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滅びかけた貧困村から始まった教育革命が、やがて世界文明そのものを変えるまでの物語  作者: 慈架太子


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102話 周辺村救済

外国への食料輸出計画が動き始めた頃。


もう一つの議題が持ち上がっていた。


周辺村救済。


かつての自分たちと同じように。


飢え。


病。


盗賊。


奴隷商。


重税。


貧困。


それらに苦しむ集落が周囲にはまだ数多く残っている。


巨大会議室。


地図の上には周辺地域の村々が記されていた。


人口百。


人口二百。


人口五十。


小さな集落ばかりだった。


セリナが報告する。


「確認できているだけで三十二村」


「飢餓状態が八」


「慢性的食糧不足が十五」


「病が蔓延している村が六」


「盗賊被害が三」


会議室が静まる。


昔の光景だった。


今では想像もできない。


この地も同じだった。


だからこそ見過ごせない。


しかし。


ケルナインは救済そのものを目的にしていなかった。


環境が人を育てる。


それが根本思想だった。


食料を与え続けることは救済ではない。


依存を作るだけだ。


ロバートが腕を組む。


「食料を送るだけじゃ駄目ってことだな」


セリナが頷いた。


「はい」


「今回の目的は自立支援です」


会議室の空気が引き締まる。


そこから具体的な計画説明が始まった。


第一段階。


緊急支援。


食料。


医薬品。


衣服。


最低限の支援を行う。


ただし期限付き。


永続ではない。


あくまで立て直し期間だけ。


第二段階。


教師派遣。


これが本命だった。


教導スキル保持者。


農業教師。


生活技術教師。


合計十名。


それぞれの村へ派遣される。


第三段階。


防衛支援。


索敵部隊五名。


戦闘部隊五名。


合計十名。


さらに予備部隊十名。


総勢二十名体制。


盗賊。


奴隷商。


傭兵崩れ。


それらから村を守る。


第四段階。


自立判定。


支援終了。


教師だけ残る。


第五段階。


希望者受け入れ。


職人。


教師。


農民。


鍛冶師。


薬師。


希望者は留学できる。


学び。


技術を持ち帰る。


その説明が終わる。


トミーが口を開いた。


「つまり」


「魚は配る」


「釣り方も教える」


「でも一生面倒は見ねぇ」


マーガレットが笑う。


「その通りね」


単純だった。


しかし非常に重要だった。


支援は依存を生む。


依存は成長を止める。


だから。


自立できる環境を作る。


そこが目的だった。


エミリーが地図を見る。


狼獣人の耳がぴくりと動く。


「最初の村は?」


セリナが指差した。


村の名はアルナ村。


人口百八十。


農地荒廃。


盗賊被害。


病。


飢餓。


典型的な貧困村だった。


会議室にいた者達は思い出す。


昔の自分達を。


かつての故郷を。


ロバートが笑った。


「懐かしいな」


ガイルも頷く。


「まるで昔の俺達だ」


本当にそうだった。


あの頃。


食う物も無かった。


病人もいた。


未来も無かった。


そこへケルナインが現れた。


何かを与えたわけではない。


教えた。


考え方を。


技術を。


生き方を。


それだけだった。


だから今がある。


マイケルが静かに言った。


「今度は僕達の番ですね」


誰も否定しなかった。


数日後。


第一派遣団が編成される。


教導教師五名。


農業教師五名。


索敵部隊五名。


戦闘部隊五名。


総勢二十名。


隊長はマイケルだった。


かつて泣き虫だった少年。


今は教師団の中心人物。


成長した姿だった。


出発前。


広場には多くの人々が集まる。


エルナが医療物資を確認する。


リーンが薬を確認する。


農業教師達は種子を積み込む。


土壌改良資材。


農具。


教材。


教本。


全て揃っていた。


ケルナインは相変わらず何も言わない。


ただ見ている。


そして。


マイケルが出発の号令をかけた。


「行きましょう」


転移魔法陣が輝く。


二十人の姿が消えた。


到着したアルナ村。


村人達は警戒していた。


当然だった。


知らない集団。


武装している。


食料を持っている。


疑う方が普通だった。


村長が出てくる。


痩せていた。


老人だった。


疲れ切っていた。


目に希望が無い。


昔の村長達と同じ目だった。


マイケルは頭を下げた。


「支援に来ました」


村長は言う。


「食料か?」


マイケルは首を振った。


「最初だけです」


老人は困惑した。


「え?」


マイケルは笑った。


「代わりに」


「食料を作る方法を教えます」


老人は理解できない。


周囲の村人達も同じだった。


食料をくれるのではないのか。


なぜ教えるのか。


その疑問が顔に出ていた。


マイケルは続ける。


「僕達も昔は同じでした」


「飢えていました」


「病もありました」


「盗賊もいました」


「でも変われました」


静かな言葉だった。


説得ではない。


事実だった。


その日から支援が始まる。


農業教師達が動く。


まず土を見る。


水を見る。


農地を見る。


鑑定。


分析。


改善。


一つずつ積み上げる。


土属性魔法。


水属性魔法。


農業技術。


堆肥。


輪作。


灌漑。


全て教える。


教導スキルが発動する。


理解速度が上がる。


吸収速度が上がる。


村人達の目が変わる。


一週間後。


索敵部隊が盗賊の接近を発見する。


鳥人族の索敵手が報告する。


「盗賊三十」


戦闘部隊が動く。


ロバートの弟子達。


リーヴの教え子達。


ティグリスの教え子達。


既に一流だった。


戦闘は一方的だった。


風弾。


土弾。


氷槍。


拘束。


捕縛。


盗賊達は逃げ出す。


追撃はしない。


必要ない。


二度と近づけないほどの差を見せれば十分だった。


村人達が驚く。


強い。


圧倒的に強い。


しかし。


教師達は戦い方を教える。


守り方を教える。


自分達で立てるように。


自分達で守れるように。


一ヶ月後。


農地に緑が戻り始める。


二ヶ月後。


収穫が始まる。


三ヶ月後。


備蓄が生まれる。


四ヶ月後。


飢餓が消える。


五ヶ月後。


盗賊が来なくなる。


六ヶ月後。


村長が泣いた。


「こんな日が来るとは」


マイケルは首を振る。


「違います」


「皆さんが頑張ったんです」


それが真実だった。


教師は手伝っただけ。


努力したのは村人達だった。


環境が変わった。


だから人が育った。


ケルナインの思想そのものだった。


半年後。


アルナ村は自立判定を受ける。


支援終了。


教師団撤収。


村人達は見送った。


泣いていた。


感謝していた。


しかし依存はしていない。


自分達で立てる。


自分達で進める。


そうなったからだ。


帰還したマイケルへ。


会議室で報告が求められる。


彼は静かに答えた。


「成功です」


そして少し笑った。


「先生の言った通りでした」


「人は育ちます」


ケルナインは何も言わない。


ただ頷いた。


その頃。


周辺の別の村からも支援要請が届き始めていた。


一つ。


二つ。


三つ。


四つ。


噂が広がっていた。


食料を配る国があるのではない。


人を育てる国がある。


その噂が。


静かに世界へ広がり始めていた。







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