第二話1『身も蓋もない噂』
『オイオイ。聞いたか?あの噂』
『ああ。聞いたぜあれだろ?あれ』
『俺、聞いたとき驚いちゃったよ。まさか─』
俺は今、教室のドアの前にいる。時刻は11時。完全に遅刻をした。
こうなったのも全て姉さんのせいだ!
朝、持ち物を奪取するため家に忍び込もうとした俺は待ち構えていた死神(姉さん)に捕まり束縛され拷問を加えられ、更には暴力を奮われた。
拷問を耐えることが出来た俺でも姉さんの殺人アッパーを前にしては気絶を避けることは出来なかった。
あれを耐えれる人間は存在しないだろう......。
耐えれたら、そいつは人間じゃない。化け物だ。
そんな化け物じみたアッパーを食らった俺が気絶から覚めたのは6時間後だった。俺は急いで着替えて勉強道具を持って学校に向かった。
結果今に至る。
◇
今、俺はまだ教室には入ってはいない。
何か嫌な予感がするからだ。といってもさっき聞こえた話のことなのだが。
しかし、このままでは学校へ来たのに欠席処分へなってしまう。
(ええい。男は度胸だ!)
俺は教室のドアを開け─
『─天宮楽斗が大野と付き合ったなんて』
バタン。ドアを閉めた。
場所を間違えたみたいだ。帰ろう!
回り右をして帰ろうとすると不意に肩を掴まれた。
『オイオイ~。どこへ逃げようとしてるんだぁ?』
『俺たちにもぉ詳しくぅ話をぉ教えてぇくれよぉ』
『何で大野なんかと!俺の方が─』
チィ。馬鹿三人衆(佐藤、工藤、加藤の略称)に見つかった。
っていうか、これ絶対姉さんのせいだな。
こんな身も蓋もない噂を流すのは姉さんくらいだろう。
俺を物理的にも社会的にも死に追い詰めようとするなんて、さすが姉さん。抜け目がない。
あんたは暗殺者に向いてるよ。俺が保証する!
ってそんなこと考えてる暇じゃない!
何で俺が大野と付き合ってることになってんの!?
そこにビックリだよ!?せめて蓮宮にしようよ!昨日一緒に一つ屋根の下で一晩過ごしたんだからッッ!
・・・・・・ゴホンッ。失礼。取り乱しました。
しかし、この噂はあんまりだと思う。
俺は即座に否定した。
「俺は大野と付き合っていない!」
『またまた~。そーいうのは求めてないから~』
『俺たちにはぁ、内緒ってことかぁ?』
『大野殺す』
オォイ!?
信じろよ!お前ら噂を信じるくらいだったら本人の言葉も信じろよ!?
「イヤ、嘘なんて言ってないから!」
『そうやってムキになるところが怪しいから~』
『それな』
『・・・・・八つ裂き、斬首、火炙り・・・・』
やはり信じてくれなかった。
ついでだが、大野の生命が危ないかもしれない。
まぁ、どうでもいいが。
結局、馬鹿三人衆に噂は間違えだって理解してもらうのに30分を費やした。
◇
俺が教室へ入ったのは1時を越していて昼放課の時間だった。馬鹿三人衆の他に姉さんの流した噂を信じた愚か者共に1から説明をしていったらこの時間になってしまったのだ。
お陰で午前欠席扱いだぜ。11時には着いたのに。
教室へ入ってからは平穏な時間が流れた。俺は噂の件で多くの愚か者共が乗り込んで来るかと思ったが実際はそうでもなかった。俺は疑問に思い隣の席の塚本君に話を聞いてみると、どうやら馬鹿三人衆(主に加藤)が説得して廻ったらしい。
俺の30分は無駄ではなかった。そう思うと何故か涙が浮かんでくる。
俺は馬鹿三人衆に心から感謝して(直接礼は言わないことにした。理由は単純。馬鹿三人衆が調子乗りそうだから)平穏な時間を過ごすことにした。