第七十二話 進展しすぎてても複雑だ
ブラッドフォードに会うと言っても、それには何個か段階を踏まなきゃいけないわけで。
……まぁ、他国の王子に面会するのに段階を踏まなきゃいけないのは当たり前の事なのだけど、私の場合、それが非常に面倒くさいのである。え?立場的に面倒くさいのかって?そんなわけないじゃないか。ただ単純に段階踏むの面倒なだけです。
「なのでクリフィード、君の出番だ」
「嫌だぁああ!これ以上俺の負担を増やすなぁああ!!」
「駄犬か下僕と呼ばれたくないならやれ」
「ッ!!!」
クリフィードへの配慮が皆無と化した私を見て、とうとう涙目になった目の前の男は本当に私の知るクリフィードなのだろうか。ゲームとは全くの別人に見えてならない。
「それはアステア様相手だからではないでしょうかねぇ」
「クレイグ心の中読まないで」
クレイグを冗談交じりに軽く睨めば、対応の差に目を白黒させているクリフィードが視界に入った。初対面から態度悪い奴に良い顔するほどお人好しではないわ!!
「で、やるの?やらないの?あんたに拒否権はないけど聞いといたげるよ」
「本当何様だお前………拒否権ないんだろ…」
それはつまり、やる、という事で。うんうん、素直なのは良い事だ。
「じゃ、ブラッドフォード第一王子殿下のところへレッツゴー!」
機嫌よく拳を天に掲げた私を見て、ヨルとクレイグが笑い、クリフィードが肩を落としたのは言うまでもない。
───
王城の決闘場。普段は騎士の訓練の場所として使われていて、ブラッドフォードはよく騎士達に剣を教えているらしい。決闘場にいる時だけは王妃様がなぜか会いに来ないからここによくいるらしいけど……。
「確かに、これは来ないわ…」
決闘場の大きな扉の隙間から中を覗き込めば、半裸の男達が剣を打ち合う姿が広がっていた。しっかりしているとしても、貴族の令嬢だった王妃様にこれは過激なんだろう。うん、私もここにはあんまり来たくないわ、汗臭いし。
嫌がるクリフィードから聞き出した話では、メイド達はこの決闘場を「女人禁制の男の園」とか言っているらしいけど、ただ汗臭い男が密集してる場所だよ、臭いよ、鼻曲がるよ。
思わず鼻を摘みそうになるのを我慢して、クリフィードがブラッドフォードに話しかけに行った事を確認する。ブラッドフォードは姉様と別れた後、すぐにここへ来たようで、まだ汗もかいていなかった。………汗臭そうじゃなくて良かったよ、本当に臭いの嫌だから。
「すぐに来るらしいから近くの応接間で待ってろだと」
駆け足でこちらに向かって来たクリフィードの言葉に従って、決闘場近くの応接間へ歩く。
すれ違う使用人達に物凄い目で見られているのは気のせいだろうか。
「おい、どうかしたのか?」
………あっ。そういう事か。
女嫌いのクリフィードと一緒にいるから見られているのか。
「お前のせいかコノヤロウ」
「はぁ?って、イッテェ!!」
注目されるのは得意じゃない。原因がクリフィードならささやか仕返しをしても良いだろう。横腹を服の上から抓ってやれば、想像通りの反応をしたクリフィードにクスッと笑ってしまう。
「わかりやすいよね、クリフィードって」
「痛い以外にどう表現すれば良いって言うんだよ!!このクソ女!!」
最後の「クソ女!!」と言う言葉が廊下に響く。一気に使用人達の顔色が青くなったのを尻目に、私はもう一度クリフィードの腹を抓ってやった。
「言葉には気をつけなさいよ」
私が脅してるって事忘れてるわけ?
耳元で囁いてやれば、クリフィードの顔も青くなる。………なんだろう、こういう反応を見て楽しむ私は性格が悪いのだろうか。だって表情がコロコロ変わって面白いんだもん。クレイグはいつも笑顔だし、エスターは私相手には怒る事はあっても睨んできたりしないし、ヨルは……なんか、揶揄う隙がない。
そう考えるとクリフィードは有難い存在だね。最初から態度が悪くて人として嫌いな部類の人間だから、思う存分からかえる。
私が面白そうに笑ったのを見て何か勘づいたのか、「お前ホント最悪だ…」と呟いたクリフィードを見てまた笑う。
「最悪結構。機嫌良くなったから第一王子には少しだけ優しくするよ」
嫌味ったらしい笑顔で言ってやれば、「兄上相手になんかする気なのか!?」と騒ぎ出すクリフィードだけど、それを無視してさっさと歩く。
そういえば、ヨルとクレイグは今頃何してるのか。ヨルは図書館の方に行きたいみたいだったから行かせたけど、クレイグには姉様への事情聴取をお願いしている。クレイグならスムーズに聞き出せると思う。だけど……なんだろう、進展してないって事はあり得ないだろうけど、進展しすぎてても複雑だ。
姉様取られたくないぃー。
だって大事な姉様だよ?可愛くて綺麗なお姉ちゃん取られたくないに決まってるじゃん。……でもそうだよね、姉様がブラッドフォードと結ばれたら姉様はブラッドフォードを優先するようになって……。
「………やっぱり虐めてやるぅ」
これくらい、姉を取られる妹として許してほしい。
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