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19話 パンデミック

 ホームルームが終わり、放課後になった。


 例によって男子たちが怖いので、俺はすばやく帰宅の準備をして、席を立った。絡まれる、もしくは殺される前に帰宅しなければならない。


 しかし、教室の出口へと向かう途中で、女子たちの声が聞こえてきた。


「麗奈〜、三島君と一緒に帰らないのー?」

「彼氏と一緒に帰った方が良くない? 付き合ったばっかりなんだしさ」

「えっ? あぁ、そうね! ちょっと待って三島君! 一緒に帰りましょう!」

「……」


 小さく溜め息をついて、振り返る。


 目に入ったのは、俺に声を掛けてきた舞岡と、彼女の周りできゃっきゃと騒ぐ女子たち、そしてところどころから殺気の込もった視線を向けてくる男子たちの姿だった。


「うん。待ってるよ」


 俺は彼女へ向けて微笑む。とりあえず適当なところまで一緒に歩けばいいか。


 舞岡は素早く教科書類を鞄に入れ、近くにいた女子たちに「じゃあまたね!」と手を振り、たたたっと小走りで近付いてきた。


 そして、俺の腕を思い切り抱き締める。


「行きましょうか」

「うん、そうだね」


 遠慮とか躊躇いとかないのかな、この人。


 教室を出て、並んで廊下を歩く。舞岡が腕に抱きついたままだからか、物凄く視線を集めている。仲良しカップルと思われているだけマシだな。


「ったく、何であんたと一緒に帰らなきゃいけないのよ」

「お前どの口が言ってんの? マジで」


 お互いににこにこと笑顔で、そんなことを言い合う。こいつほんと舐めてるな。


 途中、男子が女子に壁ドンをしているという構図の生徒2組のそばを通り過ぎた。


 1組目の男子は「また壁ドン? どんだけ流行ってんの?」と言われて焦っており、2組目の男子は「キモいからやめて」と言われて泣きそうになっていた。


 ……まさかあいつら、舞岡が『壁ドンされて好きになった』とか言ったのを真に受けたわけじゃあるまいな?


 あんなのはイケメンなり元々好意を持たれている男がすれば喜ぶ女子がいるのかもしれないが、全く好かれていない男がしても気持ち悪がられるだけだろ。


 まあ奴らも5人くらいに試せばさすがに間違いだと気付くだろうけど……万が一いけちゃう奴とか出ないだろな?


 あ、でも痛い仲間が増えるのはいいことだな。俺は実際にはやっていないが。


「あ、麗奈! と、その彼氏の三島君!」


 名前を呼んできたのは、3組目の、男子に迫られていた女子生徒だ。


 亜麻色のロングヘアをハーフアップにした、麗奈に負けず劣らずの美少女だ。


 女子生徒は「またね」と、壁に手をついている男子生徒の腕を潜り抜け、こちらへやって来た。


 男子生徒はというと、がっくりと肩を落とし、教室へ入っていった。もうやめたほうがいいぞ。


「何なに? 恋人同士で一緒に帰るの? いいなー」


 女子生徒は陽光のように眩しい笑顔を見せながら、こちらへ近づいてくる。舞岡のビジネス笑顔とは違って本物の笑顔だ。しかも美少女。こりゃ物凄く人気者の女子に違いない。


「羨ましいなら替わってあげるわよ」


 あれっ、舞岡がビジネス対応じゃない。それに、恋人のフリもする気がなさそうだ。


「えっ、ほんとに? じゃあ交たーい」


 亜麻色髪の女子は、舞岡とは逆の腕を掴んできた。えっ……この子、初対面だよな?


「ちょっと、何してんの!?」

「何って、替わってくれるんでしょ? だから三島君の腕を掴んでるの」

「やっぱり駄目! 離れて!」

「やだ。麗奈ばっかり彼氏が出来てずるいもん」

「あんたも誰かと付き合えばいいでしょ? モテるんだし」

「じゃあ私も三島君と付き合う!」

「何でそうなるのよ!」


 うーむ……美少女2人に挟まれている状況は悪くないが……


 何故この女子からの好感度がこんなに高いんだ? 全く話したこともないのに。


「何デレデレしてんのよ。この子はノリで喋ってるだけだから」

「……あ、そう」


 何だよ。危うく引っかかるところだったじゃないか。


「えー。本気だよ。私も麗奈と一緒の彼氏が良い!」

「無茶言わないでよ。二股になるじゃない」

「いいじゃんそれくらい。彼氏共有しようよ」

「駄目に決まってるでしょ」


 あ、通り掛かった男子から睨まれた。今のは美少女2人に挟まれていることに対する殺気だな……何か少し慣れてきた。


「しょうがないなぁ。この辺にしとくか」


 察してくれたのか、亜麻色髪の女子が俺の腕から離れる。


「もう……あ、この子は私の友達よ。夕亜っていうの」


 やっぱり舞岡の唯一の友達か。


「平木夕亜です。よろしくね、三島君」


 にこっと屈託のない笑顔を向けてくる平木さん。この子凄く友達多そう。そりゃ新しいクラスにも友達くらいすぐに出来るだろう。


「うん、こちらこそよろしく」


 俺も爽やかに笑顔を返す。


「あ、三島君。私には変に猫を被らなくていいよ。大体のことは麗奈に聞いてるから」

「……」


 笑顔のまま固まる俺。


 大体のことって……一体どこまで聞いてるんだ? 2人の様子から、恐らく俺が偽恋人だということは知っているのだろうが。


 全て筒抜けだとしたら、俺の好感度は低いだろうな……


「この子は見ての通り可愛くて陽キャなの。昨日私が告白してからすでに5人以上に壁ドンされたらしいわ」

「多いな!」


 この学校の男子って馬鹿ばっかりなのだろうか。


「さっきので10人目だよ」

「……ある意味俺くらい被害者だな」


 馬鹿な男子が多いせいで恐らく被害者の女子多数。この平木さんは特に被害を受けたことだろう。


 いやある意味男子たちも被害者だな……というか俺も被害者だ。


「あんたはまだ帰らないの?」

「んー、バイトの時間まで友達と話してから帰るよ」

「そっか。じゃあまたね」

「うん!」


 舞岡と平木さんが手を振り合う。


「あ、三島君!」

「ん?」

「あんまり麗奈のこと虐めちゃ駄目だよ?」

「……はい」


 これ絶対全部筒抜けだ。どちらかと言えば俺の方が虐められてるような気がしないでもないが……


 平木さんと別れ、中央階段を下りる。


 舞岡はまだ俺の腕を抱えたままだ。いつまでこうしているつもりなんだろう。全然離す気配がない。


 ふと、舞岡が小さく溜め息を吐いた。


「あの子にも困ったものだわ……」


 ……さすがに突っ込まずにはいられない。


「……俺からすればお前の方が何倍も困った奴なんだけど」


 寝るのを邪魔するわ、馬鹿な理由で嘘告白はするわ、教室で危険ワードを出して泣き喚くわ。厄介なことこの上ない。平木さんなんて普通の人だ。


「三島君。過ぎたことを言ってもどうにもならないわ。この辺で手打ちにしましょう」


 お前が言うなと言いたいが、どうにもならないのは彼女の言う通りだ。


「うーん……まあいいか」


 1階まで下り、昇降口まで来ると、下駄箱で靴を履き替える。


「せっかくだから途中まで一緒に帰るか?」

「そうしましょうダーリン」

「ダーリン言うな」


 一緒に玄関を出て、校門へ向かって並んで歩く。


 また舞岡が腕に抱きついてきた。


「私、思うんだけど」

「うん」

「あの男子たちってみんなあんたに憧れて壁ドンしてたわけじゃない?」

「全然嬉しくねえわ」


 そもそもあれは憧れというのか? 2匹目のどじょうを狙おうとしただけだと思うが。要するに下心とか浅はかな思慮によるものだ。


「やっぱり彼女が私だからみんな羨ましかったのかなぁ」

「……」


 舞岡はちらっと上目遣いで微笑む。何やら得意げだ。


「良かったわね、私の彼氏になれて」

「……やっぱり彼氏らしく彼女にえっちなことでもしようかな」

「ぴえん! 調子に乗ってごめんなさい!」


 途端に泣いて縋る舞岡。憎めない奴だ。


 舞岡は俺の腕にしがみつきながら、「まだ高校生だから愛がないと嫌なの!」とか訴えてきた。高校生じゃなければいいのだろうか。


 彼女を引き摺りながら、校門を出て右に曲がる。舞岡も普通に付いてきた。


「お前もこっちの方向なのか?」

「うん。うちは歩いて7、8分くらいかな。あんたは?」

「俺もこっちだよ。20分くらい掛かるけど」

「ふーん。結構うちと近いんじゃない?」

「かもな」


 全く同じ方向ではないだろうが、それでも徒歩で行ける距離だろう。


「中学は一緒じゃないわよね?」

「違うだろ。お前が同じ中学だったらわかると思う」


 美人で男にモテるからな。3年も過ごせば認識くらいするはずだ。


 第一、俺のことを知らないのもおかしいし。


「ふーん、そっか」


 その後、適当に話しながら歩いた。


 住宅地へと入り、5分程歩いたところにある十字路で、俺たちは別れた。


 舞岡家はすぐ近くらしい。学校から近くて羨ましいな。






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