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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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104話 村長会議

東部村落連合が発足して半年。


最初は六つの村だった。


アルナ村。


ベルグ村。


ノース村。


ハイランド村。


リーフ村。


ストーン村。


いずれも貧困に苦しみ、病に苦しみ、盗賊や奴隷商に怯えていた村だった。


今では違う。


農業革命によって食料生産は安定した。


教導スキルを持つ教師達によって教育が根付いた。


索敵部隊が周辺を巡回する。


戦闘部隊が防衛訓練を行う。


子供達は文字を学び。


大人達は技術を学ぶ。


環境が変わった。


だから人が育った。


その成果は数字にも現れていた。


連合全体の人口は増加。


飢餓は消滅。


病死率は激減。


農地面積は拡大。


家畜数も増加。


備蓄量も増加。


そして何より。


村同士の交流が当たり前になっていた。


その中心となっていたのが。


村長会議である。


月に一度。


各村の代表が集まる。


場所は持ち回り。


今回はアルナ村だった。


巨大な会議場。


かつて倉庫だった建物を改装したものだ。


朝から各村の代表達が集まってくる。


村長。


農業責任者。


治療院責任者。


教師代表。


商業担当。


警備隊長。


以前なら考えられない光景だった。


村同士が情報を共有する。


この世界では珍しい文化だった。


会議が始まる。


司会はアルナ村長。


白髪の老人だった。


「それでは定例会議を始める」


会場が静まる。


最初の議題。


農業。


ベルグ村長が立ち上がった。


「今年の芋畑で病害虫が発生した」


ざわりと会場が動く。


病害虫。


農業国家にとって大敵である。


しかし慌てる者はいない。


以前なら違った。


情報を隠した。


失敗を隠した。


今は違う。


共有する。


皆で解決する。


それが連合だった。


ベルグ村長が続ける。


「発生初期に発見した」


「被害面積は全体の三%」


「対策案を求めたい」


すぐに手が上がる。


リーフ村の農業責任者。


エルフの女性だった。


「うちでも同じ病害虫が出たことがあります」


「薬草を使った駆除法があります」


さらに。


ストーン村の農業責任者。


「畑の排水路を改善すると発生率が下がる」


次々に意見が出る。


解決策が集まる。


十分後。


対策案は完成していた。


ベルグ村長が笑う。


「助かる」


「一村では気付かなかった」


皆が頷いた。


これが連合の強さだった。


次の議題。


治療院。


リーフ村の女性代表が立つ。


「高齢者が増えています」


「介護体制について意見を聞きたい」


今度はエルナが発言する。


治療院代表として参加していた。


「家族任せにしない方が良いです」


「村全体で支える仕組みを作るべきです」


実例が紹介される。


孤児院。


共同食堂。


巡回治療。


介護補助。


記録制度。


会場のあちこちで筆が動く。


皆が学んでいた。


失敗も共有する。


成功も共有する。


だから成長が早い。


続いて教育。


マイケルが立ち上がった。


「識字率の報告です」


資料が配られる。


六村全体。


識字率九十二%。


会場がざわつく。


異常な数字だった。


普通の農村では考えられない。


マイケルは続ける。


「今年中に九十五%を目指します」


「教師交換制度も開始します」


教師交換。


これも連合独自の制度だった。


教師を村同士で交換する。


教育内容を統一する。


技術を共有する。


知識を共有する。


結果。


教育水準が急上昇する。


セリナが小さく頷いた。


彼女は観察していた。


面白い。


実に面白い。


誰も命令していない。


誰も支配していない。


それでも組織が育っている。


人が育つ環境。


そのものだった。


昼。


食事休憩。


各村の料理が並ぶ。


ベルグ村の芋料理。


リーフ村の果実酒。


アルナ村のパン。


ストーン村の燻製肉。


皆が笑いながら食べる。


交流が生まれる。


友情が生まれる。


信頼が生まれる。


これも大事な仕事だった。


午後。


商業会議。


今度はトミーが前に出る。


狐獣人の商人。


今や連合最大の物流責任者だった。


「今年の余剰食料報告だ」


巨大な地図が広げられる。


各村の収穫量。


備蓄量。


消費量。


輸出量。


すべて記載されていた。


「連合全体で余剰が出ている」


「輸出を増やせる」


会場が頷く。


以前なら。


余剰は腐った。


捨てられた。


今は違う。


流通がある。


在庫管理がある。


備蓄がある。


商売がある。


だから富になる。


トミーはさらに言う。


「問題は輸送路だ」


「盗賊が増えている」


空気が引き締まる。


今度はロバートが立ち上がった。


巨大な魔族の男。


将軍スキル保持者。


「対応する」


短い言葉だった。


会場が安心する。


ロバートの警備隊は強い。


索敵部隊もいる。


ミシェルの弟子達もいる。


盗賊程度なら問題にならない。


それでも油断はしない。


情報を共有する。


危険を共有する。


だから被害が減る。


夕方。


最後の議題。


自由討論。


ここが最も盛り上がる。


「新しい品種の麦を作れないか?」


「家畜の繁殖率を上げたい」


「織物工場を増設したい」


「紡織産業の教師を貸してほしい」


「鍛冶職人を育てたい」


「薬師を増やしたい」


次々に話題が出る。


以前の村なら。


一生考えなかった話だ。


生きるだけで精一杯だった。


今は違う。


未来を考えている。


発展を考えている。


成長を考えている。


それが何より大きかった。


会議終了。


日が沈む。


各村の代表達が帰路につく。


馬車。


魔導車。


徒歩。


様々だった。


しかし皆の顔は明るい。


来た時よりも。


帰る時の方が希望を持っていた。


夜。


アルナ村。


会議場の片付けが終わる。


ケルナインは少し離れた場所からそれを見ていた。


参加していない。


口も出していない。


必要がないからだ。


彼の役目は終わっている。


教えること。


環境を作ること。


それだけだった。


後は人が育つ。


後は人が決める。


後は人が歩く。


その姿を見守るだけ。


隣に立つセリナが言う。


「もう私達がいなくても回りますね」


ケルナインは頷く。


「そうだな」


静かな返事だった。


遠くでは。


会議帰りの村長達が笑っていた。


子供達が走り回っていた。


教師達が次の授業を話し合っていた。


職人達が新しい工房の設計をしていた。


兵士達が夜警の交代をしていた。


皆が動いている。


誰かに命令されたからではない。


自分で考えている。


自分で選んでいる。


自分で行動している。


それこそが自立だった。


環境が人を育てる。


育った人が環境を良くする。


その循環は止まらない。


そして。


東部村落連合は六村から十二村へ。


十二村から十八村へ。


さらに拡大を続けていた。


小さな貧困村から始まった物語は。


今や一つの地域を変える流れとなっていた。


その中心にいる人々は。


もう救われる側ではない。


誰かを救う側へと成長していた。







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