第88話:1人と1匹
2日間は、あっという間に過ぎ去った。堀井は名越以外とはあまり話さず、約束の日を迎える。
「あ、来たよ!」
最初にそれに気づいたのは、名越だった。施設の入り口に止まった車。そこから下りてきた金髪の女性と、黒髪の男性を見つめながら。名越は堀井に声をかける。
「優しそうな人たちだね」
堀井はなんと言っていいか、分からなかった。代わりに彼女は、庭に通じるガラス戸の方に目を向ける。塀の上には、いつも来ている三毛猫がいた。
「……あの子、連れていくの?」
「……私は、そうしたいと思ってる」
猫から目を離さずに、少女は友人の問いに答える。その間に、夫婦は施設の中に入った。
「あの子は?」
「堀井ちゃんなら、向こうの部屋でお友達と話していますよ。ご案内します」
そんな会話の後に、加々美が2人を連れてくる。堀井はゆっくりと、振り返った。
「Hallo! 初めまして、アメリちゃん!」
陽気に笑って、金髪の女性が堀井に近づき、目線を合わせる。
「私はDorothea. 気軽にドロシーって呼んでちょうだい」
「……はい。ドロシー伯母さん」
女性を見上げて、少女は返す。その言葉に、ドロシアと名乗った女性は笑みを深めた。
「可愛い子ね。今日は来ていないけれど、私にもあなたと同じ年ごろの子供がいるの。同じ女の子だから、きっと仲良くなれると思うわ」
「……ありがとうございます」
堀井はドロシアの目を見つめて、少し硬い声で言った。そして真剣なまなざしで続ける。
「あの。……猫は、飼えますか?」
「猫?」
不思議そうに首を傾げるドロシアに、加々美が横から口を挟む。
「この近くに住む野良猫ですよ。堀井ちゃんと、仲が良くて……」
「助けてくれたんです。私を家から連れ出して。ここまで案内してくれて。あの子がいなかったら、私はきっと、生きられなかった。だから……」
加々美の言葉を遮って、堀井は懸命に話す。ドロシアは少女の言葉を聞いて、真顔になった。
「OK.あなたにとって、その猫はとても大切なお友達なのね。ちゃんと世話をするのなら、飼ってあげてもいいわ」
「する」
言いきって。堀井はためらいがちに女性を見ながら、庭の方に向かって歩いた。ガラス戸を開けると、猫は庭に下りてきて、彼女の前まで歩いてくる。
「ニャー」
ひと声鳴いて。猫は部屋には入らずに、その場に立ったまま堀井を見た。少女は猫に手を伸ばす。
「大丈夫だよ。おいで」
その声に応えて、猫は彼女の胸に飛びこむ。堀井は迷わず、その小さな体を受け止めた。少女の腕の中で、猫は暴れず、彼女を見ていた。
「まるで小さなKnightみたいね」
その様子を見て、ドロシアが笑う。加々美と名越も、同じように。柔らかく温かな笑みを浮かべていた。優しい人たちに出会えたことに感謝しながら、堀井は猫を抱きしめて、小さな声で囁いた。
「全部あなたのおかげだね」
その言葉に。黄色い瞳の三毛猫は、見守るように小さく鳴いて。少女の頬を舐めた。
完結しました。
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