第三十四話 憂鬱なカウントダウンだな
フィニーティスに到着してすぐ、姉様は行きつけの店へ立ち寄った。パーティーが行われるのは三日後で、とりあえずその三日間でリアンの家へ行かないといけない、んだけど。
「ここのドレス可愛いのよ?」
………兄様もそうだったけど、なぜにドレスを見に行くんだ。カタルシアのドレスも十分上品で可愛らしいデザインだろうに。
「ドレスには国の特色が顕著に出るわ。ドレスでどの国の出身かわかるくらいにね」
「へ、へぇ…」
とりあえず頷くけど、姉様が笑っているという情報くらいしか私の頭には入ってきていない。姉様の側に立っているレイラだって、女といえども騎士をしているから、どうしてドレスをこんなにも見ているのか理解できないって顔をしている。
華やかなアルバやフィニーティスのドレスは派手だから、私の趣味には合ってない。できればすぐに退散したいところだ。
でも、姉様と一緒にいたいっていう気持ちもあるし、辛抱するしかないか…。
「あら、これアステアに似合いそうじゃない?」
えっ。
「……そう言えば、アステアのドレスは数が少ないわよねぇ」
「そんな事ないよ姉様。私今あるドレスで満足してるよ」
冷や汗ダラダラになりながらも、嫌な予感を回避したくてどうにか言い繕う。けど、姉様にそんな言葉が通じるはずもなくて。
「何着か試着してみましょうか」
私にとって服屋で一番言って欲しくない言葉が、姉様の口から飛び出たのだった。
───
二時間、二時間ですよ。短い様な長い様な最悪な時間が二時間続きましたよ。救いは姉様の笑顔だけですよ。
「疲れました」
「俺に抱きつきながら言っても説得力がねぇ」
「疲れてなかったら抱きついてないですよ」
恋人の距離?知らんわ!エスターが飲み物買いに行っちゃってるから抱きつく相手がいないんだよ!!
私がベンチに座るとヨルの腰が本当に丁度いい位置にあるのが悪い。抱きつくとストレスが軽減?されるってなんかの本で読んだから、いつも疲れた時は誰かに抱きつく。だいたいはエスターだけど、別に私の騎士なんだから、ヨルでも問題ないよね。
「姫さん」
「なんですか」
「エスターの嬢ちゃんにすげぇ睨まれてんだけど」
「あ、エスター帰ってきたの」
なぜか目を吊り上げてヨルを睨んでいるエスターだけど、私と目が合うとすぐに「はい!エスターはここにいますよ!」と言ってきた。
「?そうだね、エスターそこにいるね…?」
「はい!なのでヨル様ではなく私に抱きついてはいかがでしょうか!」
「なんで?」
いつもエスターってだけで、抱きつく相手を決めてるわけじゃない。なぜエスターにわざわざ抱き変えないといけないんだ。というか、動きたくない。疲れた。
「な、なんでって…だ、抱きついて欲しいからですが!?」
なんで逆ギレ…。
まぁ、可愛い事この上なしなので抱きつくけども。
「エスター可愛い!」
「!アステア様!」
ヨルから離れて抱きつけば、エスターの耳が思いっきりピコピコしていて、尻尾がブンブン揺れた。可愛いなおい。
「は〜…癒し」
エスターの肩に自分の頭を擦り寄せながら呟けば、さらに尻尾が揺れた。
「……これ、いつもなのか。爺さん」
「アステア様が疲れている際はいつもこの様なやりとりが多いですねぇ」
後ろでヨルが呆れて、いつの間にか現れたクレイグが笑っている気配がするけど気にしない。
ちなみに、ここは普通に馬車も通る道のベンチだから、ある程度注目は集めるけど、まぁ、誰かに不快感を味わわせているわけでもないんだから大丈夫でしょ。そろそろ姉様も店から出てくるだろうから、私は思う存分エスターを抱きしめておこうっと。
───
「ブラッド!ブラッドはどこにいるの!?」
ヒール特有のうるさい足音のせいで目が覚める。
「なんですか、母上」
不機嫌を隠さずに答え、母の前に現れれば、母は嬉しそうに笑っていた。
「前にも話したと思うけれど、パーティーには必ず出席しなさいね?」
「わかっています。カタルシアの姫君のお相手をすれば良いのでしょう」
「そう、わかっているのね!それなら良いわ!あの子はとても可愛らしくて優秀な子だから、絶対射止めて見せなさい!」
今まで何度も聞いている言葉で、流石に飽き飽きた。カタルシアの姫が美しいと言われているのは知っているが、何をそこまで執着するのか。
………俺が、女性の相手などできる様な男じゃない事など、とうの昔に知っているだろうに。母はカタルシアの姫をこの国の引き入れたいのか、俺に姫との縁談を勧めてくる。面倒なばかりで俺は乗り気ではないが来てしまうものは仕方ないだろう。
申し訳ないが丁寧に断らせていただこう。母には弟とカタルシアの姫を結婚させる様に勧めなければいけない。
パーティーまであと三日…憂鬱なカウントダウンだな。
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