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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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229話 異界へ集う者たち(前編)

異界歴三年。


かつて誰も住まなかった大地は、今や十億人を超える人々が暮らす巨大文明圏へと変貌していた。


広大な小麦畑。


果てしなく続く運河。


数百万の学校。


無数の工房。


巨大都市群。


農業革命。


紡織産業革命。


食文化革命。


医療革命。


教育革命。


それらが同時に進行する世界。


その噂は、もはや人間の国だけに留まらなかった。


魔界。


ドラゴン領。


悪魔領。


遠く離れた異世界にまで届いていた。


「本当なのか?」


赤黒い岩山が続く魔界の一角。


痩せ細った魔族の男が呟く。


「食料が余っているらしい。」


「飢えないらしい。」


「働けば家も貰えるらしい。」


「子供が学校へ行けるらしい。」


酒場の中で囁かれる話。


誰も信じられなかった。


なぜなら魔界では常識ではなかったからだ。


魔界は広い。


豊かな土地も存在する。


しかし多くの地域では違った。


魔族同士の争い。


限られた農地。


不足する食料。


頻発する病。


支配者による搾取。


結果として多くの者が貧困に苦しんでいた。


「また今年も飢えるのか。」


老人が呟く。


その横で若者が拳を握る。


「異界へ行く。」


誰かが言った。


「俺は行く。」


静まり返る酒場。


やがて一人。


また一人。


立ち上がる者が現れた。


同じ頃。


悪魔領でも似たような光景が起きていた。


悪魔族は強い。


魔力も豊富だった。


しかし生活が豊かとは限らない。


戦いに価値を置く文化。


力が全ての社会。


敗者は切り捨てられる。


そんな世界だった。


そこへ届いた異界の噂。


教師が十億人いる。


教育は無料。


病は治療される。


飢えることはない。


技術を学べる。


働けば生活できる。


「夢物語だ。」


最初は笑われた。


しかし。


実際に移住した者たちから手紙が届く。


そこには信じられない内容が書かれていた。


『毎日三食食べています。』


『子供が学校へ通っています。』


『治療院があります。』


『仕事があります。』


『もう飢えていません。』


悪魔たちは言葉を失った。


その頃。


ドラゴン領でも変化が起きていた。


高山地帯。


雲海の上。


巨大な古竜たちが住む土地。


その一角で若いドラゴンがため息をついた。


「退屈だ。」


狩りはできる。


生きることはできる。


しかし発展がない。


学問も少ない。


交流も少ない。


数百年。


数千年。


同じ日々が続く。


そんな中で届いた異界の情報。


巨大都市。


学校。


研究施設。


工房。


新しい料理。


新しい酒。


新しい文化。


若いドラゴンたちは興味を持った。


「行ってみたい。」


その言葉を口にする者が増えていく。


そしてついに。


移住が始まった。


異界中央転移港。


巨大な転移門の前。


数え切れない移住希望者が列を作っていた。


魔族。


悪魔族。


ドラゴン。


獣人。


エルフ。


ドワーフ。


人間。


あらゆる種族が集まる。


迎えに出たのは行政局だった。


かつての村人たち。


今では行政官として働いている。


「受付はこちらです。」


「居住希望地を選んでください。」


「職業経験を教えてください。」


「教育課程も用意されています。」


初めて訪れた魔族たちは驚いた。


混乱がない。


怒鳴り声がない。


列が整っている。


職員が丁寧に対応する。


「教育を受けた人材が増えると、こうなるのか。」


年老いた悪魔が呟いた。


さらに驚いたのは治安だった。


巨大都市なのに荒れていない。


犯罪が少ない。


理由は明確だった。


自警組織の存在である。


各都市。


各村。


各行政区。


それぞれに自警団が存在していた。


元冒険者。


元兵士。


元農民。


元職人。


様々な経歴を持つ人々が地域を守る。


エミリーの育てた将軍人材。


ロバートの育てた統率人材。


その教え子たちが各地で活躍している。


自分たちの街は自分たちで守る。


その思想が根付いていた。


さらに狩猟組織も整備されていた。


周辺の魔物管理。


食料確保。


素材採取。


生態調査。


狩猟組織は単なる戦闘集団ではない。


地域経済を支える重要な存在になっていた。


移住してきた魔族や悪魔たちは驚く。


戦う力だけでは評価されない。


教える力。


作る力。


育てる力。


守る力。


全てが価値になる。


それが異界だった。


そして彼らはまだ知らなかった。


この地でさらに大きな変化が始まろうとしていることを。


豊かな農地。


余剰穀物。


発達した醸造技術。


それらが結び付き、新たな産業が誕生しようとしていた。


酒の時代である。







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