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15話 狼狽え過ぎだろ

 校舎の入り口、朝の光が斜めに差し込む昇降口。


 登校してくる生徒たちの喧騒の中、下駄箱の前で靴を履き替えている舞岡の姿が目に入った。


 昨日の嘘告白には腹を立ててしまったが、一晩寝て頭が冷え、気分も落ち着いている。


 周りには登校してきた生徒たちがちらほらいる。ここは笑顔を作って挨拶だ。


「おはよう、舞岡さん」


 俺は口角を上げ、爽やかな笑顔を彼女に向ける。


 舞岡は「ヒッ……!」と短い悲鳴を上げ、肩をびくつかせた。


「み、三島君……! おはっ……おは…………よう……! アレの件は、その……まだ心の準備が……」

「狼狽え過ぎだろ」


 視線を泳がせながら、顔面蒼白で冷や汗をだらだら流す舞岡。まるでホラー映画のモブキャラだ。大丈夫かこいつ。


 何やら挙動不審な舞岡を怪訝に思いながら靴を履き替えていると、周りからひそひそ話す声が耳に届いた。


「(あれが噂のカップルだよ)」

「(あの教室で派手に告白して付き合ったっていう?)」

「(そうそう。壁ドンされて好きになったとかチョロくない?)」

「(てかあの人が壁ドンとかしてたんだ。ぷっ笑)」


 ……泣きそう。


 まさかこんな理不尽な嘲笑をされるとは。


 俺は外履きの靴を下駄箱に押し込み、もう片方の手で、零れそうになる涙をそっと拭った。


「……おい」

「ひぐっ……」


 隣で冷や汗を流している舞岡に声を掛けると、また舞岡は肩を震わせ、顔を引きつらせる。


「……何でしょう……?」

「お前のせいでめちゃくちゃ噂されてるんだけど」

「ぅ…………ごめんなさい……」


 舞岡は消え入りそうな声で言いながら俯く。


 思いの外素直に謝ったな……何だか反省しているように見えるし、仕方がないから許してやるか。


「まあいいけど。とにかく教室へ行こう」

「はぃ……」


 俺が歩き出すと、彼女は半歩程後ろを控えめな様子でついてきた。


 2階まで上がると、自然と横に並んで教室へと向かう。


 廊下を歩きながら、舞岡がちらちらと窺うように俺を見てくる。


「何だよ。俺の顔に何かついてるか?」

「いえ、別に……今日も爽やかで良いと思います」

「はぁ?」


 思わず顔を顰める。


 彼女の様子がおかしい。いつもならふてぶてしく軽口を言い返してくるのに、今日は何だかよそよそしく、機嫌を取るようなお世辞まで口にする。というより、少し怯えているような……昨日怒り過ぎただろうか。


 あ、そう言えば、後で謝ろうと思ってたんだった。忘れてた。うーん……でもまあいいか。しおらしくてこっちの方が良いし。


 舞岡の様子を窺いながら歩いていると、ふと彼女の肩に付いている、白い糸くずのようなものが目に入った。


「なあ、こんなところに糸──」


 俺は何の気なしに、それを取ってやろうと、彼女の肩へ手を伸ばす。


「えっ!? ちょっ! そ、そんな、こんなところで駄目!」

「ぐふぉっ……!」


 突然鳩尾に両手の掌底が入る。


 視界が火花を散らし、俺の体は廊下の壁に激しく叩きつけられた。ガクッと足がよろける。


「っ……くっ……いってえ! 何すんだよ!?」

「あ、あんたこそ、こんなところで何する気なの!?」


 舞岡は顔を真っ赤にしながら、身を守るように両腕で体を抱く。マジかよ。俺が何したって言うんだ。


「何って、お前の肩に糸くずみたいなものが付いてたから取ってやろうとしただけだろ!」

「へっ……? 糸くず?」


 舞岡はきょとんとしながら右肩を見る。


「……あ、ほんとだ」


 彼女は小さく呟き、その糸くずを取った。ほんとだじゃねーよ。


 周囲では、「どうしたどうした?」と生徒たちがこちらに注目し始め、「いきなり痴話喧嘩?」とか聞こえてきた。


 しまった。俺としたことがまた人目があることを忘れて声を荒げてしまった。だって痛かったし。


 俺は小さく深呼吸してから、何事も無かったかのようにゆっくり立ち上がる。


「ごめん。ちょっと驚かせたかな」

「あ、うん。大丈夫……」

「そっか。じゃあ教室行こっか」

「……うん」


 再び舞岡と並んで歩き始める。


 周囲からは「何事もないみたいね」とか、「良かった良かった」などと聞こえてきた。


「……お前、何なんだよさっきのは」

「ごめんなさい……」


 舞岡はしょんぼりと俯く。


 ……本当に今日は大人しいな。逆に心配になる。


 2人で教室へ入ると、クラスメイトたちの視線が一斉にこちらへ向いた。


 彼らの目には、まるで一緒に登校した初々しいカップルみたいに見えているだろう。


 嘘でも恋人になったからには、舞岡とは仲良くしておいた方がいい。恋人に冷たくすると男女関係なく嫌われそうだ。


「じゃあ舞岡さん、また後でね」

「う、うん」


 笑顔で舞岡と別れ、最後列へと歩く。自分の席まで来ると、机の脇に鞄を掛け、腰を下ろす。


「「「…………」」」


 男子たちの視線が痛い。殺気を感じる。


 昨日は放課後になった瞬間に逃走したので無事だったが、ここに長居すれば命の危機かもしれない。特に昨日の今日だ。


 俺は居た堪れなくなり、そそくさと教室を出た。特に目的地もないまま、廊下を歩く。


 男子たちが面倒臭いなぁ。何日くらい続くんだろう。時間が経てばほとぼりが冷めると思うんだけど。早く収まってくれないだろうか。

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