第二話4『死神』
「うわぁぁぁぁあ」
俺は即座に教室から出て、脱兎のごとく廊下を駆け出した。
「何で逃げるんだい!?待ってくれよ楽斗くん!」
背後から大野の声が聞こえてくる。
イヤだ聞きたくない。マジで無理ッ!無理無理無理無理ッ!
無理だから。大野はマジで無理だからぁぁっ!
俺は泣きべそをかきながら廊下を全力疾走していた。
...って、こんな堂々と廊下を走っていたら・・・・・・。
『あっ、あれは!』
『『天宮だ!』』
くそ!?やはりバレたッ!許さん大野!
お前には必ず復讐してやる!
まぁ、俺から近づくことは無いから多分復讐出来ないけど。
『みんな天宮がいたぞ!!』
『捕獲しろ!』
『楽斗待ちなさい!』
「誰が待つか!バカヤロー!」
聞き慣れた怒号が響く。この状況で待ったら死ぬだろ!?
『オイ。聞いたか?天宮が二階にいるらしいぞ!?』
『本当か!?』
ゾロゾロと他の階層から二階に来る死神。
......マズイ囲まれ始めた。
『もう逃げ場はないわよ。観念してこちらに来なさい』
姉さんの声が響く。
くっ、ここまでか・・・・・・
イヤ、まだチャンスはある!
それは窓から脱出する方法だ。だが、ここは二階。こんなところから飛び降りれば俺も無傷ではすまないだろう。下手したら死ぬかもしれない。
しかし、それはここにこのまま居て捕まっても同じこと。
どうせ死ぬくらいならやってやるさッ!
「ウォオオオオ!」
俺は雄叫びをあげながらグラウンドへ飛び降りた。
『オ、オイ。天宮が二階から飛び降りたぞ!?どうする!?』
『俺らも飛び降りるか?』
『無理だろ』
全身が多少痛むが結果オーライ。連中に追いかけて飛び降りる様子はない。
これで逃げ切れる─
『その程度で僕から逃げ切れると思ったのかい?』
「大野!?」
大野は軽々と窓から飛び降りて スタンッ と華麗に着地した。
『『大野に続けぇ!』』
大野の行動に負けてはいられないと思ったのか連中が次々と窓から飛び降りてくる。
くそっ。ここまでしても逃げられないのかよ!?
『どうなっているんだ!?二階から次々に人が飛び降りてくるぞ!?』
外で部活の片付けをやっていた運動部員もビックリなこの光景。
しかし、意外なことに姉さんが飛び降りてくることはなかった。多分スパッツを履き忘れたから飛べないとかそんな理由だろうな......。
何にせよ姉さんが飛び降りてこないのはラッキーだ。
俺は一直線に校門を目掛けて走り始めた。
俺の後ろを、死神が追いかけてくる。
だが、恐ろしくはない。姉さんが居ないことで俺の心には余裕があった。
「この勝負。俺の勝ちだ!」
ついに俺は学校から脱出することに成功した。
俺の目論見通り連中は人目を気にして追いかけてくる様子はない。
・・・・・・大野一人を除いて。
「何で追いかけてくるんだよ!人に見られてもいいのか!?」
「人に見られる?いいとも、是非見られたい。僕は人に見られた方が興奮するんだッ!」
俺の問いに嬉々して答える大野。
ヤバイ。コイツ変態の域を超越しているぞっ!?
今後貴様は変態帝と名乗るがよいッ!って、こんなこと考えてる暇じゃねぇッつーのッッ!
ここで逃げ切れなきゃ俺は・・・死ぬッッ!
◇
結果、俺と大野の逃走劇は三時間にも及び、クタクタになって家に帰ってきた俺は、姉さんに簡単に捕らえられ拷問を受ける羽目となった。