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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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182話 輸出開始

サンナ・マリン王国の冬。


かつて人々は雪を恐れていた。


畑は止まる。


仕事は減る。


収入は消える。


寒さと貧困が国を蝕む。


それが当たり前だった。


しかし今は違う。


王都郊外の巨大紡織工房では、朝から織機の音が鳴り響いていた。


カタン。


カタン。


カタン。


休むことなく続く音。


それは産業の鼓動だった。


寒冷地綿花。


巨大温室。


紡織教育。


仕立教育。


全てが繋がり、一つの大きな流れになっていた。


工房では数万人が働いている。


農民だった者。


難民だった者。


未亡人だった者。


仕事を失った職人。


かつて貧困に苦しんでいた者たち。


彼らは今、自らの手で価値を生み出していた。


リーザは工房を見渡した。


白い綿糸。


大量の布。


防寒着。


毛布。


タオル。


下着。


山のように積み上がっている。


「在庫が増えてきましたね」


リーゼが笑う。


リーザも頷いた。


「国内需要だけでは足りません」


その言葉通りだった。


サンナ・マリン王国の民は豊かになり始めている。


しかし生産能力の伸びがさらに速い。


だから次の段階へ進む必要があった。


輸出。


その時だった。


王都へ一台の豪華な馬車が到着する。


赤を基調とした大型馬車。


商会旗が風になびいている。


人々がざわついた。


「ヴァレリア商会だ」


「本物か?」


「会頭自ら来たぞ」


馬車の扉が開く。


現れたのはマーガレット・ヴァレリアだった。


長身。


赤い髪。


圧倒的な存在感。


王都の商人たちですら息を呑む。


マーガレットは大量の防寒着を見ながら笑った。


「面白いじゃない」


隣のトミーが苦笑する。


「だろ?」


「面白いなんてもんじゃないわ」


マーガレットは布を触る。


品質を確認する。


縫製を見る。


耐久性を調べる。


そして即座に判断した。


「売れる」


即答だった。


「しかも大陸中で」


トミーが笑う。


二人とも商人である。


利益の匂いには敏感だった。


マーガレットは振り返る。


「全部買うわ」


周囲が静まり返る。


トミーも目を瞬かせた。


「全部か?」


「ええ」


マーガレットは迷わない。


「足りないくらいよ」


その読みは正しかった。


数日後。


ヴァレリア商会による販売が始まる。


すると予想以上の反応が起きた。


北方諸国。


山岳国家。


寒冷地領主。


商人都市。


冒険者ギルド。


注文が殺到したのである。


「五万着欲しい」


「十万着頼む」


「毛布も送れ」


「追加で二万」


注文書が山になる。


王都の商人たちは唖然とした。


今まで輸入する側だった国が。


今度は輸出する側になっている。


女王マリンの元にも報告が届く。


「輸出量が想定の三倍です」


「税収増加」


「雇用増加」


「工房増設申請多数」


マリンは静かに報告書を閉じた。


隣の王配アルベルトが言う。


「完全に主産業になったな」


「ええ」


女王は頷く。


紡織産業。


それがサンナ・マリン王国を支え始めていた。


しかし問題も生まれていた。


材料不足である。


綿花だけでは追いつかない。


もっと高品質な素材が必要だった。


そこでセリナが動く。


王城会議室。


各分野の教師たちが集まる。


索敵教師。


戦闘教師。


紡織教師。


物流教師。


全員が席についていた。


セリナは地図を広げる。


「候補はこれです」


指差した場所は北方森林地帯。


魔物の生息域だった。


「シルクスパイダー」


部屋が静かになる。


その名は有名だった。


大型蜘蛛型魔物。


危険度は高い。


しかし価値も高い。


理由は一つ。


魔糸。


非常に強靭な糸を吐くのである。


紡織教師たちの目が輝いた。


「取れるんですか?」


「可能です」


セリナが答える。


「索敵済みです」


「群れも確認済み」


計画は即座にまとまる。


狩り部隊編成。


十人一班。


三十班。


合計三百人。


全員が教育を受けた精鋭だった。


戦士。


索敵担当。


治癒担当。


拘束担当。


運搬担当。


役割も明確である。


数日後。


狩猟作戦開始。


森林地帯。


ミシェル率いる索敵教師たちが先行する。


念話が飛ぶ。


「発見」


「西三百メートル」


「大型群れ確認」


情報共有は一瞬だった。


戦士たちが動く。


風魔法。


土魔法。


拘束魔法。


影魔法。


連携は完璧だった。


シルクスパイダーは抵抗する。


だが狩り部隊も強い。


教育されている。


訓練されている。


そして何より組織化されている。


戦闘は短時間で終わった。


死者なし。


重傷者なし。


成果は巨大だった。


大量の魔糸。


さらに数週間。


狩り部隊は継続的に活動する。


三十班が各地を巡回する。


魔糸は倉庫へ運ばれる。


紡織工房へ送られる。


そして新たな挑戦が始まる。


魔布である。


通常の布より強い。


軽い。


暖かい。


耐久性も高い。


紡織教師たちは夢中になった。


研究。


試作。


改良。


失敗。


再挑戦。


教育を受けた職人たちは成長し続ける。


そして半年後。


第一号となる魔布製防寒着が完成する。


軽い。


暖かい。


丈夫。


性能は従来品を大きく上回った。


マーガレットは完成品を見て笑う。


「終わったわね」


トミーが首を傾げる。


「何がだ?」


「競争よ」


マーガレットは断言した。


「こんなの作られたら他国じゃ勝てない」


その言葉は誇張ではなかった。


農業革命。


紡織革命。


教育革命。


それらが結びついた結果だった。


かつて貧困に苦しんだ北方国家。


病に苦しんだ国。


冬を恐れた国。


その国は今。


防寒着と魔布を大陸へ輸出する産業国家へ変わり始めていた。


環境が人を育てる。


育った人が産業を作る。


産業が国を豊かにする。


そして豊かになった国が、さらに人を育てる。


その循環は止まらない。


サンナ・マリン王国は、新たな時代へ足を踏み入れていた。







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