しくなかった。


若いドラゴンたちは退屈していた。


研究したい。


学びたい。


交流したい。


新しい技術を見たい。


その願いが年々強くなっていた。


そんな時に届いた異界の情報。


十億人。


十億人の教師。


十億人の教導スキル保持者。


世界最大級の研究都市。


世界最大級の工業都市。


そして無数の学校。


若いドラゴンたちは決断した。


「行こう。」


その一言が全てを変えた。


最初に現れたのは百体。


次に千体。


やがて数万体。


ドラゴンたちは異界へ移住を始める。


そして異界の住民たちは驚くことになる。


ドラゴンたちは人型へ変身できたのだ。


巨大な竜の姿。


それが光に包まれる。


次の瞬間。


人間と変わらない姿になる。


金髪の青年。


銀髪の少女。


赤髪の女性。


黒髪の老人。


様々な姿。


もちろん角や瞳に特徴は残る。


しかし街で生活するには十分だった。


「便利ですね。」


セリナが報告書を見ながら呟く。


「都市への受け入れも容易です。」


行政局の職員たちも安堵していた。


もし巨大な竜のまま暮らされたら都市設計をやり直さなければならない。


しかし人型なら問題ない。


学校へ通える。


研究施設へ入れる。


工房で働ける。


交流も容易になる。


その結果。


ドラゴンたちは急速に異界へ溶け込んでいった。


そして予想外のことが起きる。


彼らが教師になり始めたのだ。


長命種。


数百年。


時には千年以上生きる。


その知識量は膨大だった。


魔法理論。


歴史学。


鉱物学。


生態学。


天文学。


彼らは生きる図書館だった。


「教えてもらえますか?」


若い学生が尋ねる。


ドラゴンは微笑む。


「もちろんだ。」


そこから授業が始まる。


教室は満員になる。


研究施設も賑わう。


教師が教師を育てる。


その連鎖が起きていた。


マイケルは驚いていた。


「教導スキルが発現しています。」


報告書にはドラゴンたちの名前が並んでいる。


教育環境。


学ぶ文化。


人を育てる環境。


それらが揃うことでドラゴンたちも変わっていく。


環境が人を育てる。


種族は関係ない。


その証明だった。


一方。


移住者が増え続けたことで新たな課題も生まれる。


行政である。


人口十億人。


もはや村の延長では運営できない。


そこで整備されたのが行政組織だった。


地方行政局。


都市行政局。


教育局。


医療局。


物流局。


農業局。


工業局。


治安局。


それぞれ専門家が配置される。


元教師。


元職人。


元商人。


元治癒師。


現場経験者が中心だった。


「分からない者が決めるな。」


それが行政の基本方針になっていた。


農業政策は農業経験者。


教育政策は教師経験者。


医療政策は治癒師経験者。


現実を知る者が判断する。


その結果。


行政効率は極めて高かった。


さらに自警組織も拡大する。


各都市。


各村。


各行政区。


地域ごとに自警団が存在する。


住民自身が地域を守る。


犯罪抑止。


災害対応。


緊急避難。


防衛訓練。


役割は多い。


エミリーの教え子たち。


ロバートの教え子たち。


彼らが中心となる。


狩猟組織も同様だった。


周辺魔物の管理。


素材回収。


生態調査。


食料確保。


環境保護。


単なる討伐隊ではない。


文明を支える組織へ進化していた。


そして。


ある日のこと。


高台から都市を見下ろしていたロバートが静かに笑った。


目の前には巨大な都市。


運河。


鉄道代わりのゴーレム輸送網。


学校。


研究施設。


酒造都市。


紡織都市。


農業都市。


無数の灯り。


そして空を飛ぶドラゴンたち。


「変わったな。」


誰に向けた言葉でもなかった。


かつて。


盗賊に怯えていた貧困村。


病に苦しむ村人。


食べ物が足りない冬。


教育を受けられない子供たち。


全てが現実だった。


忘れてはいない。


だからこそ今が分かる。


目の前の文明は偶然ではない。


誰か一人の力でもない。


教育だった。


努力だった。


人材育成だった。


学び続けた結果だった。


その時。


遠くの広場から歓声が聞こえた。


ビール祭りが開かれている。


異界産ビール。


異界産ウィスキー。


異界産焼酎。


人々が笑う。


ドラゴンも笑う。


悪魔も笑う。


魔族も笑う。


子供たちが走る。


教師たちが語る。


職人たちが競い合う。


農民たちが歌う。


そこには飢餓がない。


そこには病への絶望がない。


そこには種族差別がない。


少なくとも、この地では。


夜空を見上げると、星々が輝いていた。


そして異界の灯りは、その星に負けないほど広がっている。


十億人を超える人々。


十億人を超える教師。


十億人を超える学び手。


文明はさらに成長する。


農業革命は続く。


紡織産業は広がる。


魔力操作も魔力循環も普及する。


魔力吸収を学ぶ者も増える。


実質無限魔力へ到達する者も現れる。


学びは終わらない。


発展も終わらない。


環境が人を育てる。


その思想は今や異界そのものになっていた。


そして新たな移住希望者たちの列は、今日も転移門の前で途切れることなく続いていた。






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