第1話:おじさんはデスゲームに参加している
そこは白い部屋だった。床も壁も、天井も真っ白。足元は固くツルツルとした、継ぎ目のない1枚の板だ。
「……どこだ、ここは?」
浦見は周囲を見渡した。彼の他にも、そこには人が大勢いる。だが、状況を理解できていそうな人間は誰もいなかった。
(どういうことだ。俺はなぜ、こんな場所に来ている?)
記憶にない。この場所のことだけでなく、自分のことも。思い出せるのは、自分の名前だけだ。浦見宏紀。その名を頭の中に浮かべて、彼はゆっくりと歩きだす。
(とにかく、外に出ないと……)
部屋の出口らしき場所は、1つだけ。古びた木製の扉。見たところ、鍵がかかっているような様子はない。浦見は戸惑う人々を置いて、扉に手をかけた。錆が浮いた蝶番がこすれて、音を立てる。扉の向こうは、ビルが立ち並ぶ街の中心部だった。広い道と、高い建物。どれも墨で塗りつぶしたかのような黒さで、窓や模様は濃い灰色。大通りには車が1台もなく、道にも人の姿は見えない。
「最初のゲームは、宝探し」
ビルに掲げられた大型のディスプレイに、黒い人の絵が映し出された。灰色の背景に、電子音のような声。
「ここで宝を見つけてね。宝の形は教えてあげない。その代わり、最初だから制限時間は無し。ボクって優しいでしょ」
言うだけ言って、人影は消えた。ディスプレイに白文字で、先程の説明が映される。金髪の青年が、怯えきって声を上げた。
「何だよそれ! そんなことより、ここから出せよ!」
答えはない。無音の世界で、浦見はひとまず鏡を探すことにした。近くの大きなビルに入って、彼はトイレへ直行する。
(俺は何をしていたんだ?)
鏡に映るのはサラリーマン風の男だ。状況から考えても、そこにいるのは自分自身。着ているものは普通のスーツで、年は40代くらい。持ち物は全て無くなっていて、職業は分からなかった。
(宝探し、か)
手がかりはない。だが、それ以外にすることがないのなら。彼は行動しようと思った。トイレの個室を1つずつ覗き、便座を上げていく。そして、3つ目に手をかけた時だった。便座の中から、何かの仕掛けが作動したような音が聞こえる。
(当たったのか……?)
運がいい。そう思うのと同時に、言いしれぬ不安が彼を襲う。浦見はとっさに、便座から手を離した。そしてトイレから走り出たところで、彼が先ほどいた場所が、大きな音を立てて爆発する。煙を上げるトイレを見ながら、男はツバを飲み込んだ。
(あそこに居たら、死んでたな)
これはゲームだと告げられた。ただし普通のものではない。自分の命が、かかっている。そのことを知って、彼は表情を険しくした。
1/蝶番
「開き戸や箱のふたなどを自由に開閉するために取り付ける金具。2枚の金属板と1本の回転軸からなり、形がチョウに似るのでいう」
2/直行
「途中でどこにも寄らずに、直接目的地に行くこと」
この後書き内での説明は、コトバンクのデジタル大辞泉から引用したものです。




