第一話4『俺と蓮宮』
◇
俺が姉さんに追われ那伊家に亡命してその日の午後10時。俺は入浴や歯磨きを終えて蓮宮が敷いてくれた布団の中に転がり込んでいた。那伊家の夜は早いようで9時にはリビングの灯りは既に消えていた。
ちなみに俺はいつもは1時くらいに寝るので中々眠りにつけずにいた。
だ、だから、決して蓮宮と寝る部屋が一緒だからとか、蓮宮と寝る部屋が一緒だからとか、蓮宮と寝る部屋が一緒だからとか、そういう理由じゃないんだからねッ!
オエッ。自分でやったんだけど気持ち悪くなってきた......。
「ねえ。楽斗、質問があるんだけど」
「ヒャッ!?!??...... ゴメン。何?」
ビックリした。考え事をしてる最中に不意に話しかけてくるのは正直止めて欲しい。変な声が出てしまったじゃないか。
で、質問は何だろう。
俺に彼女が居るかどうかの質問かな?で、居ないって言ったら「なら、いいよね?ずっと前から好きでした。付き合ってください!」ってパターンかな?
「もちろんだよ!俺も好きだ!」って言った抱き締めた方が良いのかな。
イヤイヤ、まてまて。これじゃあ俺がホモみたいじゃないか。
クソ!なんて奴だ。那伊蓮宮!アイツは俺の中の性別という概念をことごとく消し去るつもりか!?
可愛い顔して悪魔のような奴だな...イヤ、可愛いなら天使だな!うん!天使だ!
「そういえば今日泊まりに来た理由聞いてなかったけど何かあるの?」
「・・・・・・」
...... うん。...... どうせこんなところだろうかと思ったさ。...... 予想通りさ。
予想通りのはずなのに何で胸が痛いんだろう...... 。どうして涙が出るんだろう...... 。
「お、お~い。楽斗、大丈夫?どうして胸を押さえているの?どうして涙を流しているの?大丈夫?」
「ゴ、ゴメン。少し感傷に浸っていてね」
「そ、そうなんだ。で、どうして今日泊まりに来たの?」
「実は──」
俺は今日の出来事を詳しく蓮宮に話した。
◇
「...... そうだったんだ。それは災難だったね... 」
「災難ってレベルじゃねえよ。もはや災害。それも大型級の!」
マジで災難っていうレベルじゃないと思う。
大野の告白で、ただでさえ精神がボロボロの俺に追い打ち(物理的死)を与えようとする姉さんが鬼のように見えてくる。いや、命を狙ってきているのだから死神と直すべきであろう。
「...... プッ。あははははは」
「イヤ笑い事じゃないよ!?」
何が面白かったのか、お腹を抱えて笑い出す蓮宮に思わず俺はツッコミを入れてしまった。
◇
「...... ハァハァ。死ぬかと思った」
ようやく笑いが止まった蓮宮は必死に呼吸を整えようとしていた。
「・・・・・・」
「ゴメンゴメン。怒んないでよ。今度アイスを奢ってあげるから」
目をそらした俺を見て怒ったと思ったのか蓮宮は謝りながらアイスを奢ってくれる約束までしてくれた。
ホントは直視していると惚れてしまいそうだったから目をそらしただけなのに。まぁ奢ってくれるって言うんだし怒ってたことにしておこう。
「─でもさ。ホントに面白かったんだよ。
僕は今までずっと告白される側だったから、そういう話を人から聞くのは初めてだったから。何か新鮮で...」
そういえばそうだった。噂では蓮宮は4月に入ってから30人に告られたって話だった。
俺は1人でもトラウマに成りがちなのに30人って...... 。
もしかして蓮宮は気づかせてないだけで実は──
「ゴメン蓮宮」
「へ?」
突然の俺の土下座に蓮宮は目を点にした。
「ホントにゴメン」
「イヤイヤちょっと待ってよ。僕が謝っている側だったのにいきなりどうしたの!?」
「反省している」
「だから、どうしたの!?何か怖いよ!?もしかしてこれが楽斗の考えた復讐!?ゴメン僕が悪かった。だから、頭をあげてくれ!」
「ゴメン」
「イヤ、僕が悪い。ゴメン」
「イヤイヤ、俺が悪い。ゴメン」
「イヤイヤイヤ、僕が─」
「イヤイヤイヤイヤ、俺が─」
結果、俺と蓮宮の謝り合戦は1時まで続いた。